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お嬢様とゾウ

「わわっ!?」


 ものすごい勢いで通り過ぎた赤いドレスの女の子は、すぐさまはなちゃんの前で大騒ぎ。


「あなたがゾウなのですね? わたくしこんな大きい動物さんを見るのは初めてですわ!」

「ブロロロ……」


 ピョンピョン跳ねてハイテンションな女の子に、はなちゃんはうなり声を上げて戸惑っている様子。


「これこれお嬢様。落ち着きなされ」


 そばで見ていた執事みたいな男の人がなだめると、女の子はハッと目を見開いてから佇まいを直した。


「これは失礼、わたくしとしたことがお見苦しいお姿をお見せしてしまいましたわ」


 そう取り繕いながら女の子はオホホと上品に笑う。


 少し遅れてメイドみたいな女の人も慌ただしく駆けつけてきた。


「はあ、はあ、急に走り出したら危ないですよロゼお嬢様」

「ごめんなさいアリシア、でもわたくしゾウを見ていてもたってもいられなくなったのですわ」


 メイドさんに叱られて、女の子は少ししょんぼりとしてしまう。


「あ、あの……どちらさまでしょうか?」


 キョトンとした僕の問いかけに、執事さんが答えてくれた。


「これはこれは紹介が遅れましたな。こちらはプレアデス家の一人娘ローゼンメイル様でございます。ちなみに私はゴードン、プレアデス家の執事を務めております」

「ローゼンメイル・フローラル・プレアデスですわ。以後お見知りおきを」


 ゴードンさんの紹介でローゼンメイル様がドレスの裾をつまんで上品に挨拶する。


 領主様の娘、つまり本物のお姫様……!


「ぼぼぼ、僕は悠希ですっ! あ、あのっ、この度は……!」


 正真正銘のお姫様を前に緊張でガチガチになっていたら、ローゼンメイル様はくすりと笑った。


「うふふ、そのように緊張なさらなくても大丈夫ですわよユウキちゃま。リラックス、リラックスですわ」

「は、はあ」


 彼女の穏やかな微笑みに、僕も肩でガチガチになっていた力がすーっと抜けていくのを感じる。


 さすがは本物のお姫様、物腰が柔らかくてとっても高貴だよ。


 そうかと思っていたら、ローゼンメイル様が緑色の瞳をこれでもかと光らせてはしゃぎ始める。


「それはそうとっ、そちらの大きな動物さんはゾウでございましょう!?」

「はい! 紹介しますね、こちらは僕の親友のはなちゃん。――ほら、はなちゃんも挨拶だよ」

「パオン」


 僕が顔をポンポンと叩いて促すと、はなちゃんは鼻を軽く上げてご挨拶。


 するとローゼンメイル様はキャハハと年相応の子供みたいな笑い声をあげた。


「本当にゾウなのですね! それにしてもお利口ですこと! ――わたくしもお触りしてもよろしくて?」

「もちろんです! はなちゃんは人との触れ合いも大好きですから!」

「ありがとうございますわ。それではお言葉に甘えて。はなちゃま、よろしくお願いしますわ」


 またドレスの裾をつまんでから、ローゼンメイル様はおしとやかにはなちゃんに歩み寄る。


「本当に大丈夫なのでしょうか? お嬢様にお怪我をさせるようなことにはならないですよね……?」

「安心してくださいお二人とも、はなちゃんはとっても優しいゾウですから」


 執事のゴードンさんとメイドのアリシアさんがオロオロしている間に、ローゼンメイル様が白くて小さな手をはなちゃんの鼻に添えた。


「まあ、思いの外固いのですわね。そして暖かい……」

「プオ」


 一声あげたはなちゃんが長い鼻をローゼンメイル様の華奢な身体に絡める。


「まあ」

「「お嬢様!?」」


「大丈夫です。これがはなちゃんなりの信愛の挨拶みたいなものですから」


 はなちゃんのたくましい鼻がローゼンメイル様を巻き付けたらゴードンさんとアリシアさんが顔面蒼白になったので、僕はすかさずフォローをいれた。


「とても力がお強いのですね。それでいて優しさも感じますわ。やはり素敵です……!」


 長い鼻に絡まれたままローゼンメイル様ははなちゃんの顔に身を委ねてうっとりとした表情。


 このお姫様、本当に動物が好きなんだね。


 それならあれも喜んでくれるに違いない!


「ローゼンメイル様、もしよければはなちゃんに乗ってみませんか?」

「そんなこともできるのですか!?」


 僕の提案で興味津々に目を輝かせるローゼンメイル様。


「はい! こんなこと他ではなかなかできないですよ!」

「わたくしもはなちゃまに乗りたいですわ!」

「それじゃあ決まりですね。はなちゃん、お座り」

「パオ」


 僕の指示ではなちゃんは四本の脚を曲げて座る。


 それから僕がはなちゃんの背中に改めて乗ると、ローゼンメイル様たち三人から歓声が上がった。


「ローゼンメイル様、こちらへどうぞ」

「それではお言葉に甘えて」


 ローゼンメイル様の手を僕が引いて彼女をその背中に乗せたところで、はなちゃんが再び立ち上がる。


「わ~っ、とってもお高いですわ~!」

「ゴードンさん、こちらの庭を一周してもいいですか?」

「それはもちろん構いませんが……」

「ありがとうございます。はなちゃん、お願い」

「パオン」


 僕がその頭を軽く叩くと、はなちゃんはゆっくりと歩きだした。


「思ったよりも揺れるのですね」

「はい。でも慣れたらそれも気持ちよくなりますよ」


 のっしのっしと庭を歩くはなちゃんに乗って、ローゼンメイル様は心底楽しそうに笑っている。


「これは本当に夢心地みたいですわ!」

「喜んでいただけてこちらも嬉しいです」


 こうして僕はローゼンメイル様と一緒にはなちゃんの背中に揺られて、楽しい時間を過ごしたんだ。

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