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領主様のお屋敷

 ワイバーンを一掃した後、僕たちは兵隊さんたちがいる馬車に歩み寄る。


「皆さん怪我はないですか?」

「ああ。君たちが助けに入ってきてくれたおかげで、我々も無傷で済んだ」


 そう報告したのは一際立派な体格をした、白い虎のような顔をした男の人。


「えーと、あなたも獣人の方なんですよね?」

「おっと、自己紹介が遅れたな。我はベイルガード、プレアデス領騎士団の団長を務めている」

「僕は悠希、こちらがはなちゃんです」

「ユウキ君か。騎士団長の代表として、助けていただいたこと感謝する」


 それからベイルガードさんは頭を下げて感謝を告げた。


「いえいえ! 僕はただ皆さんが困ってるのを見て放っておけなかっただけでして。それに最初に気づいたのははなちゃんなんです」

「その巨大な獣のことか?」

「パオ!」


 ベイルガードさんの言葉に、はなちゃんが鼻を軽く上げて返事をする。


 それからはなちゃんが長い鼻を伸ばして兵隊さんを驚かせてしまったので、僕はすぐに止めた。


「ダメでしょはなちゃん、いきなり鼻を伸ばしちゃ」

「プオ」


 僕がはなちゃんをたしなめると、ベイルガードさんは爽やかに笑う。


「ははは、大きいだけでなくとてもお利口な獣みたいだな。もしかしたら村に残した我が息子よりも賢いかも知れん。あいつは未だに好きな女の子に嫌がらせをしてばっかだろうからな」

「そ、そうなんですね。あはは……」


 なんだろう、その息子さんに心当たりがあるんだけど。


「それはともかくだ、ユウキ君は独りでどこへ行くつもりだったのだ?」

「実は僕たち、プレアデス領の領主様に招待されたんです。それで今アルキオネタウンに向かってる最中でして」


 僕が説明すると、ベイルガードさんはあごをなでてこんなことを。


「アルキオネタウンか。我々もちょうどそちらに向かうところだったのだ。良ければ道案内がてらお供致そうか?」

「いいんですか、ありがとうございます! それではお言葉に甘えますね」


 こうして僕とはなちゃんはベイルガードさんたち騎士団に同行することになったんだ。


 それから僕ははなちゃんの背中で、騎士団の馬車と平行して歩き続ける。


 騎士団長のベイルガードさんが思ったよりも気さくな人で、案外お話が盛り上がったんだ。


「ほう。最近シーフゲッコーの女王個体(クイーン)が討伐されたときいたが、まさか君のことだったとはな。危険な種を事前に取り除いてくれて、騎士団長としても感謝せねば」

「いえいえ、そんな! 僕はただ大切な人を助けようとしただけなんです」

「それならばなおさら勇敢なことじゃないか。我は君を尊敬するぞ、小さき勇者君」

「勇者だなんてそんな、あはは……」


 ベイルガードさんの厚い称賛に、僕は気恥ずかしくなってしまった。



 いろいろと話している間に、僕たちはアルキオネタウンにたどり着く。


「ここがアルキオネタウン……」


 領主様がいるっていうからどんな賑わった場所かと思ったら、案外素朴で静かそうな片田舎に見えた。


「ここに領主様のお屋敷があるんですよね、思っていたのと違うんですけど」

「領主様はこういうのどかな場所がお好きでな、この町も好きで住んでいるみたいなのだ」


 そうなんだ、領主様の趣味なんだね。


 町に入ると、ところどころで風車が回るのどかな田園風景に僕も心が癒されるようだった。


 うちの村よりも建物自体はしっかりしてるみたいだけど、なんか雰囲気が似てるよね。


 道行く人々は僕とはなちゃんを見て一瞬ビックリしたような目を向けるけど、すぐに自分たちのやることに戻っている。

 ここだったらゾウのはなちゃんも馴染めそうかも。


 そんなことを思いながら進んでいると、ベイルガードさんたち騎士団が大きなお屋敷の前で馬車を止めた。


「ここが領主様のお屋敷なんですね」


 おもむろにベイルガードさんがうなづく通り、僕の目の前にあるレンガ造りのお屋敷はやっぱり領主様のなんだ。


 大きくて立派な門の前ではなちゃんから降りると、あくびをしていた二人の門番がハッと目を覚まし、槍を交差させて僕たちを止める。


「止まれ。ここから先は領主様のお屋敷だ」

「あのっ、領主様からこれを預かっているんですけど」


 僕がギルドで渡された領主様の紹介状を取り出すと、門番の人が槍をどけてくれた。


「これは失礼したっ。通れ」

「ありがとうございます」


 お墨付きもいただいたところで門をくぐろうとした僕は、踵を返そうとするベイルガードさんたちが気になる。


「どうしたんですかベイルガードさん?」

「我々は別の用事があるのでな。構わず行ってくれ」

「分かりました」


 ベイルガードさんに見送られて門をくぐると、入り口までの一本道の両サイドがバラの生け垣と庭がすこく上品できれいだった。

 こういうのを麗しいっていうのかな?


「ちょっとはなちゃん、ダメだよバラを食べようとしちゃ」

「……パオ」


 生け垣のバラに長い鼻を伸ばそうとしたはなちゃんをたしなめつつお屋敷の扉の前に着くと、タキシード姿で整えられた白髪の男の人が出迎えてくれる。


「ようこそユウキ殿、話は領主様からうかがっております。ささ、どうぞ」


 いかにも執事って感じなタキシードの男が合図をすると、大きな扉がグググ……と開き始めた。


 すると突然きらびやかなドレスを着た女の子が、扉の内側から飛び出してきた。


「こちらがゾウですのね!?」


 濃いめのピンク色をした髪の女の子が着ているひらひらとした赤いドレスは、いかにもお姫様って感じで僕よりも年下に見えながらとっても上品できれい。


 そんな麗しい女の子がはなちゃんの前に、赤いドレスをはためかせて駆け寄ってきたんだ。

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