異世界生活の近況
成り行きで討伐したシーフゲッコーの女王なんだけど、あの後アレックスさんに功績を譲ろうとしたら断られてしまった。
なんでも自分たちに倒せっこない魔物の手柄をもらったところで身に余るとのこと。
それだったら実際に討伐した僕たちがそのまま手柄にした方が面倒もなくていいって。
うーん、そんなものなのかな……?
腑に落ちなかったけどセレナさんもアレックスさんたちと同じ意見だったので、とりあえず戦利品として女王の首をアトラスシティーの冒険者ギルドに持ち帰ることにした。
ギルドでその首を提出して報告するなりギルドマスター沙汰になっちゃったけど、そのおかげで僕の冒険者としてのランクが初級から一気に中級にまで上がったんだ。
緑色だったギルドカードがあっという間に銀色のものに変わって、僕は思わず見とれてしまった。
かなりの報酬も同時にもらったところでルナちゃんのおうちに帰るなり、ゲイツさんとユノさんに泣いて僕たちを抱きしめられたんだ。
ルナちゃんを危険に晒したんだからてっきり怒られるかと思ったけど、どうも違ったみたい。
こうして僕たちの日常はまた元に戻ったってわけ。
翌日からは日課のはなちゃんと水浴びの後、僕は先に帰って身体を鍛えることにした。
はなちゃんに頼りきりな僕個人の弱さが明らかになったからね、今度は僕一人の力でも大切な人を守れるようにしたいと思ったんだ。
体育の授業でかじった腕立て腹筋背筋を始めたら、どこからかやってきた猫耳のワイツ君が窓を覗き込んでくる。
「あれ、ルナはいねーのか?」
「ルナちゃんならちょっと村のお花畑に寄ってから帰るって言ってたよ」
「そうか。それよりユウキ、おまえ面白そうなことやってるじゃねーか。オレにも教えてくれよ!」
「いいよ。どうせなら一緒にやろう、ワイツ君!」
「お、おう」
僕の誘いにワイツ君はほんの少し頬を染めて応じてくれた。
普段から独りで鍛えてたっていうから、友達と一緒にやるのは慣れてないのかなあ?
ワイツ君を招いて二人でやったら、不思議と筋トレもはかどったんだ。
続いてワイツ君の提案でランニングをすることに。
だけどワイツ君の走るペースが速すぎて、僕はついていくのがやっと。
「はあ、はあ、待ってよワイツく~ん!」
「はあ? もう息切れかよ。やっぱりおまえ体力ねーなあ!」
「ううっ」
ワイツ君の的を得た言葉に、僕は胸を突かれてしまう。
そうだ、僕がひ弱だからあのときもルナちゃんを守れなかったんだ!
その心が僕の身体に鞭を打つ。
「うおおおおお!!」
「お、まだまだいけるじゃねーか。それじゃあもっといくぜ!」
「うん!」
山の中までランニングをしたら、さすがにもう体力の限界で大の字に寝そべってしまった。
「はあ、はあ、もうダメ……」
「まあヒョロガリにしては頑張ったじゃん」
そう労うワイツ君は、爽やかな笑顔で手をさしのべてくれる。
「ありがとうワイツ君」
ワイツ君の手をとって立ち上がると、今度ははなちゃんものっしのっしとやってきて、なにやら仲間に入れてほしそうな感じで見つめてくる。
「もしかして一緒にやりたいの? はなちゃんには必要ないんじゃ……」
「ブロロロロ……」
むすっとした顔になったはなちゃんが、僕の腕に長い鼻をJの字にしてかけた。
「ん? どうしたの?」
「なあユウキ、そいつの鼻で懸垂したらいいんじゃね?」
「おお、ナイスアイディアだよワイツ君!」
「パオ」
こうして筋トレのメニューにはなちゃんの鼻での懸垂も加わることに。
時々はなちゃんが鼻を高く上げるからちょっと怖かったけど、これはこれで新鮮な感じだったよ。
ワイツ君と仲良く身体を鍛えていたら、ルナちゃんが息を切らして駆けつけてきた。
「全く、帰ってきたらワイツくんと一緒に行っちゃったっていうから。まさかこんなところまでとは思わなかったですよ……!」
「ルナじゃねーか。オレさ、ユウキの奴を鍛えてやってたんだぜ?」
そう報告して馴れ馴れしい態度なワイツ君に、ルナちゃんはジト目で冷ややかな態度。
「それはどうもです。ですけど、ルナにそんな気安く触れないでくださいっ」
「ったく、ルナも相変わらず冷てーなあ!」
「ワイツ君ももう嫌がらせはやめたんでしょ? だったらルナちゃんもワイツ君と仲良くしたらいいのに」
僕の提案でルナちゃんは渋々といった感じで了承した。
「ユウキくんがそう言うなら仕方ないですね~」
「なんだよ、結局ユウキのいうことは聞くのかよっ」
そんなルナちゃんにワイツ君は頭の後ろで腕を組んで不服な様子。
そんな二人に僕は思わず吹き出してしまった。
「ぷふっ、あはははっ」
「「何がおかしいん(だよ)(ですか)?」」
「いやー、二人とも素直じゃないけどなんだかんだ仲良しなんだな~って」
「それはルナとワイツくんは腐れ縁ですし?」
「そこは幼馴染みって言ってくれよ!?」
ワイツ君が怒るけど、直後に僕たち三人はどっと笑いだす。
やっぱりみんな仲良しが一番だよね!
そんなことを思っていたら、はなちゃんが巨体を割り込ませてきた。
「パオ」
「うんうん、はなちゃんも仲良しの友達だよ」
はなちゃんの鼻をなでながら、僕はそう優しく語りかける。
最初はどうなるかと思った異世界生活だけど、今じゃすっごく楽しいな!
これで第一部は一段落です。
今後は続きを書いていくので、しばしお待ちを( ̄▽ ̄;)




