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異世界的な遭遇

「今のは!?」


 慌てて身体を起こした僕は、はなちゃんの元に駆け寄る。


「はなちゃん! もう一回僕を乗せて!」

「プオ!」


 そうしてもう一度はなちゃんの背中に乗った僕は、さっきの声がした方向に向かわせた。


「急いで、はなちゃん!」

「パオ!」


 僕が声をかけると、はなちゃんは歩みをぐんぐん速めていく。


 ゾウって全速力だと時速四十キロ出るって図鑑に書いてあったけど、今のはなちゃんもそれくらい速いのかなぁ?

 だけどその分揺れもすごいから、振り落とされないようしがみつくのがやっとだよ。


 ほどなくして僕たちが森で切り開かれた道に出ると、そこには僕と同い年くらいの女の子と、それを囲む変な生き物たちの姿があった。


「あれは!」


 でっぷりと腹が出た大柄な身体に豚のような顔。

 背丈が二メートルはある二本足の豚みたいなその姿に、僕は見覚えがあった。


 あれはオーク!?

 確かゲームなんかでそんなのがいた気がする。

 頭に何か赤い結晶みたいなのもついてるけど、さすがにこんな情報はなかったと思う。


 だけどゲームに出てくるようなのがなんでこんなところに……!?


「いや~っ! 助けて……!!」


 おっと、今はこんなことを考えてる場合じゃない。金髪の可愛い女の子がオークに襲われているんだ!


 そんな僕の意志に応えるよう、はなちゃんがオークたちと女の子を巨体で遮るように躍り出る。


「パァン! ズオオオオオオオオ!!」


「ブヒッ!?」


「な、何なんですか……!?」


 突然現れた巨大な動物にビックリしたのか、オークたちも女の子も目を見開いていて。


 だけどオークの一人?がすぐに粗末な棍棒を振りかざし、はなちゃんに突進してきた。


「ビギイイイイイイ!!」

「ひっ!?」


 オークの気迫に僕はビビっちゃったけど、はなちゃんは違う。


「ズオオオオオン!!」


 重低音の唸り声をあげながら、突っ込んできたオークを長い鼻でどついた。


「ピギッ!?」


 突き飛ばされたオークはものすごい勢いで背後の木に叩きつけられて、そのまま動かなくなってしまう。


「ビギィ……!」


「パオオオオオオオン!!」


「ブギ~~~!!」


 大きな耳を目一杯広げたはなちゃんの剣幕に、残りのオークたちは一目散に逃げていった。


「一体何が起きたんですか……!?」


 目を白黒させる女の子にはなちゃんが振り向くと、彼女は腰を抜かしたまま後ずさる。


「ひいっ! る、ルナなんて食べても美味しくないですよ~!?」


 あれ、もしかして怖がってる?


「はなちゃんは怖くないよ」


「誰かいるんですか?」


 すみれ色の目をパチクリとさせる女の子の前で、僕ははなちゃんをしゃがませて降りた。


「はなちゃんはきみを食べたりなんかしないよ。だから安心して」


「……は、はあ」


 キョトンとするその女の子を、僕は改めて見てみる。


 三日月のような留め具で二つに結んだ長い金髪に、子供ながら整った目鼻立ちと染み一つ見当たらない白い肌。

 白いブラウスと紫色のヨーロッパ的なスカートが、彼女を可愛らしく見せている。


「あ、あの……」

「ん、なに?」

「……あなたはどうしてそのような姿を?」

「え」


 ジト目な女の子に言われて僕は初めて気づいた、今自分がパンツ一丁であることに。

 そうだ、こっち来るのに服着るの忘れてた!


「わわわっ、ごめん!!」


 慌てて僕が身体を隠すのと同時に、はなちゃんが足早に元来た道を戻っていく。


「待ってよはなちゃん! どこ行くの~!?」


 僕の呼び止めもむなしく、はなちゃんの大きな身体は森の茂みに消えてしまった。


「行っちゃった……」


 途方に暮れる僕に、助けた女の子が声をかけてくれる。


「あの……、大丈夫ですか?」

「う、うう……。きみって優しいんだね」

「え、そうですか?」


 女の子はキョトンとした顔だけど、突然現れた半裸の男子を心配するなんて思いやりはなかなかできないと思うよ。


 そんなことを思っていたら、茂みを揺らしてはなちゃんが戻ってくる。


「はなちゃん! さっきは急にどうしたの!?」

「パオ」


 はなちゃんが鼻で差し出したのは、さっき僕が置いてきた服だった。


「そっか、服を取りに戻ってくれたんだね。ありがとう、はなちゃん」

「プオ」


 僕が鼻をなでてあげると、はなちゃんは嬉しそうに顔を揺らす。


 えへへ、やっぱりはなちゃんは可愛いなあ。


「へくちゅっ」


 おっと、せっかく持ってきてくれた服を着なくちゃ。

 じゃないと風邪引いちゃうし、何よりここにいる女の子に顔見せができないよ。


 手早く着替えると、女の子がこんなことを質問してくる。


「あの……、助けていただいたところ失礼ですが、あなたは何者なんですか? 見たことのない服装ですし、何よりそんな大きい動物を連れているなんて」

「自己紹介が遅れちゃったね。僕は東雲(しののめ)悠希(ゆうき)、こっちはゾウのはなちゃんだよ」

「パオ」


「しののめゆーき? 変わったお名前ですね。それにぞう? こちらも聞いたことのない動物のお名前です」


 首をかしげながらたどたどしい口で僕の名前を復唱する女の子。


「あ、悠希が名前というかファーストネームで、東雲が名字というかファミリーネームだよ。僕のことは悠希って呼んで」

「はい。ユウキくん、でよろしいのですね。ルナ、ルナ・レイスです。よろしくお願いします」


 胸に手を当てて自己紹介したルナちゃんは、ぎこちなくお辞儀をする。


 やっぱり外国人だった!


 あれ、それじゃあなんでこんな流暢な日本語を話してるんだろ?


「ルナちゃん、きみって外国人みたいに見えるのに日本語が上手なんだね」

「にほんご……? ……何ですかそれは?」

「え、だってきみ日本人の僕とこうして普通に会話してるじゃん」

「……そもそもにほんって何ですか? ユウキくんの口ぶりからすると国か地名のようですけど、そんなの聞いたこともないです」

「ええっ!?」


 ルナちゃんの思いもしなかった言葉に、僕は頭を思い切り殴られたような衝撃を心に受けた。


 仮にも先進国の一つの日本を知らない、現代にそんなことってあり得るの!?


 ――待って、そういえば僕の知ってる地球とは空の色が違うし、さっきはゲームの敵キャラだと思っていたオークだっていた。


 僕の頭には一つの仮説が浮かぶ。


 もしかしてここは僕が知る地球じゃなくて、異世界ってやつなのかも……?


「あの……つかぬことをお伺いしますけど、ここは何て場所なんでしょうか?」

「……変なことを訊くんですね。……ここはターラス王国に位置するプレアデス領です」

「た、ターラス王国!?」


 そんな名前の国なんて聞いたことないし、地図帳にも載ってない。


 にわかには信じられないけど、やっぱりここは異世界なんだ!

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