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暴食のグラタン

「見上ゲタ度胸ジャネエカ小僧。イイダロウ、俺サマノ名ハグラタン。竜王タイラント様ヨリ暴食ノ称号ヲ授ケラレシファットドラゴンダ!」


 巨漢ドラゴン改めグラタンに自己紹介されたとあれば、僕も名乗らずにはいられない。


「僕の名前は悠希、こっちがはなちゃんだ!」

「パオン!」


 僕の名乗りあげにはなちゃんも鼻をあげて返事をする。


「マズハテメエラカラ食ッテヤルゼ!!」


 そう宣言するや否や、グラタンがドスドスと地響きを立てながら突進してきた。


「はなちゃん、いける?」

「パオ!」

「よーし、じゃあ僕たちも突撃だよ!」

「パオーン!」


 対する僕たちも突撃を選んだことで、グラタンとはなちゃんの巨体同士がぶつかり合う。


 その衝撃の余波で周囲の窓がガタガタと音を立てた。


「グ、グヌヌヌヌヌ!?」


 だけど力比べでははなちゃんに分があったのか、がっぷり組み合ってるグラタンをどんどん押していく。


「ユウキくん!」

「大丈夫だよルナちゃん、僕たちがこいつをやっつけるから!」


 心配そうなルナちゃんに目配せをして、僕とはなちゃんはグラタンを住宅地から遠ざけるようにじりじりと押す。


「ズオオオオオオオ!!」

「ナ、ナンテ(ちから)ダ!」


 場所を移したところで、グラタンが力比べを諦めて後ろに飛び退いた。


 あの太った身体で意外な身のこなし!


 気がつくと村人たちがドラコと争う入り口付近に僕たちはいた。


「ゆー君!?」


「何だそいつは!」


 巨漢のグラタンを見て目を白黒させるセレナさんとゲイツさんに、僕はこう伝える。


「皆さん、こいつは僕がなんとかします! だから引き続きドラコをお願いします!」

「分かった。みんな、我々はドラコの奴らを片付けるぞ!」

「「「おー!!」」」


 どうやらみんなの士気もまだまだ上がるみたいで。


 僕たちも頑張らないと!


「絶対にあいつをやっつけよう、はなちゃん!」

「パオ!」

「ヘッ、ヤレルモンナラヤッテミヤガレ!」


 グラタンの安い挑発に僕たちはあえて乗り、再び突撃する。


「うおおおおおお!!」

「ズオオオオオオオン!!」


 再び組み合うグラタンとはなちゃん。


 だけどグラタンの口元がニヤリとつり上がったように見えた。

 次の瞬間、グラタンの額にある赤い結晶が禍々しく光を放ち始める。


「ユウキ君! 奴の魔法に気を付けろ!」


「え、魔法!?」


こいつ魔法使えるの!?


「クライヤガレ!!」


 グラタンの大きく開けられて魔法陣みたいなのを展開した口から、紅蓮の炎が至近距離で放たれようとした。


「――――!?」


「ゆー君!!」


 炎が放たれるまでがスローモーションに見える。


 ああ、そういえば地球でも僕って火事で命を落としたんだっけ。


 それを思い出した途端、僕の心にどうしようもない恐怖が襲いかかる。

 二回目の人生も炎で終わらされる、そして死ぬ……。


 絶望しかけたその時だった、僕の頭に一人の女の子の顔が浮かんだ。


 朗らかに笑って僕を頼りにしてくれる女の子のルナちゃん、この世界で初めてできた僕の友達。


 僕が今死んだらルナちゃんが絶対に悲しむ、僕も彼女の顔を見られなくなる。……そんなのは嫌だ!!


 目を見開いた次の瞬間、頭の中に流れたフレーズを僕は無意識的に口にした。


「――マジックシールド」


 その言葉と共に大きく耳を開いたはなちゃんを包むように、ピンク色のバリアみたいなのが展開される。


「ナニィ!?」


 グラタンの炎はそのバリアに阻まれて、僕たちに届くことはなかった。


「今のは魔法か……?」

「しかもはなちゃんが!?」


 ゲイツさんとセレナさんが目を見開いてるけど、今はそれよりもグラタンの相手をするのが最優先だ!


「ヤロウ!!」


 自慢の炎を防がれて怒り狂ったグラタンが、鋭い爪のついた手を振るう。


 ピンク色のバリアをすり抜けるグラタンの平手打ち、だけど僕の頭には次のフレーズが浮かんでいた。


「クレイアーマー」


 そう唱えた途端はなちゃんの顔を土が鎧のように覆い、グラタンの平手打ちを防ぐ。


「ナンダト!?」


「次はこっちの番だよ! はなちゃん、――ストーン・ショット!!」

「パオーン!!」


 次のフレーズを唱えると、はなちゃんの鼻から石の礫が機関銃のように放たれた。


「グガガガガガガ!?」


 礫の乱射に怯んだグラタンが後退ったところで、僕は更なる追撃に出る。


「ブレスブリザード!」

「ズオオオオオオオオ!!」


 すると今度ははなちゃんの鼻から吹雪のように強烈な冷気が放たれた。


「アアアアアアアアア!!」


 その冷気でグラタンが凍りつき、僕はトドメの必殺技を叫ぶ。


「これで決めるよ! ――グランドスラッガアアアアアアアアア!!」

「ズオオオオオオオン!!」


 土がまとわれて極太のバットみたいになった鼻を、はなちゃんがグラタンに向けて豪快に振るった。


 それでグラタンはホームランのようにかっ飛ばされて、お空の彼方で星になって見えなくなってしまう。


 それを見たドラコたちも大将がやられたせいか、一斉に退散していった。


「やった、のか……!?」


「……すごいよゆー君!!」


「「「うおおおおおおおおおお!!」」」


 村人たちが僕たちを囲んで勝利の雄叫びをあげる。


「僕たちが……やっつけたんだ……!」


 勝利を噛み締める僕の胸には、今までに感じたことのない高揚が湧いてくる。


 僕たちの勝利だ!


 そんな感じで腕を突き上げていたら、ふと建物の陰に隠れていた男の子と目が合う。


 あの猫耳、ワイツ君だ。


「…………っ」


 僕から目をそらしてすぐにこの場を走り去ってしまうワイツ君、その後ろ姿はどこか悔しそうな様子に見えて。


 ワイツ君、どうしたんだろう……?

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