異世界の街とゾウ
目の前には村を囲っていたものより二倍も三倍も大きくて立派な柵があって、その入り口には槍を持った二人の門番が待ち構えている。
僕たちが門を通ろうとすると、門番が慌てた様子で槍を交差させて道を塞いだ。
「と、止まれ!」
「なんだこのデカブツは!?」
ああ、この台詞は何回目だろう……。
ワンパターンになってきたはなちゃんへの態度に僕が呆れていると、馬に乗ったゲイツさんが前に歩み出た。
「私の連れだ。とりあえず入場手続きをしたい」
「そうか。……しかしあのようなデカい動物をいれて大丈夫なのか?」
「それは問題ない。ゾウというのだがあの動物は大人しくて賢い。人を襲うようなことはないだろう」
「そ、そうか。なら入場手続きをしよう」
ゲイツさんの交渉のおかげで、僕たちは街に入ることができた。
「すごいですねゲイツさん。あんな怖そうな門番とお話しできるなんて」
「うちのお父さんはこの辺りだと結構顔が利くんだよ~」
そうなんだセレナさん。
手続きが終わったところで入り口をくぐると、広がっていたのは村の家々よりも立派なレンガ造りの建物が立ち並ぶ街並みだった。
「わ~、すごーい!」
「ユウキくんは街も初めてなんですか?」
「うーん。僕も街には住んでいたんだけど、こんなきれいな感じじゃなかったな~」
東京はところ狭しと灰色のビルが密集してて窮屈だったからね。
それに引き換えこの街はヨーロッパの古き街並みって感じで、見ているだけでワクワクしちゃうよ。
「ユウキくんが楽しそうで何よりですっ」
「それにしてもルナちゃん、ここってずいぶん賑やかなんだね~」
街に入ってすぐだっていうのに、大勢の人が行き交っていてとても賑わっている。
するとゲイツさんがこんなことを。
「このアトラスシティーはな、王都アル・デ・バランとの中継地なんだ」
「中継地?」
僕が頭にはてなマークを浮かべると、続いてセレナさんが補足する。
「この辺りって森が多いしこの先には山もあるんだけど、そういうところって危険な魔物とかが多いからね。開拓されたこの街を中継してアル・デ・バランに行くのが安全なんだよ~」
「へ~、セレナさんもよく知ってるんですね」
「えっへん! 分からないことがあったらお姉ちゃんに何でも訊いてね~!」
大きな胸を張って誇らしげなセレナさんに、僕もくすりときてしまった。
それはそうとやっぱり異世界にも異世界なりの事情があるんだね。
そんなこんなでゲイツさんが馬を繋留したところで、僕もはなちゃんを置いていこうとしたんだけど。
「プオオオ……」
「え、どうしたのはなちゃん?」
「もしかして、ゆー君と一緒に行きたいんじゃないの?」
「パオ」
置いていかれることを拒むはなちゃんに、僕たちは顔を見合わせて困ってしまう。
「どうする? このままはなちゃんを置いていくのも可哀想だよね?」
「だけどお姉ちゃん、街の中で身体の大きなはなちゃんを連れ歩いて大丈夫なんでしょうか?」
相談し合う姉妹をよそに、はなちゃんはさらに駄々をこね始めた。
「プオオオオオオオオン!! ズオオオオオオオ!!」
ドスドスと足踏みをして鳴き叫ぶはなちゃんに、周りの馬たちもビックリして騒ぎだす。
うわあ、周りの人たちもこっち見てるよ……。
「しょうがない、はなちゃんも連れていこっ」
「パオン」
僕の一言ではなちゃんは今までの暴れっぷりが嘘のように大人しくなった。
こうして僕たちははなちゃんも連れて、街並みを行くことに。
巨大なはなちゃんの隣で歩いていると、僕に好奇の視線がグサグサと突き刺さる。
「ブロロロロ……」
そんな僕を見つめるはなちゃんの目はなんだか申し訳なさそうに見えて。
「大丈夫だよはなちゃん、僕は気にしてないから」
「……プオ」
ふと爽やかな風が吹いてきたときだった、突然はなちゃんがどこかに向けて一直線に駆け出した。
「ちょっと、はなちゃん!?」
足早に進むはなちゃんを、街行く人たちが慌てて避けてちょっとしたパニックに。
「大変です!」
「早く追いかけないと!」
僕たちも慌てて追いかけると、その先にあった果物屋さんではなちゃんが店頭の果物を長い鼻で品定めしているところだった。
「な、なんだこいつ~!?」
店主のおじさんは見たこともないはずのゾウにビックリ仰天している。
「こら~はなちゃん! ダメじゃないかこんなことしちゃあ!」
「パオ!?」
息を切らして駆けつけた僕を見て、はなちゃんはドキッとした目を向けた。
「ほら、お店の人にも謝って!」
「……パオン」
僕の命令ではなちゃんは申し訳なさそうにお辞儀をすると、店主のおじさんは豪快に笑ってのける。
「はははは! 何かと思えばお利口な動物だったか! 見たこともないデカブツだったからビックリしたぞ!? どれ、わしにも見せてもらってもいいかな?」
それからおじさんははなちゃんを興味津々に見つめ始めた。
「ほうほう、デカいだけでなく見れば見るほど不思議な動物だ。君が飼い主なんだろ? まだ小さいのに立派なものだ」
「いえ……今の暴走も止められなかったんですけど……」
「いいってことよ! だってそれはうちの果物がうまそうだったってことだろ?」
ニカッと歯を出して笑うおじさんのいう通り、売場に並んでる果物は色とりどりでどれも美味しそうに見える。
そこへゲイツさんたちも遅れて駆けつけてきた。
「はあ、はあ、すまない。うちの連れが迷惑をかけてしまったようだ」
「気にすることはないさ!」
「しかし売り物の果物は……」
「確かに鼻水はつけられたけど、みんな無事だよっ」
確かにはなちゃんはまだ果物を食べていない。不幸中の幸いだったかもね。
おじさんは気にしていないようだったけど、お詫びとしてはなちゃんの鼻水まみれになった果物をゲイツさんが全て買い取ることでひとまず一件落着。
「んもう、次こんなことしたらもう連れていかないよ?」
「プオオオ……」
「まあまあ、そんなに目くじらを立てなくてもいいじゃないですかユウキくん」
「そうはいうけどねルナちゃん、誰かに迷惑をかけたら一番困るのははなちゃんなんだよ?」
たとえばもし通行人に怪我でもさせようものならはなちゃんがどんな目にあうか、僕は想像もしたくない。
だからこれからしつけはちゃんとしなくっちゃ。
「まあまあ。おかげでこんな美味しそうな果物が食べられるんだから、結果オーライだよ」
「それは誰が買い取ったと思うんだセレナよ」
籠一杯に買い取った果物をニコニコしながら抱えるセレナさんに対し、ゲイツさんはほとほと呆れ顔。
そうして歩き着いた広場で、僕たちはてんこ盛りの果物を食べることにした。




