登場、悪の大幹部! 【2】
「あー、もー、これだから、日本支部はいつまで経っても全然進展が無いのよ。いい事、良くお聞き」
人差し指をビシッと立てて、ムチムチプリンセス__ハッキリ言って嫌になりそうだが、確かに本人を前にすればこれ以上無い位似合いの名前では有る__が声の調子を1オクターブ上げた。
「いい事、この日本の利用価値はまず財政面。何だか最近不況とか言ってるけど、まだまだジャパンマネーは世界的な通貨として重宝されてるの。でも、我々にとってはそれ程重要な事でもないわ。我がデスハードが日本を最重要拠点の一つとして本腰を入れる真の理由、それは__」
今まで、そんな難しい事を考えた事も無かった一同は、このとてつもなく恥かしい服装と名前の大幹部の高説に、ほお、と感心して息を呑んだ。
「何と言ってもハイテク最先進国、技術立国ニッポンの科学力よ」
先程の国際的な話題に続いて今度は如何にも悪の組織らしいこの説明。この新任の大幹部は只者ではない。名は体を現すと言う言葉を力一杯体現する天衣無縫なチャレンジャーであるに加えて、人は見かけに寄らぬものと言う格言の権化のような女性らしい。一見矛盾する(?)二つの格言を巧みに使いこなす(?)恐るべき大幹部であった。
「どうしてロクに資源も無いこんな国が何でG7とか何とか言って先進国に名を連ねているのか、その“ヒケツ”は言うまでも無く世界に轟く高等科学技術、メイド・イン・ジャパンを世界的なブランドにまで高めたこの科学力なのよ」
ほお、と溜息をつくような雰囲気がアジトの中一杯に広がった。
「そしてそれを支えているのは国家プロジェクトでも一部の大学や大企業でもない。地場産業の地道な努力と実力こそがこの先端技術の底辺なの。博士号も肩書きも無いサラリーマンがノーベル賞取るような国なのよ。いい事、その科学力は点じゃなく面、つまりこの国全体が作り出しているの」
下っ端もプリンセスの演説に聞き入っていた。部下たちの、お追従ではない心底からの尊敬の眼差しに気をよくしたプリンセスは、腰に吊っていた鞭を手にすると勢い良く引っ張ってビシッ、と刺激的に小気味良い音を響かせた。
「つまり、これを利用しようと思ったら出来るだけ相手を刺激せず、自分たちが支配されていると言う意識さえ抱かせないようにして、あいつ等の技術だけをゴッソリ頂いちゃうように仕向ける必要が有るのよ」
おおーと、遂に拍手まで沸きあがり、まあまあ、とばかりに聴衆を手で制したプリンセスは益々上機嫌で演説を続けた。
「つまり、力押しの作戦じゃダメって事。連中が知らない間にその中に入り込み、必要な技術を作らせる。自分たちが悪の組織に利用されている事も気付かずにせっせと仕事に打ち込んで、知らない間に悪事の片棒を担がされているという寸法よ」
おお、とか、スゲエ、とかいう感歎の声がそこかしこに上がった。
「素朴な町工場の職人さんの職人気質を利用して世界制服の超兵器を完成させるヒレツ極まりない作戦。これよ、これぞまさしく王道を行く悪の真髄だわ。ああ、何て悪どいのかしら__」
プリンセスの瞳には、顕かに自分の才能に酔い痴れた者のみに許された、濃厚な輝きが宿っていた。
「いい事、これから私が指揮をとる以上は今までみたいなチャランポランな事は許さないからね。このわたしの、セクシーダイナマイツでグッドシェイプな、辛抱堪らん悩殺ナイスバディにかけて失敗は許されないのよ。キャッチフレーズは“天使のように繊細に、悪魔のように大胆に”よ!」
手下たちは感極まったように声を上げ、プリンセスは手にした鞭で床や壁や何か良く判らんセットをオホホホホホ、とビシビシ打ちまくり、アジトには時ならぬ盛り上がりが巻き起こった。