愛と正義の美麗戦隊! 【6】
五時限目が始まって幾らもしない、昼食が腹にもたれて気分も虚ろな昼下がりの三年A組。神愛美のブレスレッドが小さく明滅し、バイブレーションが起こった。
“もうこんな時にイ__”
愛美は忌々しげに舌打ちした。
“どうせだったら、授業が始まる前に呼び出してよ!”
そうは言ってもこのまま放っては置くと言う訳にもいくまい。
“しょうがないわねえ”
意を決した愛美は、胸を押さえて苦しげな呻き声を洩らした。
「ああー__」
机の上に蹲った愛美を、クラス一同、何とも言えぬ目で眺めていた。
「__どうした、神」
いつもの事だと大体心得ている教師が、またかという顔で愛美の方を見た。
「す、すいませえん__」
胸を押さえた愛美は、その美しい顔を苦しげに歪めて教師を見た。
「急に、差込が__」
その一言に、教室中がはあ、と溜息を洩らしたが、愛美としては必死である。
「そうか、大丈夫か?」
次の愛美の答えも百も承知の日本史の教師が、ウンザリと言った調子で訊ねた。教師の、と言うよりクラス全員の冷たい視線を物ともせず、これも世の為人の為、そして何より正義の為、愛美は必死の演技で訴えていた。
「あのお、苦しくて……」
「そうか、良く判った」
愛美が何かを言いかけると教科書で顔を隠したまま、先手を打つように掌を動かしながら教師が言った。
「無理はするな。後は任せて早退した方が良いな」
下手に押し問答して時間を潰すのもアホらしいので、追い出すようにさっさと言い捨てた。
「すいません、それじゃ、お言葉に甘えて……」
「大事にしろよ」
早い所済まして厄介払いしたいと言う胸中がアリアリの、平淡な口調だった。
その頃__
二年A組の教室。
「センセエ、わたくし、ああ__」
大袈裟に身悶えする天野翔子に、はー、と溜息をつきながら教師が言った。
「__早退か、天野?」
一年B組。
「先生!」
元気良く手を上げた海原水魚が、額に手を当てている。
「気分悪いんですけど__」
一年C組では、花園妖子が__
「あ、あの、あのね、先生__」
モジモジしながら困惑していた。
そして、二年B組__
「あ、荒井__?」
長身をもたげるようにこちらを窺う荒井勇気に、教師が後退るように対していた。
「申し訳ありません、どうも気分がすぐれないもので__」
「お、落ち着け、荒井。先生と良く話し合おう」
勇気の全身から発散する闘気に追い詰められた教師が、腰を抜かさんばかりに浮き足立っていた。黒板に背中を押し付けて、脂汗を流す教師に、勇気は迫って行くような気合いで応じた。
「せ、先生はいつでもお前の味方だぞ。だ、だから__」
「授業の途中で大変心苦しいのですが、早退させて頂けないでしょうか?」
「わ、判った、判ったから早まるんじゃ無い、荒井__」
それぞれ何とか当面の障害を乗り切って、人目につかない体育館の裏に集合した五人の女子生徒たち。ここが集合場所なのだが、時々別口のエスケープが先着している事も有って、中々難しい。その上、なにやら穏やかでない用事で生徒同士の呼び出しが有ったりもする場所だから、更に注意が必要である。
「遅おい、何やってますの?」
眉根を吊り上げて問い詰める翔子に、最後に到着した水魚が明るく舌を出して頭を下げた。
「ゴメエン、センセー、中々判ってくれなくて__」
見るからに健康優良児と言った外見に加え、素直で押しも強く無さそうな水魚では仕方ないのであろう。
「全員揃ったわね」
愛美の一言にメンバーが頷いた。
「博士、全員揃いました」
携帯を手に、愛美が報告した。
『そうか、みんな、授業中招集をかけたりしてすまんが、すぐに向かってもらえるかね__』
見える筈も無いのに、携帯電話の向うの真崎博士の苦しげな答えに、一同が笑顔で頷いた。
「それじゃ、みんな__」
「おおー!」
愛美の合図に、ビシッと隊列を組んだティンカーVのメンバーが誇らしげにブレスレッドを掲げた。
神愛美が叫んだ。
「赤色麗装美神変!」
荒井勇気が叫んだ。
「黒色麗装女傑変!」
天野翔子が叫んだ。
「白色麗装天使変!」
海原水魚が叫んだ。
「青色麗装人魚変!」
花園妖子が叫んだ。
「桃色麗装妖精変!」
五人の乙女の清らかな肢体に、柔らかく鮮やかな、色とりどりの輝きが纏いついて行く。両手に、両足に、腰に、胸に、そして、顔に__
そこには、艶やかな五色の装いに身を包んだ愛と正義の少女たちが、瞳と頬を輝かせて立っていた。
清く正しく美しい、いつもの“正義の笑顔”を浮べて、ヴィーナスレッドが叫んだ。
「それじゃあみんな、行くわよ!」
「おおー!」