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愛と正義の美麗戦隊! 【5】

神愛美。

彼女は日本人ではない。それ所か、人間であるかどうかすら判らないのである。彼女の父、考古学者の神教授は今を去る事十数年前、エーゲ海の孤島で発掘調査を行っていたのだが、その際に謎のタイムカプセルを発見、中には三人の女の子が眠っていたと言う。一体何を考えての行動か、その動機も良く判らないが神教授はそのタイムカプセルと三人の女の子を引き取り、自分の娘として育てたと言うのだ。果たして何故教授が彼女達を引き取ったのか、法的にそれが許されるのかどうかも良く判らないが、兎も角それが事実だった。その事実を二人の姉とともに聞かされた時には、愛美はショックの余り何も判らず、言葉を失った。彼女たち三姉妹は、神話に名高いティターンの主神、ゼウスの三人娘だったと言うのである。

長女勝代の正体は、戦の女神アテナ。次女観月(みづき)は狩猟の女神アルテミス。そして愛美は愛と美の女神アフロディーテだと言う。

そうして、三人は地球侵略を狙う宇宙の邪神、クトゥルーとその一族を相手に死闘を演じたのであった。

“……ヴィーナス……”

愛美は、胸に輝くハート型のペンダントを握り締めた。

元々ヴィーナスと言うのは愛美が操縦する鋼鉄女神の名前である。かつて彼女とともに戦った、掛け替えの無い大切なパートナー。

“__見ててね、ヴィーナス”

愛美は今でも忘れない。

あのヴィーナスの、三機の鋼鉄女神たちの壮絶な最後の戦いを。

大空に禍々しい黒雲が広がり、異世界の邪神を召喚する暗黒ゲートが今正に開かんするところだった。流石のオリンポス三姉妹にも最早どうする事も出来ない。出来る事と言えば、鋼鉄女神三機を宇宙空間で爆破させ、エネルギーを中和させて暗黒ゲートを消滅させる事だけである。

「ゴメンね、ヴィーナス。他に方法は無いの__」

コックピットで、愛美は呟いた。

「だけど、私たちだけじゃ、あそこまで行けないから。行っても何も出来ないから。だから__」

愛美は涙を流し、命を賭けて供に闘って来たパートナーに語りかけた。

「ゴメンね。あなたを巻き添えにしちゃうけど、許してね。一緒に、行ってくれるわよね__」

しかし、愛美へのヴィーナスの答えは。

『NO』

コンソールディスプレイに表示された、ヴィーナスのメッセージに愛美は小さく息を呑んだ。

「ヴィーナス?」

そして__愛美の体が操縦席から浮き上がった。

「何、どうしたの?」

自分の意思を無視して強制的にパイロットをコックピットからフェードアウトした鋼鉄女神を、愛美は不安げに見上げた。

「__ヴィーナス?」

既に勝代と観月もそれぞれの愛機からフェードアウトして地上に降りていた。恐らく、愛美と同じく強制的に。

「姉さん?」

「愛美、観月__」

「お姉も愛美も強制フェードアウト?」

「どう言う事なの、これは?」

「私にも__」

愛美の疑念に、勝代も観月も首を捻るばかりだった。

「ヴィーナス、どうしたの、ヴィーナス?」

“愛美__”

物言わぬ機械のヴィーナスが、自分の問い掛けに答えたように愛美には思えた。

“有り難う__”

無表情な鋼鉄女神が、小さく微笑んだようにさえ見えた。

“楽しかった。一緒に戦えて幸せだった。これからも忘れないでいて、私の事を__”

「ヴィーナス……?」

“忘れていてもいい。譬え普段は忘れていても、時々思い出してくれさえすれば。供に闘ったあの日の事を、振り返ってくれる日が一日でも有れば。記憶の片隅にでも私の存在を残してくれていれば__”

ふと、不吉な予感に捕らわれた愛美は、血相を変えてヴィーナスに問い詰めた。

「何、あなた、一体何を考えているの__?」

“__幸せにね、愛美”

それは恐ろしい予感だった。

「ヴィーナス、やめて。馬鹿な事はよして!」

焦燥に駆られた愛美が、必死にヴィーナスに訴えた。どうやら愛美だけではなく、観月と勝代も同じであったらしく、それぞれの鋼鉄女神に必死で語りかけている。

「アンタ何考えてるのよ、ダイアナ。約束したじゃない、あたし達、最後まで死ぬも生きるもずっと一緒だって」

「フェードイン。これは命令よ、従いなさい、ミネルヴァ!」

しかし、三機の鋼鉄女神はパートナーの制止を振り切るように算定推力三二〇〇tの外燃型反重力ロータリー・ターボを始動させ、浮上を開始したのである。

「ヴィーナス……」

愛美はヴィーナスを、伴に戦ってきた大切なパートナーを悲痛な眼差しで見上げて叫んだ。

「お願い、ヴィーナス。戻ってきて。私を置いて行かないで__」

「ミネルヴァ……」

「バカ、ダイアナのバカあ!」

天に向かって一直線に上昇する三機の鋼鉄女神を見詰めるだけで、愛美達には他に何も出来なかった。

そして__

天空に小さな閃光が輝き、禍々しく空を覆っていた暗黒ゲートは消滅した。

かくて、地球の平和は保たれたのであった。

しかし、その代償に、勝利と引き換えに彼女たちが失ったものはあまりに大きかった。

三姉妹は、肩を寄せ合って涙した。

かくて無事地球を護り切った三女神だったが、恙無く平和が戻ったにも拘わらず、その後神教授は妻共々忽然と行方をくらましたのである。姉たちは、兄、つまり神教授の真の息子、竜也とともに両親を捜す旅に出たのであった。

しかし、この世に悪の種は尽きる事は無い。

兄姉が両親の行方を捜して旅に出てすぐに、父の友人と言う真崎教授なる人物から愛美に連絡が入った。今、デスハードと名乗る悪の秘密結社が密かに暗躍を初め、どうやら神教授の失踪はそれと関りがあるらしいと言うのである。

愛美は戸惑った。既に彼女は先の戦いで女神としての力を使い果たし、今では只の女子高生に過ぎないのである。

真崎教授は生化学、量子力学の第一人者であり、この程装着した人間の力を強化する個人装備用新兵器、フィット・ブースターを開発したと言う。実験の結果、この強化服は男性よりも女性の方がシンクロ率が高く、安全に力を発揮できると言うのだ。しかも、そのシンクロ率も個人差が有り、人によって発揮できる能力はかなり開きが有った。折りしも、高校二年の後半、只でさえ生徒会長に選出されたばかりで忙しい上に、フィット・ブースター装着に相応しい者、それも信用に足る仲間を捜すのはかなりの難行だったが、それでも愛美は申し出を受けた。

“ヴィーナス__”

自分を、地球の平和を護る為散っていった掛け替えの無いパートナーの想いに報いる為、愛美は年度を越して新入生まで勧誘した結果、何とか四人の仲間を見つけ出し、ここに美麗戦隊ティンカーVが結成されたのであった。

この戦隊名についても色々と紆余曲折が有った。最初、『美少女戦隊』という案も検討されたのだがあまりにストレートで捻りが無いのに加え、他にも有りそうな、と言うより、この“美少女戦隊”なる言い方自体が固有名詞ではなく、一般名詞のような響きが有るので別の名前に決定したのである。このジャンルの草分け的な『美少女戦士』も既に存在しているが、今ではそれが何となく世間一般に流布しており、それは恰も、『○女コ○ック』という、一見固有名詞ではなく、少女漫画雑誌全般を指す形容詞のような誌名の雑誌が実在するのと同じような語感かも知れない。

“見ててね、ヴィーナス”

愛美は、手の中のハートのペンダントを握り締めた。これこそ鋼鉄女神の起動キーパーツ、今となってはヴィーナスが愛美に残した唯一の形見だった。観月が肌身離さず首から下げている三日月型、勝代が身に付けている剣の形のペンダントも、それぞれの鋼鉄女神のキーパーツである。

“私、頑張るから__”

愛美がティンカーVのリーダーとして“ヴィーナス”を名乗ったのは、当然今は無きパートナーをしのんで選んだ名前だった。

“あなたの分まで__なんて、わたしには無理だけど、わたし、精一杯頑張る。最後の最後まで、絶対諦めたりしないから。だから私の事、見守っててね、ヴィーナス”

手の中のペンダントを見詰め、今もこの大空のどこかで自分を見守ってくれているであろうヴィーナスに、愛美は直向きな決意を届けたのであった。

そして、両親の消息を追って今もどこかに旅を続ける兄と姉たち__

“ミネルヴァ、ダイアナ、どうか私の代わりに姉さんたちを見守ってあげてね”

三機__三人の鋼鉄女神たちが、空の上から自分たちに微笑んだように愛美は思った。


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