仁義なき戦い? 【7】
「あー、びっくりした__」
夕焼け小焼けで日が暮れて、ティンカーⅤの面々が、仲良くみんなで帰り道。
神愛美が溜息を着くように言った。
「わたし、ああ言う人達って、生で見るの初めて」
「わたくしもですわ」
「ボクも」
「妖子も」
「やっぱり迫力有るねえ、本物は__」
荒井勇気の一言に、一同揃って頷いた。
「流石の荒井さんも、本職には敵いませんわね」
「おいおい、それは無いだろ?」
翔子の冗談に、勇気が憮然とした顔を見せた。
「シャレになんないよ、全く__」
ツボを抑えた勇気の切り返しに、全員が弾けるように笑い出した。
「ユーキ先輩……」
再び歩き出しながら、俯いたままの海原水魚がポツリと呟いた。
「__さっきは__ありがと」
「さっき?」
両手を頭の後ろに組んで、その豪快なバストを更に強調するような格好で、上を向きながら勇気が聞き返した。
「さっき__あいつ等と__あのムチムチなお姉さんが何か言おうとした時」
「ああ、あれ__」
そらッとぼけてぶっきらぼうに勇気が洩らした。
「あたしもしょうがないよなあ。男だなんて言われたら、つい頭に血が昇ってさ、何が何だか判んなくなってさ__」
「荒井さんたら……」
勇気の思いやりのこもった不器用な誤魔化し方に、翔子が温かな苦笑いを洩らした。
「良い気風ですわね、荒井さん」
「何さ」
何やら横から覗き込むような翔子の悪戯っぽい笑顔に、勇気が妙な警戒心を抱いて視線を返した。
「ホーント、荒井さんて、後輩想いの良い先輩で__」
「あんたナニ嬉しそうな顔してんの、一体」
何かを企んでいる事がアリアリの翔子の持って回った笑顔に、勇気が怪訝な顔で答えた。
「__とーっても男らしくてステキですわ」
「手前エ、天野!」
声を荒げた勇気を尻目に、翔子が慌てて逃げ出した。
「イヤーン、怒らないでエ。誉めてますのにイ__」
「そんな誉め方が有るか!」
身軽な翔子を、長い脚をからげて勇気が追いかけた。
「あーん、女の子に暴力はいけませんわア」
「あたしだって女だ!」
他愛の無い二人の掛け合いに、残りの三人がまたまた笑い出した。
「どうだ、参ったか?」
「いやあーん、許してエ、お母様に叱られちゃう。お嫁に行けなくなっちゃうゥ」
勇気に締め上げられながら、翔子がおどけて言った。
「もう判りましたわ。この通り謝りますから、許してエ」
「いーや、許さない。アタシャこれだけは頭に血が昇って我を忘れちまうんだ!」
「アーレー、命ばかりはお助けえ__」
愛美、水魚、妖子の三人が、益々おかしそうに笑い続けた。
「あー、ホントに可笑しいや__」
涙を拭きながら、水魚が呟いた。口に出した後は心の中で。
“ホントにありがと、先輩__”
「あー、もー、荒井さんたら乱暴なんですから。まるでホントにおと……」
「何だい?」
「いいえ、なーんにも__」
漸く一段落着いた所で、水魚が軽く駆け出して、全員に対するような位置に立った。
「先輩__」
水魚の素直な笑顔は透明で、夕日に照り映えて喩えようも無く清らかに見えた。紛れも無くその笑顔は可憐で純真な、どこから見ても申し分ない少女の笑顔だった。
「これからも、ヨロシク__」
「ヨロシク__」
気を付けの姿勢の水魚の傍らに、妖子も並んで愛らしく立っていた。
「お願いしまあす!」
「しまあす!」
水魚と妖子がペコリと揃ってお辞儀をした。