愛と正義の美麗戦隊! 【2】
「愛と正義の命ずるままに__」
赤い衣装の娘が言った。
「この世の悪と、渡り合う__」
黒い娘が後を引き受けた。
「天の裁きは我等が下す__」
白い衣装の少女。
「大海原に、命の息吹き__」
青装束の娘が続く口上を述べた。
「花と咲かせて、乙女の願い__」
最後に桃色の少女が締め括った。
「とお__!」
五人は軽々と飛び降りて、恵理子と、彼女を取り囲む一団の前に立ちはだかった。
「出たな、ティンカーV!」
「ティンカーV?」
訳の判らない恵理子が、混乱して呟いた。
しかし、どうやら展開は恵理子の疑念を無視して更に進行して行く気配を感じさせた。
「ふ__」
真中に立った、赤の少女が余裕を持って微笑むとポーズを決めた。
「ヴィーナスレッド!」
それに続いて残りの少女たちが次々とポーズを決めつつ名乗っていった。
「アマゾネスブラック!」
「エンジェルホワイト!」
「マーメイドブルー!」
「フェアリーピンク!」
「我等、美麗戦隊__」
全員が個々に名乗りを上げると、再び赤装束の、最初にヴィーナスレッドと名乗った少女が声高らかに言った。
「ティンカーV!」
五人揃ってポーズを決めて、見事なハーモニーでその恥かしい名を誇らしく口にした。
“な、何?”
その光景に、恵理子は戦慄していた。
“また、訳の判んないのが出てきたァ__”
「その女の人を離せ!」
ずい、と人差し指を突きつけた、マーメイドブルーと名乗った青装束の少女が言った。
「そうは行くか、チューチュー!」
蛸頭の怪人が言った。
「この女は藤枝教授に新型ウィルスを完成させる為の大事な人質だ。おめおめと貴様等に渡せるものか!」
「やはりね」
ヴィーナスレッドがニヤリと笑いながら言った。清く正しく美しい、それはまさしく“正義の笑顔”だった。
「ならば、尚の事、彼女を渡す訳にはいかないわ。藤枝教授も必ずわたし達が救い出して見せるから」
「チューチュー、残念だったな!」
怪人が大袈裟なアクションとともに叫んだ。
「今日が貴様等の最後の日だ。我々デスハードにはむかうティンカーV、タコとスカンクの合成獣、このスカンタコ様が引導を渡してくれる、チューチュー!」
「スカンタコ?」
恵理子が思わずその名を復唱した。何と言う名前であろう。
「何か文句でも有るのか?」
その異様な面相をこちらに向けたスカンタコに、恵理子は口を硬くつぐんで左右に首を振った。実際、文句など有る筈も無かった。この外見にこれほどハマった、似合いの名前は他に有るまい。
「行くぞ、ティンカーV。者ども掛かれ、チューチュータコカイナ!」
スカンタコの命令一下、戦闘員達が見事なフォーメーションで可憐にして凛々しき五人の乙女達に襲い掛かった。
「ふ__」
再び“正義の笑顔”を垣間見せたヴィーナスが、余裕を持ってその一団を迎え撃った。
そして__
「どこかお怪我は有りませんか?」
「__ええ」
エンジェルホワイトの気遣いに、恵理子は呆然と答えるばかりだった。
「もう大丈夫です、何も心配はございませんわ」
「有り難う御座います__」
殆ど虚脱状態の恵理子は、相手の言うがままに答えるより他は無かった。
「手強い相手だったね」
マーメイドブルーの感想に、一同が深々と頷いた。
「流石に今までのようには行かないようだね」
「だけど、頑張っちゃうんだモン」
静かにのたまうアマゾネスブラックにフェアリーピンクが頼もしく答えた。
「これからも、苦しい戦いが続くけど、みんな、頑張ってね」
リーダー格らしいヴィーナスレッドの一言に、メンバー全員が力強く頷いた。
美麗戦隊の乙女達の活躍により、また一つ悪の野望は潰え去った。しかし、彼女たちに安息の日々は無い。
暮れ行く夕日に向かって手を腰に立った五人の姿を、恵理子は自失呆然と眺めるしかなかった。