登場、悪の大幹部! 【9】
“もお、どおしよお、わたしったら__”
大切なヴィーナスの形見のハートを無意識に握り締めながら、愛美が一年B組の教室に駆けて行った。
「廊下を走ってはイカン!」
「済みません」
途中教師に注意されて、頭を下げた愛美は両手両足を勢い良く振って、走らないように出来るだけ早足で歩いた。傍から見ていて吹き出しそうになる姿だったが、愛美は夢中で気にも止めない。わき目も振らず、一目散に一年B組の教室を目指して歩き続けた。
「なあに、先輩」
「水魚ちゃん……」
既に教室に戻っていた水魚を呼び出してもらった愛美が、やおら頭を下げた。当然、水魚は面食らった。
「ゴメンなさい、本当に、ゴメンなさい__」
戸惑う水魚の目の前で、愛美が何度も頭を下げて謝罪を繰り返した。
「__えっと……」
そんな愛美の姿に、困惑の表情で水魚が立ち往生していた。
「ゴメンなさい、水魚ちゃん、わたし、何て事を……」
「もういいよ、マナミ先輩__」
水魚が、両手を振って愛美を制止した。
「ボク、気にしてないから」
「でも……」
「人目も有る事だし__」
周りを気にして見回すように、水魚が言った。ここは水魚のクラスの目の前、出入り口の脇である。
「こんな所で先輩に__女神様のマナミ先輩に頭を下げさせてたら、後でボクが何言われるか……」
「あ__」
漸く周りの物見高い視線に気付いた愛美が、口を押さえるように目玉を左右に動かした。
「ゴメンね、わたし……」
またまた頭を下げかけた愛美が、身を縮めるような仕草で、如何にも申し訳なさそうに水魚を見た。そんな愛美を水魚が力の抜けた苦笑いで見返した。
「水魚ちゃんがそんなに気にしてたなんて知らずに__わたしったら、なんてひどい事を……」
「ホントにいいってば、センパイ」
水魚が蟠りの無い、爽やかな笑顔で言った。
「あれはショーコ先輩に無理矢理言わされて、妙に意識しちゃっただけだから。それに、マナミ先輩だって、悪気は無かった訳でしょ?」
「そ、それはもう__」
愛美が慌てて首を左右に振った。そんな姿に、先程翔子が思ったのと良く似た感想を抱いた水魚だった。
「だったらもういいよ。アンマリ気にされると、ボク、その方が困っちゃう」
「水魚ちゃん__」