登場、悪の大幹部! 【6】
「だから言ったのに。ボクの悩みの相談なんて無理だって」
「あははは__」
力無く翔子が苦笑いを洩らした。
「ボクね__」
俯きながら、水魚が呟くように言った。
「気にしないようにしてるんだ、女の子らしくないって事は」
それはいい事ですわ、と思わず言いかけて、翔子が危うく言葉を飲み込んだ。
「でも、ヤッパリ気になるよね。だって女の子なんだモン」
「海原さん__」
水魚の気持ちを慮って、翔子が何かを言おうとしたが、言うべき事をまとめていなかったらしく後が続かなかった。
「海原さんは……」
そんな翔子を、水魚が笑顔で見詰めた。
「ありがと、ショーコ先輩」
「海原さん……」
水魚がまたまた、ハー、と溜息を着いた。
「いいよね、みんなは女っぽくて」
「みんなって、わたくし達みんな?」
自分を指差して訪ねた翔子に、水魚が黙って頷いた。
「そんな事無いですわ」
翔子が笑って言った。
「荒井さんなんて、あなた以上に__」
言ってしまってから言い方が悪かったのではないかと翔子はやや口篭った。他人を引き合いに出すのは、何かと問題が有る。
「ユーキ先輩には、自慢のDカップが有るジャン」
「あははははは__」
「あんだけ立派な女の証明が有ったらさ、自分からわざわざ女です、何て宣伝する必要ないジャン。堂々と胸張って歩けるよ。それに比べてボクなんて……」
水魚は自分の胸を押さえるように手を当てた。
「アレだけ恵まれてたらさ、ボクだって気にしたりしないもの。それに、ユーキ先輩って、何だか凄くイロっぽくない?」
「確かに……」
荒井勇気。
周りからは女傑だの何だのと呼ばれてはいるものの、クールな物腰が極自然な女性を感じさせる、中々のイイ女なのだ。性別を乗り越えた自発的な意思による女性、所謂Mr.レディなどは本物よりも女らしいなどとも言われるが彼女の場合その正反対、無理に姿形だけ女の体裁を取り繕わなくとも、存在自体が濃厚に女、と言う感じで、その肉体は溢れんばかりの女性ホルモンの分泌量を想像させる生理的な“女”で、これ見よがしに色っぽい男装の麗人なのだ。
「で、でも__」
翔子は何とか水魚を励まそうと必死のようである。
「む、胸だったら、花園さんだって……」
「ヨーコちゃんは充分カワイイよ。胸なんか必要無いでしょ」
幾ら何でも本人が聞いたら気を悪くするであろう。妖子の場合、子供っぽいと言うのが特徴だが、水魚と違って本人は気にしてはいない。
「わ、わたくしだって、そんなに大きい方じゃ……」
「それだけ有れば充分ジャン。もっと欲しいなんて言ったら罰が当たるよ。それに、センパイは女らしいし」
言う事言う事切り替えされて、翔子も言葉に窮してきた。
「天は二物を与えずなんて、絶対ウソだよ。マナミ先輩なんか、胸も大きいし、女らしさも満点ジャン。ボクもどっちか一つくらい欲しかったな。胸だって、ユーキ先輩くらい、なんてゼータク言わないから、せめて人並み位の大きさ」
「海原さん……」
「判ってるんだ。自分でボク、何て言ってるんだし、どうしようもないって」
水魚は、立ったまま頬杖を着くような仕草でまたしても溜息をついた。
「こんな自分を変えたくて、女らしくしてみようって試した事も有ったよ。でも、ダメなんだ。ガラじゃないのかな__」
吹っ切れない想いを吹っ切ろうとするように、水魚が笑って見せた。
「私服でも、スカートなんか全然持ってないし、小さい時から男の子と暴れたりスポーツしてる時が楽しかった。でも……」
「海原さん」
「胸の無いのだって気にしないようにって、部活の時なんかは、ボクって流線型だから水泳に向いてるのかも、なんておどけてみたり」
口さがない連中は、水魚の事を“水泳部の人魚姫”ではなく河童だなどと陰口を叩いたりもする。
寂しげな水魚の笑顔を、翔子が居た堪れない想いで見詰めていた。
その時である。