登場、悪の大幹部! 【4】
「藤枝先生__」
「あら?」
廊下で声をかけて来た愛美に、新任教師藤枝恵理子が笑顔で答えた。
「神愛美さん、よね」
「え__?」
まだそれ程顔を会わせた訳でも無いのに名前を呼ばれ、愛美は正直ギクリとした。
「ど、どうして私の名前を?」
「生徒会長さんでしょ、あなた」
恵理子が別に何かを含んだようでもない表情で屈託無く答えた。その様子から察するに今の所、別に愛美の正体に感付いているようではないが。
「それに有名だもの。天国学園の女神様なんだって?」
「え、えーと……」
それでも愛美は内心警戒を抱きながら口篭った。それだけではなく、まともに目の前で“女神様”などと呼ばれては流石の愛美も決まりが悪い。
「それに__」
いよいよ何かを繰り出そうと言う顔付きで、恵理子が言葉を継いだ。純真で素直な正義の少女である愛美は如何に隠そうとも内心の動揺を隠し切れない。追い詰められて絶体絶命の体である。
「早退の常習犯だって?」
「あ、あは__」
正直な愛美は、一まずホッと一安心と言った顔でガクっと肩から力が抜けた。
「どうしたの、顔色悪いわよ」
恵理子が心配そうに言った。
「だ、大丈夫です__」
「ダメよ、無理しちゃあ」
恵理子の気遣いは本気のようである。余程愛美の様子がおかしいのであろう。正直な娘だった。
「いいえ__」
気を取り直して愛美が答えた。
「もう、この通り、全然元気。大丈夫ですから」
おどけて力瘤のポーズを取って見せた愛美を、ホッとしつつも、おかしそうに恵理子が見守っていた。
「どうやら大丈夫みたいね__」
「ええ。御心配お掛けしました」
礼儀正しく頭を下げた愛美を、恵理子が微笑ましげに見詰めていた。
「どうやら早退の必要は無いみたいね」
「やだあ、もお、先生の意地悪う」
そしてその頃、すぐ下の一階の渡り廊下では__
「あーあ__」
切なげに溜息をつく海原水魚に、天野翔子が気遣わしげに声をかけた。