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愛と正義の美麗戦隊! 【1】


「キャー__!」

辺り一面に響き渡る、絹を切り裂くような、女性の悲鳴。

「な、何、あんた達」

異様な一団に取り囲まれた女性は怯えて目を白黒させていた。

それも致し方ないであろう、自分を取り囲んでいるのは、奇妙な仮面に黒装束、髑髏のレリーフを施した大きなバックルのベルト、手に手に蛮刀だか手斧だかを携えて、口々にイー、イー、と奇声を発する、徹底的に奇天烈な一団なのだから。正直、笑いを堪えていると言うのも本音だが、正常な感覚の人間ならば怯えるのも当然と言うものである。

“な、何、こいつら。アブナ過ぎ__”

訳が判らなかった。

如何に最近治安が悪化し、日常的に異常犯罪が多発している御時世とは言え、世界に名だたる法治国家ニッポンにおいてこのような事態が勃発しようとは、健全な毎日を慎ましく送っている普通の一般市民ならば夢にも思うまい。否、世界中のどこの国でも、こんな珍妙な連中に白昼堂々往来のど真ん中で取り囲まれるなどと言う異常な事態に遭遇するなどとは想像も及ぶまい。奇想天外の四文字を絵に描いたような、これでもかとばかりに非常識な珍無類の軍団だった。

その時である。

「チューチュー__」

不自然に上ずった、異常な叫びとともに、奇怪な一団の中にあって取り分け異常な、最早人間とは思えぬ存在が姿を現した。

“何、何よ、コイツ__”

それはまさしく人間ではなかった。

どう見てもかぶりものとしか思えない蛸のような顔に、肩一面にその八本の足と思しき長いものがぶら下っている。しかも、下半身には黒くてふさふさの大きく長い尻尾が生えており、何故か白いラインが入っている。両手にはゴム手長のような厚手の手袋、足には分厚いごわごわのブーツ。しかも、全体の肌触りが樹脂か何かのようにチープな造型感を漂わせ、動く度に体の特定の部分に皺が寄るのである。

人間ではなかった。

もし人間ならば、こんな恥かしい扮装のまま街中をうろつく事など出来る筈は無いではないか。人間を捨てた何者かであった。

「貴様、藤枝恵理子だな__」

「は、はい__」

女__藤枝恵理子は消え入りそうな声で答えた。

「藤枝教授の一人娘、藤枝恵理子に間違いは無いのだな?」

「はい」

出来るだけ逆らわないようにしよう。その時、恵理子はそう思った。相手の目的が何なのか良く判らないが、一刻も早くこの場から立ち去り、後は忘れてしまいたかった。これ以上こんな連中に関りたくはない。早く済ませてこの場から離れたかった。

しかし、相手の答えは無情であった。

「それでは一緒に来てもらうぞ、チューチュー!」

「ええー?!」

冗談ではない。こんな常軌を逸した連中と連れ立って街中を歩き回るなど、死んでもゴメンだった。今でさえ知り合いに、それ所か誰か他の人に見られてはしまいかと気が気ではないのに、これ以上彼等と付き合うなど、出来る相談ではない。しかし助けを求めようにも、幸か不幸か、不思議と周りには人の姿が無かった。余りに異様なこの一団に恐れをなし、近寄って来ないのかも知れなかった。しかし、それは彼等の周到な作戦によって妨害されていたのである。

恵理子は知らなかったが、用意のいい事に連中はメンバーの一人を路上に立たせ、

「すいません、今、撮影中なモンで、ちょっと遠慮していただけませんか?本当にご迷惑かけて申し訳ありません、この通り、ご協力お願いします」

等と通行人に頭を下げさせていたのである。

恐るべき作戦であった。

「それでは、ご同行願おうか、藤枝恵理子嬢、チューチュー」

「いやー!」

恵理子は叫び声を上げた。

その時である。

「お待ちなさい!」

凛と心地好く通る、女性の声が辺りに響き渡った。

「誰だ?」

「一体どこだ?」

黒装束の一団が、戸惑って周囲を見回した。

「どこだ、どこだ__」

「どこだ」

「あそこだ!」

泡を食ったようにわざとらしくそこら中を捜す黒装束にあって、一人が高々と大仰に指差した先には。

通りの脇に有る、給水タンクの上に立つ、五人の人影。

ここにこうして御あつらえ向きの舞台が存在するのは、決して偶然ではない。撮影だと説明するにはそれらしいロケーションが良いと言うのでわざわざ選んだ場所なのである。

五人は顔をバイザー状のゴーグルで隠し、それぞれ色違いの鮮やかな衣装を身に付けて腰に手を当て立っていた。どうも女性、それも若い娘らしい。


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