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人魚姫メルジーナは今世こそ平和に結婚したい  作者: 丹空 舞
第三章

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87/93

やるべきこと

(あー、かわってないなあ)


とメルジーナは王城を見渡した。


当時は珍しく豪奢に見えたステンドグラスや立派な絵画作品も、帝国の皇宮のスケールの度外視された調度品の数々を見慣れてしまえば、

(あれこんな程度だったかな? もっと大きかったような気がしたのに……)

と思うようになってしまっているから、不思議だ。


メルジーナはあの頃--自分が人魚姫で、王子を追いかけて人間の体をもらったときの、あの報われなかった人生を思い返した。


(いやあ、後悔しか、ないわ!)


心の中で噛みしめる。

黒歴史がふつふつとこみ上げてきたので、フーッと細く長く息をはいて昂ぶりを落ち着ける。


さて、それはさておき今は仕事だ。

これを無事に終わらせたら、皇太子に土産の一つでも買ってもらおう。

そうだ、最近本で読んだ、鳳梨ほうりだとかいう苗がいい。

松の実にそっくりな甘い実をつけるらしい。


そう思って一気に気合いが入ったメルジーナは背筋を伸ばした。

因縁の相手だが、もう恐れはない。


私は私のやるべきことをするだけだ。




訪問着のジークフリートの後ろからすべるようにメルジーナは入室した。

頭を垂れて待っていたのは、あの頃何度も追いかけて見慣れた男の後頭部と、もう娘と呼ぶにはふさわしくない年齢になってはいるが、全てに置いて信用と油断がならないあの女の姿だった。

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