やるべきこと
(あー、かわってないなあ)
とメルジーナは王城を見渡した。
当時は珍しく豪奢に見えたステンドグラスや立派な絵画作品も、帝国の皇宮のスケールの度外視された調度品の数々を見慣れてしまえば、
(あれこんな程度だったかな? もっと大きかったような気がしたのに……)
と思うようになってしまっているから、不思議だ。
メルジーナはあの頃--自分が人魚姫で、王子を追いかけて人間の体をもらったときの、あの報われなかった人生を思い返した。
(いやあ、後悔しか、ないわ!)
心の中で噛みしめる。
黒歴史がふつふつとこみ上げてきたので、フーッと細く長く息をはいて昂ぶりを落ち着ける。
さて、それはさておき今は仕事だ。
これを無事に終わらせたら、皇太子に土産の一つでも買ってもらおう。
そうだ、最近本で読んだ、鳳梨だとかいう苗がいい。
松の実にそっくりな甘い実をつけるらしい。
そう思って一気に気合いが入ったメルジーナは背筋を伸ばした。
因縁の相手だが、もう恐れはない。
私は私のやるべきことをするだけだ。
訪問着のジークフリートの後ろからすべるようにメルジーナは入室した。
頭を垂れて待っていたのは、あの頃何度も追いかけて見慣れた男の後頭部と、もう娘と呼ぶにはふさわしくない年齢になってはいるが、全てに置いて信用と油断がならないあの女の姿だった。




