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人魚姫メルジーナは今世こそ平和に結婚したい  作者: 丹空 舞
第二章

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謎解きというほどでもありませんが

「そちらのお嬢さんは……」

と、イーマンが整った眉を寄せながら、少々の困惑を滲ませた声音で喋りかけた。


「エルネスティーネ様付きのメイド、メルジーナと申します」


ジークフリートが

「あー……今回の件についての調査を報告してもらうことにした。事件が起きたのは厨房。私よりもメルジーナの方がメイドとして潜入しやすかったものでな」

と、あとを引き取る。


耳目を集める存在となったメルジーナは、高揚感や緊張感を抱くよりも先に、ある人物に注目するのに夢中だった。


なぜあの人が、あの毒を使ったのか。


見ればこの国の者も帝国の者も知らないようだった。いつどこで知ったのだろう。メルジーナには常識ではあったが、一般的な国民には非常識であるようだ。




「なぜご存知だったのです?」


とのメルジーナの言葉に、サラクの貧乏ゆすりが止まった。


「マージ大臣。あの毒を知っていたのは貴方だけですよね。どこでお知りになったのです」




「はっ……!! は、は、は、これはこれは。魚の毒ですと? そんな荒唐無稽な話はとうてい信じられませんな」


「ええ。あのスープに入っていたのは元々の野菜、それとあとから持ち込まれた毒リンゴ……とめぃと、そしてキノコ、魚介類です。毒リンゴは名前こそ恐ろしいものの毒なんてありません」


メルジーナは心なしか得意げにお腹を撫でた。真実を秘めた胃。美味しく頂いたが体調が良くなりこそすれ、悪くはなっていない。


では残すところは2つだ。

ジークフリートがあとを引き継いだ。


「キノコを持ち込んだのはサラク大臣ですが、あのスープにはもちろん溶けずに残っていた。キノコは繊維が多いですから簡単には崩れません。あとから持ち込まれたものならば当然、どろどろに溶かすことなど難しい。そして現場や厨房のゴミから簡単に特定できました。あれらは全て地元の特に珍しくもない、高級品でもない特産品だ」


フン、と鼻息でサラクは返事をした。


「悪いか。この国には人々が費やしてきた仕事がある。時間がある。その中で培われてきた風土がある。高級であろうとなかろうと、美味いものを出すのが最大の真心だ。そんな道理をはなから無視して、わざわざ金を食べるような貴族様をわざわざ歓迎するほど、まだ俺は落ちぶれてはいない」


それまで傍観者を決め込んでいたイーマンの表情が変わる。派閥が違えども、理念が通ずるところがあったのかもしれない。


「さあ、それではいったい何が毒だったのか。無味無臭の毒? いえ、そんなものではありませんでした。メルジーナ」


ジークフリートにうながされて、メルジーナは口を開いた。


「マージ大臣。貴方の持ち込んだのは、最高に《美味しい》毒、ですね」







海の中では有名な話だ。





「ふぐ、と言います。それを食べると得も言われぬほどの旨味を感じ、命を落とします」



「なんだそれは! きいたこともないぞ」「いい加減なことを言うな」


野次がとぶ。


「ふぐ、の毒は無色透明。ご存知でしたよね、マージ大臣」


「知りませんなあ」



マージは微笑みを浮かべていたが、瞳の奥はぎらついていた。



「ふぐ、などという魚は全く聞いたことがないし見たこともない。今初めて知りましたよ。荒唐無稽な話をでっちあげて、私を陥れようとしているのか?」

と、マージは凄んだ。


ジークフリートが穏やかな声で、しかし毅然と間に入る。

「……そうではありません。真実を知りたいだけなのです。私たちは調査をしたとき、すでに厨房には鍋の残りはなかった。残っていたのは食材のクズだけだった。出てきたのは野菜の皮、とめぃとのヘタ、キノコの軸、スープに入っていた貝殻」


「他には?」

と、マージか尋ねた。


「他にはありませんでした」


「ほう。では、魚は煮込んでいるうちに溶けてしまったんでしょうなあ! 小さな鍋ならばそれも然り。残っていれば確かめてもらえたのに残念ですよ、全く」


「……ふぐの毒は確かに水に溶ける。そして微量でも生き物を死に至らしめます。あなたはそれを知っていた。ふぐはそこまで大きな魚ではない。そして、たいして特徴もなく目立たない魚だ。一匹で十分な致死量になる。あなたは籠に貝とふぐを並べて持ち込み、そのまま鍋に入れるよう下働きのコックに命じたのです」


「そのまま?」

マージ大臣は笑いを堪えていた。


「ええ。何か違うところがありましたか?」


「いやはや!名推理だ!」

マージ大臣は我慢できずに笑い出した。


メルジーナは不服そうに頬を膨らませた。マージ大臣は心底愉快そうだ。


「その表情もよい塩梅なところ大変、大変残念ではあるのだが、私は我が国の港から水揚げしたばかりの貝と白身の魚をコックに渡しただけだ。白身の魚がどんな魚かは私は知る由もないが、地元の者共が捕まえてきたのならば特産だろう。まさか名前が分からないというだけで罪に問えるわけでもあるまい? いや、ご期待に添えなくて申し訳ないね」



ジークフリートと大公は顔を見合わせた。




 


子供騙しのこんな作戦が、本当にうまくいってしまった。

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