マージの主張
「さて、そしてマージ大臣。あなたも厨房に出入りした人間のうちの一人だろう」
と、ジークフリートが言うと、マージは大儀そうに一歩前で踏み出た。
これまで権力を握ってきた者にしか持ち得ない独特の雰囲気がある。
「心外ですなあ。私はこの国の伝統を重んじる人間だというだけのことです」
マージが話をするたびに、肥え太った体がゆさゆさと揺れた。
「私が献上したのは海の幸。この国が繁栄するためにかかせないものです。ジークフリート様方、帝国ではニシンの缶詰なるものが流行っていると聞き、我がエスター大公領でとれた魚も召し上がって頂こうと心を砕いたのです」
「なるほど」
「白身の魚は何にでも調和する。帝国仕立てのスープにも染まろうというもの。いや、これはおめでたい場に政治的な話が過ぎましたかな」
マージの言葉に周囲の取り巻きから、くすくすと忍びやかな笑いがもれる。
ジークフリートは取り合わずに前を向いた。余裕のある態度はやけに癇に障る。
「人が一人命を落としかけているんだぞ」
「それは失敬」
とマージは口をつぐみ、一礼してみせた。しかし、取り巻きの中からは「たかが毒見役だろう」という囁きが漏れた。
なるほど、この国の貴族上層部というのもなかなかに関わり合いたくない存在だ。
その時、鬱屈したその場の雰囲気をかき消すように、メルジーナの鈴の音のような声が凛と響いた。
「よろしいでしょうか」




