解決です
翌朝、大広間に集められた面々は、昨日の事件について噂し合っていた。
「いったい誰があんな……」
「毒味役はまだ意識が混濁しているらしい」
「重傷…」
「犯人は…」
「他国の…」
ほとんどの家来たちは小声で目配せしあっていたが、そこには単純な恐怖と好奇心が浮かんでいた。
だが、そうはいかない人間たちもいた。
マージ大臣は今日も豪奢な刺繍のされたシャツブラウスを着ている。
保守派の重鎮らしく、何人かの取り巻きの中で談笑していた。
同じく保守派のサラク大臣は、今日も干された葡萄の色のような長い髪を束ねもしていない。
神経質そうな顔つきで、不機嫌そうに貧乏揺すりをしている。
ご婦人を相手に大げさな身振りでいるのがイーマン大臣だ。
今日もトレードマークの紅色の派手なスカーフを巻いている。
ざわざわとした喧噪が、潮のひいたように静まった。
「皆のもの。よく集まってくれた」
男性にしては少し高い声は、エスター大公だ。
「我々が愛する隣人、リシリブール帝国の客人が狙われた件について、話をしたい」
その場の者は皆、好奇心でいっぱいになりながら、家来も小間使いも大臣たちも、貴族も下人も一緒になって静かになった。いったい誰が--?
「まずは、ジークフリート殿の毒味をしていた者だが、今日の朝に意識が回復した。それによると、周りの目撃証言通り、スープを飲んだ辺りから具合が悪くなったらしい。あの中に毒が入っていたのだ」
「ここからは私が」
と、ジークフリートが引き継いだ。
「こちらで調査をさせて頂いた。こちらも命を狙われたものでね--すると、いくつかの事実が分かった。まず、あのスープは厨房にいたコックと見習いが複数人で作ったこと。味見の段階では問題なかったらしい。しかし、いったん味見の終わった頃合いになって、予定になかったものが3つ持ち込まれて、入れられたということだ」
ジークフリートはここでメルジーナに向かって軽く頷いた。
傍で聞いていたメルジーナも、小さく頷き返す。
幸運だったのは、厨房の見習いコックが適当だったことだ。
持ち場を任された彼は、小さじ一杯ほどの味だけみて、よしとしたらしい。
もしもきちんと一杯分食してしまっていたら、毒味役と同じ運命をたどっていたはずだ。
昨日、ジークフリートや大公と話し合ったことに、間違いは無いだろう。
その動機だけがよく分からないが--それは、この後、明らかになるに違いない。
ジークフリートは形の良い唇を軽く舐めて湿らせると、覚悟の決まった目で聴衆を見据えた。
「スープに入れられる予定の無かったものとは、キノコ、魚介類、そして『悪魔の実』だ。これらの食材を厨房に持ち込んだのは--サラク大臣。マージ大臣。イーマン大臣。あなたたち三人だ」
群衆は該当の3人を振り返ってみた。後ろから見ていた者にも、サラク大臣の貧乏揺すりが地震のように激しくなったのが分かった。
「聞けば、大公国では、客人をもてなす際にそれぞれの領地の名産を持ち込むことは珍しくないのだという。サラクは朝に採ったキノコを、マージは魚介を、イーマンは『毒リンゴ』--とめぃとを持ち込んだ」
不穏な名称に、群衆はイーマンから自然と距離をとっていた。
イーマンは意にも介さず、堂々とした面持ちで座っている。
ジークフリートが口を開いた。
「イーマン大臣。あなたが『毒リンゴ』を持ち込んだわけを知りたい」




