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人魚姫メルジーナは今世こそ平和に結婚したい  作者: 丹空 舞
第二章

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71/93

これではありません

ジークフリートの頭の中は


???


でいっぱいになった。




(なぜそんなものを食べているのか?)

とも思ったし、

(そんなものを食べて大丈夫なのか?)

とも思った。


(そんな得体のしれないものをなぜ食べているのか?)

とも、

(明らかに怪しい名前だが、普通の令嬢なら拒否するものではないか?)

とも思った。


また、あるいは、

(それが毒殺事件に関係があるのか?)

だとか、

(いや、見るからに怪しいそんなもので、毒殺を謀るだろうか?)

などの、比較的理性的でまっとうな疑念も抱いた。


それらすべてをひっくるめて、ジークフリートは無言だったのだ。

決して、口周りを汚しながらもキリッとしたメルジーナが幼子のようで愛らしいからではない。

断じてない。


そして、メルジーナは得意げに言った。


「私は『調査』をしたのです、殿下。その結果、この『毒リンゴ』ですが、こんな名前ですが毒はないのです。いわば、あだ名のようなもので……本当の名前は」


一呼吸置いて、メルジーナは言った。


「『とめぃと』と、言うのです」


「赤くて見るからに怪しいのだが……猛毒ではないのか?」


「……私は数年前、この実を食べて中毒を起こした人間を見たことがあります」


ジークフリートの顔色が変わった。

なんだこの自殺志願者は。

どうにかしなければ、と身を乗り出そうとしたが、メルジーナは落ち着き払って話し出した。


「と、いっても、それはこの『とめぃと』が酸をもっているからなのです。その男はこの実を食べるときに、すずと鉛を合わせた美しい皿を使っていました。だから酸で溶け出した鉛を一緒に食べてしまい、中毒を起こしたのです」


それは、かつてメルジーナが『空気の精』として世の中のカップルをくっつけまくっていた、あの時代の話である。

そこそこの身分があるのをたてに、女をとっかえひっかえしていた、いけすかない貴族だった。

男にだまされた生娘や、半ば脅されて関係を持ってしまった女、乱暴に扱われた娼婦たちが傷つき泣く姿を見て、

(きっとこんな男には罰があたるわ)

と、引き気味に傍観していたメルジーナだったが、事実、男は鉛中毒を起こして亡くなった。

伝統的な銀の食器や、質素な木の椀ならば死ななかったのに、というのがなんとも皮肉である。


あまり普段は見ることのない珍しい食材だが、メルジーナは厨房で驚いた。


「大公国の『とめぃと』は甘いんだよ」

と、厨房にいた若い見習いコックは言ったのだった。

「イーマン大臣が農夫たちを集めて品種改良なさったんだ。好物らしいよ」


そして、おそるおそる食べたメルジーナは--

『とめぃと』のとりこになった。


酸っぱいのだが、甘い。そしてほのかに残る野生的な香り。

聞けば品種改良をした結果、生で食べられるほど甘くなったらしい。



かくして『毒リンゴ』の汚名は晴れた。


「明らかに怪しい名前だと思ったが……というか、俺はそんなものを出されていたのか……?」


おそらく、毒味役も普通の赤い色をした具沢山のスープだったので、漁師町でよく出てくる漁師風のスープなのかと思っただろう。





「殿下の命を狙った『毒』は、これではありません」



メルジーナは確信をもって言った。



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