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人魚姫メルジーナは今世こそ平和に結婚したい  作者: 丹空 舞
第二章

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大臣たち

エスター大公国には国民から選ばれた大臣が3人いて、大公を除くと実質国の最高権力者だ。大公のように表立った行事にこそ参加しないが、法案の説明や式典には名前が出てくる人物たちだ。


メルジーナは空気の精だった際に、個人のプロフィールを暗記するこつを身につけていた。

しかし、たとえどんな者であっても、来る日も来る日も人間の相性について考え、カップルを成立させ続ける仕事をしていればいやでも『人を覚える』スキルは身につくのかもしれない。

とにかく、メルジーナは今となっては単なる趣味となった人間観察にいそしむことにした。


(えっと……あのナマズそっくりのヒゲのおじさんは、マージ大臣か)



マージ大臣は黄金の刺繍のされたシャツの襟元に、でっぷりした顔をのっけていた。社交にはそつがないと見えて、5、6人の人の輪の中にいる。彼は政策的に保守派の中心にいる人物だ。元々南側の漁師の町の出で、地主だった元々の地盤と地元のコネを足がかりに地位を築いてきた人物らしい。有力者に囲まれ、小さな目を細くして談笑している。見るからに地位と名誉に執着しそうな雰囲気だ。


テーブルをひとつ挟んで、マージ大臣の奥に座っているのが、同じく保守派のサラク大臣だ。


サラクは痩せぎすで、紫色のぱさついた長い髪をしていた。皺をたたえた神経質そうな顔つきをしている。指先をこすりあわせながら、めがねをかけた学者風の男と何か議論を交わしている。

サラクはああ見えて、目立った名産もなく、ちょこちょこと山菜やキノコを売って生活しているような、山間部の貧しい集落から身一つで成り上がったやり手だ。しかし、その強引な手腕についていけなくなってしまう部下もいるようで、あまりよい噂をきかない。組織に不要な者を非道に切り捨てるやり方は賛否両論だが、表だって反抗できる者はいない。


そして、窓を背にして女性方に囲まれている洒落た紳士が、イーマン大臣だ。


大臣の公服にはなかなか見ない、紅色の派手なスカーフを巻いている。が、それが不思議と似合ってしまうのだから不思議だ。グレーの頭髪は老いを隠さず、むしろ年齢を経た者だけが出せる余裕を感じさせる。ダンディなおじさまといった風貌だが、彼は政策的には革新派だ。女性だけでなく男性たちにも人気があるのは、労働者の環境に革命を起こすべきだという彼の思想が支持されているからに他ならない。目的のためには手段を選ばないような、野心的な光が瞳に潜んでいる。


(エルネスティーネ様はこんな血なまぐさい場所に嫁がれるのね……)


メルジーナは女主人の境遇を思って小さくため息をついた。

保守派と革新派の衝突が絶えない大公国だ。



メルジーナはエルネスティーネの傍に立ち、用事がある際はすぐに動けるようにしている。

しかし、大公との話に花を咲かせているようだ。


エスター大公は、一国の皇女の心をすぐにつかむ話術をもっていた。案外しっかりしているのかもしれない。

しかしどうしても、ほっそりしたあごや女人のようにつるりとした顔を見ると、砂糖菓子のような、メレンゲのような、ふわふわした印象はぬぐい去ることができないが。




「キャーッ!」



突然、絹を裂くような悲鳴があがった。

エスター大公とエルネスティーネがそろって顔をあげた。


テーブルの向こう側は、はっきりとは見えないがざわついている。

何か異常なことが起こったのが肌で分かった。

そして、あることに気がついて、メルジーナは全身の血がすっと冷めるようだった。



あれは、ジークフリート皇子のテーブルだ--。






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