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人魚姫メルジーナは今世こそ平和に結婚したい  作者: 丹空 舞
第二章

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やっちまったなあ

「やってしまった…」


船内の狭い自分の小部屋でため息をついたメルジーナは、夜着に身を包んで頭をかかえていた。


なぜ、調子にのってしまったのか。

言わなくてもいいことを言い、やらなくてもいいことをやった。後悔の念に尽きる。


放っておいてもよかったのだ。


しかし、勝手に手が動いてしまった。



(だって、あんなに簡単に、父さんの存在を否定するだなんて、悲しすぎるわ)



ここで言う父とはもちろん、海の中の父である。人間に転生したとはいえ、メルジーナの心には、海の偉大なる神だった父親との記憶が染み付いていた。



緑色が航海に禁忌なのも本当だ。験を担ぐこの国の漁師たちは、決して身につけない。

他にも、女性を船に乗せると不運になる、バナナを乗せると不運になる、というジンクスがあるが……



(どちらも破ってるんだよね!)


ちなみに後半は、メルジーナがこっそりバナナを持ち込んでいるからに他ならない。


もしこれが漁師たちの船ならば、メルジーナは即座にたたきだされていただろう。

だが、ただでさえ陸上の体裁を気にするやんごとない身分の方々の船なのだ。迷信よりも宝石、というような方々に、漁師の常識など通用しない。


しかし、メルジーナは何を憂慮してもいなかった。なぜなら、神そのものについて、この船の誰よりも知っている自信があるからだった。


(父さんは確かに服の色なんかで呪いをかけたりしないけど)


ジンクスには理由がある。

緑色が禁忌なのは、カビや金属のサビの色なので、船が傷んだときに発見しにくくなるからだ。女性が歓迎されないのは、男性ばかりの船乗りたちが浮きたって仕事に集中しなくなるからだし、バナナが嫌われるのは腐ると臭いを発しやすいからだ。



そして、海においてイルカは幸運の象徴。対して、



(サメは死の象徴、と教えてあげたらよかったかしら?)




と、意地の悪いことを思ってメルジーナはため息を発した。



そうでなくとも、ジークフリートは目を見開いて青ざめていた。しかし、あの異常な状況でも、ジークフリートは咄嗟に腕を出してメルジーナをかばったのだ。


メルジーナにしてみれば、この大きなサメがここら一帯の主であるのはよく知っていたし、何なら人魚時代に何度か会ったことだってある。

一般的にサメはイルカやシャチ、クジラのようには知能が高くない。しかし、あのサメは意思疎通こそ難しいものの、魚以上に賢い。

あの時、サメの気配を感じ取ったメルジーナが服を放り投げていなければ、船ごと攻撃にあっていただろう。


(ああ、でも……)


サメなんかはどうともなかったけれど、少し触れた腕の熱さのほうが胸が苦しい。


バタバタと固いベッドで暴れているうちに、夜の帳が降りてきて、うとうととしたメルジーナは気付けば寝てしまっていた。

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