お部屋をもらいました
リシリブール帝国第1皇女、エルネスティーネ。
この皇宮で働く侍女ならば知らない者はいない。
そして、自身が配属されないようにと切に願う。
それほどまでに恐れられるエルネスティーネとはいったいどんな人物なのか。
リアはため息をつきながら小声で言った。
「一言で言うと、我が儘。これに尽きます」
なんでも不幸にも仕官が決まった侍女は絶望し、ある者は上司に泣きつき、ある者は仮病を使い、ある者は決死の覚悟で仕事に臨み、数日後には魂が抜けたようになって発見される。
姫の宮殿についた呼び名が《使用人の墓場》。
なんともひどい言われようだ。
「根は悪い人ではないのですが……なにぶん元来の性格が災いしてお友達もおらず……おっと、口がすべりました。くれぐれもメルジーナ様、お覚悟なさってください」
と、リアは高さのある大きな建物に入り、勝手知ったる顔で進む。
ドアがたくさん並んでいる。
そのうちの一つの前に来て、さて、到着ですとリアは言った。
中は、豪華ではないものの清潔で落ち着いた小部屋だった。
「こちらがメルジーナ様のお部屋になります。今日からはこちらから生活していただき、お仕事のときには宮殿に通っていただきます」
メルジーナは瞳を輝かせた。
「海が見える!」
使用人にあてがわれる部屋の集まるこの建物は、まるで蜂の巣のようだった。
その中でも、腐っても伯爵家であるメルジーナには高所の部屋が与えられていた。
青い宝石のように光る海。
メルジーナは懐かしくなって目を細めた。
明日からの新しい生活を応援しているように、換気のため開けられていた窓から柔らかく風が吹いた。




