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ちょっと速いです
そんなこととはつゆ知らず、メルジーナはリアに手を引かれるようにして皇宮の長い廊下を歩いていた。埃ひとつない赤絨毯の上を、背の高い麗人は少し早足で進む。メルジーナは転ばないように懸命についていった。前世の記憶のせいなのか、陸上の運動能力はあまり高くない。
焦っているメルジーナに気付いて、リアが歩みを止めた。
「すみません。少し速かったですね」
「あ!いいえ、大丈夫です。私、あまり速く歩けなくて」
「失礼しました。一刻も早くあの場を離れないと、メルジーナ様の身が危うい気がしましたので」
「み?」
「いいえ、何でもありません。それに、お仕事の説明が途中でした。最も大切なお話がまだ」
リアはメルジーナに目を合わせた。
「メルジーナ様がお仕えするエルネスティーネ皇女殿下についてです」
リアはメルジーナから手を離し、ゆっくり廊下を歩き始めた。




