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人魚姫メルジーナは今世こそ平和に結婚したい  作者: 丹空 舞
第一章

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運命の再会


拝謁の間よりは幾分簡素ではあるが、金銀宝石の類が減っただけで、例によって執務室はたいそう豪華な造りだった。



「失礼いたします、ジークフリート様。ティモシー・リーメンシュナイダー様が参上いたしました」


リアの後ろをついて進みながら、ティモシーは挨拶をしてハイハイと頷き、早々に帰ろうと覚悟を決めた。


「こんにちは。お初にお目にかかりま……」


「ご苦労だっ……」




互いに言葉を飲み込んだ二人はそこで固まった。







(あいつだ!)


(あの少年か!)







ティモの特徴的なオッドアイを忘れる者などいないし、ジークフリートの美貌がそこらにごろごろいるわけもない。


ティモにしてみれば、美少年と美青年であったというのが運のつき、いや、それはまさしく運命だった。








(桟橋の身投げヤロウ……まさか皇太子だったなんて)




内心、ティモは穏やかではなかったが、


「……お会いできて光栄です」


ぐっとこらえて礼をした。







それよりも混乱したのは、リシリブール帝国第一皇太子・ジークフリート・クラッセンその人である。


(まさかあの時出逢った《奇跡の少年》の一人が、巷で噂のティモシーなのか!? リアが心酔しているのは横で見ていても分かるが……俺をあんた呼ばわりしたあげく、めちゃくちゃ塩対応だったぞ? 本当に同一人物か? 天使というより……小さな海獣のようだったが……気のせいか?)







「ジークフリート様からお話があるとうかがいました」


と、ティモは余所行きの顔でニッコリと笑う。

子供らしく無邪気でもあり、青年にさしかかろうとする繊細な怜悧さも秘めた利巧そうな顔つきだった。


リアが深呼吸をして心を落ち着かせている。

市井の者のいう、いわゆる《ガチ》のファンになると、《推し》の一挙手一投足が胸中の琴線に触れるらしい。



ジークフリートは言いたいことをのみこんで、ポーカーフェイスを保った。



「……皇帝陛下や側近からお聞きかと思うが、詳細は私から説明する」


「ええ。何か国からの要望があるとか」





非常に言いづらい。


が、そういうことほど早く終わらせてしまったほうが次に進みやすいことも、ジークフリートは知っていた。


相手をまっすぐ見据えて言葉を発する。








「帝国が要望したいのは次の二点だ。まずは製造権を独占しないこと」


「ええ。というかもう教えちゃいましたし。街の人たちに」


「な……巷に普及しているとは聞いていたが、まさか自分たちで教えていたのか?」


「そうですね。僕たちだけだと日に樽200個が限界だったので。遠くの街まで出荷できなかったんですよね。だから姫さ……いや、仲間と講習会をしたりして。楽しかったな」


ティモは懐かしそうに目を細めた。


間髪入れずにジークフリートは切り込んだ。



「二点目だ。収益のうちの2割以上を帝国の税として納めてほしい」


ティモが何か言う前に、続ける。


「もちろん通常よりも高い税だとは理解している。だが2割。できれば3割。検討していただきたい。そのぶん我々も帝国の御用達というお墨付きをそちらの商品に認めよう。生産施設や設備、人手の増員、必要な物資の手配などにも協力しよう。そしてティモシーを栄誉ある貴族とし、子爵の位を授ける」



爵位を少年が賜ることは前代未聞。

それも元は平民ともなれば、ティモシーの名声は世に轟くだろう。

ひいてはリーメンシュナイダー家の繁栄にも直結する。


しかし、ティモは宝石のような双眼をぱちぱちと瞬かせるばかりだった。

喜びも驚きも、読み取れはしない。



「……どうだろうか」



不思議と、この少年を前にすると富や名声や己の立場を忘れるときがある。

今まで常識だと思っていたことが覆されるような――。


普通ならば、ビジネスに帝国の出資、そして爵位を賜る栄誉ともなれば是が非でもない。

それに帝国からの要望というのはほぼ命令のようなものだ。

権力で成り立つこの国の構造の中にいれば、すぐにでも頷くにちがいない申し出だ。


しかし、ティモシーは首をふった。

ジークフリートは眉をひそめた。

まだ条件に不満があるのか?


「利益の半分差し上げます」

「は…」


ジークフリートは言葉を失った。


「正直、商売を思い付いたはいいけど、僕らの手に余るようになってきてたんです。欲しがる人たちは数多くいても、供給が追い付かなくって。それなら半分国のものにしてもらったほうが、ずっとこの帝国の民のためになる」


共同経営ってやつですね。


ティモは続ける。




「爵位なんていらないです。僕は今のままで十分満足しているので」


と、無欲にも程があるようなことをいうので、傍に控えていたリアが慌てて口をはさむ。


「お言葉ですが、ティモ様。権力にご興味がなくとも、子爵の位は伯爵の補佐。リーメンシュナイダー家次男として、伯爵の仕事を手伝うのには役にたちます。自由を謳うこの帝国も、まだまだ古い因習があるのが現実。爵位があれば、ティモ様が動きやすくなりましょう」


「うーん、そういうものかなぁ」


「そういうものです!」


「リアさんがそんなにいうなら、じゃあ、もらっとこうかなあ」



ジークフリートは、信じられないものを見る目でティモシーを眺めた。


爵位をまるで菓子のおまけのように扱う。

物の価値が分からないわけでもなく、むしろ利発な少年だ。分かった上で、それでも本心で要らないと言ったのだろう。


爵位を喉から手が出るくらい欲しがっている人間が山ほどいるというのに、この無欲さはどうだ。




案外、天使という評判は本物かもしれない。


ジークフリートがそう思い始めた頃、ティモシーが


「あっ、そうだ」


と、声をあげた。


そして、にんまりと笑んだ。





「代わりに、というわけじゃないけど、折り入って一つお願いがあります」





「なんだ」





「うちにはメルジーナという一人娘のお嬢様、ぼくにとっての《姉》がいるのですがーー」












くしゅん!


メルジーナはくしゃみをして鼻をこすった。









それと時を同じくして、侍女としてのメルジーナの登城が、あれよあれよという間に決まっていた。



やはり、持つべきものは賢い弟分である。






運命の水は溢れ、川となり流れ出すのにもうさほど時間はかからなかった。



第一章終わりです。長かった…


前置きが長くなりましたが、次回からはようやく!

メルジーナの侍女としてのラブコメ回になる予定です。

引き続きお付き合いくださると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] げぼ……コホン、従者枠で主人の業績かっさらっていって(合意の上とはいえ)爵位貰ったヤロー……ゴホン。
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