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人魚姫メルジーナは今世こそ平和に結婚したい  作者: 丹空 舞
第一章

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漁師ザシャの晩餐

漁師ザシャの晩餐



おーい、エールをもう一本持ってきてくれ。


何? 自分でとれ?


そりゃないだろ、稼ぎのあがった旦那様だぞ。


もう少し大事にしろよ。





いや、それにしても参ったぜ。


エデルナッハのリーメンシュナイダー様にもあんな秘密兵器がおありだったとはな。


恐れ入ったよ、ほんと。




最初は冗談みたいな話だと思ったけどよ、エルマーって男に言いくるめられちまった。


結果、それで正解だったんだ。


ちげぇねぇ。




貴族のために俺らがおまんま食い損ねるってのはどうにも納得いかなかったが、あの伯爵家様にはもう一生頭があがらねぇ。


命令じゃなく、契約ときやがった。


おかげで俺らは市場で売るのと別に、ニシンを獲った分だけ儲けることができるって寸法さ。




にしても、不思議なこともあるもんだな。


ここ最近、ずっと不漁だったろ。


伯爵家の……何ってったかな……とにかく、その令嬢様が夢で見たんだそうだ。


もちろん俺らだって馬鹿みてぇだとは思ったけどな。


だけど獲れねぇ魚をずーっと待ってるよりはましだって誰かが言い出したんで、船を進めたのさ。


そしたら、もうお前、仰天だよ。


どーっさり。


ニシンの大群も大群だ。


あんな、潮の流れが複雑なところにいるなんて誰も想像もしてなかった。


いやあ、たまたまだろうけど、それにしてもご令嬢様様だ。





あのエルマーってやつの手さばきもすごかったな。


若い漁師たちなんか網引く手ェ止めて見入ってやがった。


さっきまで生きてピチピチ跳ねてた魚が、瞬きしたと思ったらもう切り身になってんだ。


しかも、だ。


お抱えのシェフかって思いきや、酒場の店主だって言うじゃねぇか。


いや、あんな逸材を見つけるなんてな。




それにしてもすごいのは天使様さ。


船の上に慣れてねぇんだろうな、ずいぶん酔ってたが……白い顔をもっと白くしながら微笑わらって、伯爵家のためですからときたもんだ。


あんまりにも健気でよ、男の俺でもぐっときちゃったね。


いや、あっぱれさ。


あんなに若いのに見上げた根性だよ。






わはは、ハンス、パンを詰めすぎてリスみたいになってるぞ。


柔らかいパンなんか久しぶりだもんな。



カール、あせらずに食え。


美味いのは分かるけどな、魚もパンも逃げねぇから。




アンナ、どうした?


……ああ、怖いって?


お前は初めて食べるもんな。


だけどハンスやカールも美味そうに食ってるだろ。


一口かじってみろ。


父ちゃんが獲ったニシンだぞ。




……ほら、美味いだろ。


わはは、お前、父ちゃんがカールに言ってたろ、あせらずに食えって。









海の中じゃともかく、塩漬けになった魚は、もうどこにも逃げねぇんだから。







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