星空夜話・三 鈴鹿と利仁
紅葉が維茂と会いに出かけていき、私はひとりで横になってまどろんでいた。
……南の封印に行けば、悪路王と対峙する。悪路王との戦いに負ければ、この皿科は……。皆が心配してくれているし、私自身を犠牲にするなと言ってくれているけれど、それでも最終的には私は悪路王と差し違えてでも止めないといけないのかもしれない。
今まで出会った四神の内、三柱と契約を結んだ。あと一柱。それで倒せなかったら……。立て掛けている契約印の施された剣の鞘を眺めていると。
「鈴鹿、まだ起きているか?」
意外な人が訪問してきたことに、私は驚いて起き上がった。
「はい、大丈夫。こんな時間になんの用かな、利仁?」
「なに、次の封印が最後だからな。今の内に話でもしておこうかと思って」
「最後……そうだね」
気付けば利仁とも長い付き合いになっていたけれど、彼の素性はいまいちわからない。
彼が守護者に選ばれるのだって想定外だったし……こうして旅から逃げることもなくそのまま付き合ってくれていることにも、少なからず驚いている。彼は紅葉のように必死で食らいついて守護者の地位を得た訳でもないから。
鬼無里にふらりとやって来た踊り子だということ以外、なにもわからないからだ。彼は簾を手で引っ掛けながら部屋に入ってくると、私の顔をまじまじと見た。
「ずいぶんと思い詰めてるじゃないか。いや、他の連中も似たり寄ったりだったがな」
「うん……皆、少なからず白虎から聞いた言葉に衝撃を覚えているんだよ」
「そうか。難儀なものだな」
「……利仁はちっとも動じてないみたいだね?」
「鬼と人、どちらも似た姿こそすれども、理が違う。価値観が違う。互いに相容れぬ存在ならば、自身の存在をかけて争うしかなかろうな」
「……厳しいね、あなたは」
「形が似ている者を害するのは、人は苦手なようだからな。鈴鹿」
彼はこちらをじっと見てきた。
……利仁の目は、ときどきひどく懐かしい気がする。郷愁というか。私は鬼無里で育ち、四神契約の旅に出るまで、里の外を知らないはずなのに。
彼は普段の皮肉は引っ込めて、こう言った。
「逃げたければ逃げればよかろうよ。誰もそちを責めたりはせぬ」
「……逃げないよ。もう三柱と契約したんだから、残り一柱も」
「あれは自分と契約した結果、巫女が再び失われることをよしとはせぬだろうさ」
「……それでも。私はこのときのために生きてきたから。悪路王を倒して、皿科に平穏を取り戻す」
「……相変わらずの頑固よの。まあ、話を聞けただけいいか」
最後に利仁は私の髪をひと房掴むと、そこに唇を落としてすぐに離した。その仕草に、私は少しだけぎょっとする。
……この人は、そういうことをする人ではないと思っていた。
私が固まっている間に、さっさと利仁は立ち上がった。
「まあ……次の封印でお別れだろうからな。それまでは守護者として扱ってくれると嬉しい」
彼はそれだけ言い残して、呆然としている私を残して立ち去っていった。
……本当に、あの人はなんなんだろうと、付き合いだけ長いものの、そういえば彼のことをなにひとつ知らないままここまで来たんだなと、今更ながら思った。




