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敵の敵は味方とは言いますが、そう易々と呉越同舟できないところが難しいところなんです

 大江山での霊山召喚騒動は、召喚用の円陣の解除に、生贄にされていた人々を逃がしたこと、首謀者の酒呑童子を倒したことによって、どうにか幕を下ろした。

 もっとも。

 本家本元には全く出てこなかった、霊山召喚に悪路王と酒呑童子の戦なんて話が浮上した時点で、なにひとつ解決してないんですけどね!

 そもそもこれ、本来はサブシナリオのひとつで、それひとつで終わるはずだったのに、思いっきり皿科の存亡に関わる話になっていますからね!

 そもそも残り二柱とまだ契約すらしてませんけどね! まだ西の白虎さんにお会いしてない!

 ……まあ、私がツッコミどころ満載な状態にあれこれ文句言っても、主役は鈴鹿なんだし、鈴鹿の選択を待たないことにはどうしようもないのだ。

 酒呑童子に問われ、鈴鹿は尋ねる。


「とりあえず質問だけれど、あなたがどうして北の悪路王を討つと決めたのか、聞かせてもらってもいいかな?」


 鈴鹿の問いに、保昌に怪我を治された酒呑童子がしばらく彼女を睨んでいたものの、ようやく口を開く。


「……我は霊山を召喚し、あれを消滅させるつもりだった……悪路王がしようとしていることは、皿科の理を掌握することよ」

「理を掌握って……それは、あなたが霊山を使って、人と鬼を入れ替えようとしたことと、同じこと?」

「我が行おうとしたことは、あくまで皿科の霊長類の最上を入れ替えるだけのものよ。あれの行おうとすることはもっとまずい……問う、巫女。貴様がどうして鬼の名を冠するのか」

「……え?」


 その言葉に鈴鹿は困ったように瞳を揺らした。

 ……なんか、酒呑童子はものすっごくまずいことを言っているような気がする。そもそもこの話に出てくる女性キャラのほとんどは物語における鬼の名前から取られているし、男性キャラのほとんどは、鬼と称されているキャラ以外は全て鬼狩り妖怪斬りの逸話を持っている人たちばかりだ。

 まさかまさかと思っていたら、酒呑童子が言い出す。


「あれの行おうとしているのは、女の先祖返りだ……女に眠る鬼の本性を呼び覚まし、我らと同等にするつもりよ。幸いにも巫女は神の力を得ているのだから、それを手中に収めて、理を塗り替えるつもりだ。そんなことされては、こちらとしてもかなわない」

「ちょっと……待って。そんなこと……! そんなことしたら、この世は……皿科はどうなるの!?」


 とうとう耐えきれず、鈴鹿は悲鳴を上げた。

 おい……おい。

 クソプロデューサーちょっと面貸せや。一辺殴らせろ。

 お前鈴鹿贔屓な癖して、いったいなにをどう思って生贄にしようとしてるの!? というよりこの展開はなに!?

 物語において「悪路王と鈴鹿は元夫婦って設定あるし、それを今回はベースに仕立てました☆」って、そういうことか!? そのためにこんなクソ面倒臭い設定を大量追加したと? その展開のために和泉に可哀想な設定を付けた上で殺したと?

 だ・か・ら! これは乙女ゲームなんだってば! 主人公慢性は百歩譲ってギリギリ許容するにしても、女子キャラを紅葉含めてもっと大事にしろよ!? そして主人公の鈴鹿はもっともっと大事にしろよ!? 不幸を大量付加してそれをはねつける強いキャラをつくりたいんだったらまだいいけど、不幸で不幸をコーティングして不幸で塗り固めたら喜ぶ訳じゃないよ!? そもそもこのクソ重設定どうさばくんだよ! さばききれないからなぁぁぁぁぁぁ!?

 ひとりでさんざんツッコミを入れていたものの、怒りでわなわな震えていたら、私が怖がっていると判断したらしく、維茂が気を遣ったように声をかけてきた。


「……紅葉様、もしこの話を怖ろしいと感じるのでしたら、今は下山して白虎と合流ください。俺が話を聞いておきますから」

「い、いえ。大丈夫です。心配かけてしまい申し訳ありません、維茂」


 別に維茂に心配かけたい訳じゃないんだよ、私も。ただ怒っているだけで。

 酒呑童子は一瞬だけ私を見たものの、茨木童子みたいに妙に気に入って声をかけてくることもなく、話を続ける。


「鬼は体が頑丈で、魑魅魍魎を使役する力を持つ……困り果てた神が巫女を駆使して鬼を成敗した際に、ひとつ鬼に枷を嵌めた。もっとも、鬼は鬼で巫女に呪をかけたから同じだが」


「枷?」

「鬼に女はおらぬ。女の鬼は全て人に変えたからな」


 酒呑童子の言葉を受けて答えたのは、戻ってきた黒虎だった。

 鈴鹿は既に彼が戻ってくることを聞いていたらしく、彼に少しだけ会釈をするだけだった。


「これにより鬼は繁殖の術を失った。鬼は個人では人間より力で勝るものの、数では限りなく劣る。長寿であっても、頑丈であっても、その数を減らしてきた……故に鬼は眷属を欲する。ひとつは繁殖のためよ」

「……だとしたら、いくしま童子も」

「あれは憐れな女だ。居場所を失った故に我の眷属に変えた」


 ああ……あれだけ厄介だったというのに、それでも彼女は本当の鬼ではなかったのか。あれ、でも眷属では飽き足らず、人間の女性が全て鬼になってしまったら……これ、人間のほうが繁殖できなくならないか?


「……つまり、このままだと、皿科の人間が滅ぶと……そういうことだよね?」

「そうなるな……我は一族は欲しいが、わざわざ人間を滅ぼす気もない。数は多けれど短命な上に弱い。それを滅ぼしたところでどうなる。互いに食い潰すだけの世よ」


 鬼の力は強いし、酒呑童子だって簡単に地中のなまずを起こして山を崩せる程度の力を持っている。そんな鬼たちがどっかんどっかん戦争しまくったら……そして人間の女性がいなくなったら……人間は完全に滅んでしまう。

 そんなこと、誰も望んでないでしょ。そもそも……鈴鹿だけじゃない。紅葉だって鬼になってしまうことは、避けられない。

 体が凍りつきそうな恐怖を感じている中、そっと維茂が寄ってきて、私の肩を抱いた。その温度が、凍り付きそうな体を温めてくれた。

 黒虎は酒呑童子を見下ろす。


「して、我らが巫女を生贄に皿科を転覆させようとする鬼。あれをどうするつもりだ?」

「屠る。あんなもの、我らにとっても害悪だ。我らはそれぞれの縄張りで生きればいいだけのこと。互いに縄張りに手を出さない限りはなにもしないというのに、今回ばかりは勝手が違うからな」

「そうか……巫女、どうする?」

「……酒呑童子、ひとつ聞くけれど。私を生贄にして理を塗り替えると聞いたけれど。それは四神全てと契約したら、必ず悪路王は現れるということだよね?」

「そうなる」

「……わかった。私がさらわれようとするその直前に、悪路王の首をはねればいいんだね?」


 それ。つまりは。

 たまりかねて田村丸が叫んだ。


「おい、お前さんまさか……」

「私が囮になれば、皆で一斉に悪路王の首がはねられるよね? それでおしまいだ」


 もう、もう……! だからこの子はどうして自分を大事にしないんだ。それともあれか。クソプロデューサーの歪んだ性癖のせいで、鈴鹿は自分のことを大事にできないのか。それで手始めに彼女の心の拠り所の田村丸との思い出を奪われたのか。

 腹が立ってきた私は怒鳴る。


「ですから鈴鹿! あなたはもっと自分を大切になさい! 私や田村丸だけではありません! 維茂も保昌も……利仁も頼光も皆心配しますから! これはあなたが選ばれた巫女だからではございませんわ! 友人としてです!」

「……紅葉」


 そこで鈴鹿はしゅんとする。そういう顔しても、駄目なものは駄目。

 田村丸は田村丸で「はあ……」と息を吐き出す。


「言いたいことは全部紅葉に先を越されたが、俺もおんなじ気持ちだ。でも……そんな凶悪なもん、四神の力を全て借りにゃどうにもならんと思うが、あんたはどう思うんだ?」


 そう言って、黒虎を睨んだ。

 黒虎は「ふむ」と腕を組む。


「我らも自ら悪路王を押し留められれば幸いだが、残念なことにこちらにも制約がある。直接の関与は禁じられているが、巫女に力を貸すというのであれば、我らも力になれよう」

「つまりは」

「巫女は今まで通り、残りの二柱と契約を結ぶべきだな」


 結局はそうなっちゃうのか。

 やることは今までと変わらない。ただ、最後の一柱と契約した瞬間に、悪路王にさらわれる可能性があるんだから、その場で殺さないといけない……。

 タイムアタックか。タイムアタックだな。

 げんなりとしてきたものの、一旦は山を下りないといけない……麓の人たちを安心させないといけないんだから。

 下山前に、鈴鹿は酒呑童子と茨木童子に尋ねる。


「協力は、できないのかな?」

「今なれ合えば、あれに勘付かれよう。あれを討つ気はあるが、馴れ合う気はない」

「もう、本当にあなたってそういうところあるわね。まあ、巫女。私たちは私たちでなんとかするわ。ただ、あなたたちを今は攻撃しないってところだけれど」

「……今はそれで充分だよ。ありがとう」


 その言葉を交わして、下山していった。

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