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終盤に近付けば近付くほどシナリオが混線状態に陥るのは、ライターの腕なのか伏せカードが多過ぎるのかどっちなのでしょうか

 私たちは息を切らしながら、すっかりと日が落ちて暗くなった山道をひたすら走っていた。夜風が口の中に入り込んできて、これが前世だったら「森の空気おいしい」とのたまっていただろうけれど、そんな暇はまずなかった。

 残念ながら、ここから先は私の記憶が全くあてにならない。そもそも酒呑童子が悪路王と戦うために鬼を召喚するってなんだよ。本家本元ではそんなシナリオ展開はちらりともなかったのに、いったいどこから湧いてきた設定なんだ。

 クソプロデューサー、お前さてはブラックサレナの鬱ゲー担当で、そのノウハウを生かしてリメイク任されたクチだろ。

 ふざけんな、鬱ゲー好きだったらいざ知らず、私は本家本元の『黄昏の刻』が好きだったのに、どうしてそんな余計なことをしてくれちゃったんだ……!!


「紅葉、大丈夫?」

「え、ええ……大丈夫ですわ」


 念のために空を仰いだとき、私は瞬きをしてから、もう一度仰いだ。


「紅葉、どうかしたかな?」


 頼光に何度も目を瞬かせながら空を仰いでいるのを怪訝な顔で見られ、私は「い、いえ……」と言う。


「保昌から、天命は星詠みであっても読めない。鬼は運命には刻まれていないとは、頼光の言葉ですわよね?」

「そうだね」

「どうかしたの、紅葉」


 鈴鹿にまで心配そうな声を上げられ、私はおずおずと口を開く。

 待って、何度も何度も星見台に通って、星詠みのことを学んで星を見てきたけれど、こんなことはじめてなんだけれど。

 私は普段星詠みが見ている運命になぞらえた星座と一緒に、うっすらともうひとつの星座が見えるし、そこから鬼の同行が詠めることに、気付いてしまったのだ。

 待って。これ、もしかして……天命?


「天命が、詠めるみたいなんですけど……酒呑童子は、そろそろ生贄を陣に投げ込んで、召喚を行うようです」

「……っ! 急ごう! 黒虎! そちらは大丈夫!? えっ!?」


 私が狼狽えている間に、冷静に鈴鹿は皆を急ぐよう促して黒虎を呼び戻そうとしたけれど、途端に彼女は顔を強ばらせた。


「おい、今度は鈴鹿がどうした」


 田村丸に尋ねられ、鈴鹿は強ばらせた顔のまま答える。


「陽動班のほうに……茨木童子が出たって」

「はあ……!?」


 おい、おい。

 いくらなんでも盛りだくさん過ぎないか。こっちはいきなり天命が詠めるようになってどういうこととパニックに陥りかけていたっていうのに、更に追い打ちをかけるように茨木童子って。

 本当に、無事だよね、維茂は。他の皆も。

 私たちは全員顔を強ばらせたものの、この中で一番冷静だった頼光が固い口調で言う。


「……少なくとも、鬼の召喚さえ抑えれば、向こうは酒呑童子ひとりだということが確認取れた。急ごう」

「それもそうだな。他の酒呑童子の配下は、陽動のほうに回ったようだし。鈴鹿、走れるか?」

「……なんとか」


 いろんなことを一旦置いて、私たちは必死に走ることに務めたのだ。

 本当にさらわれた人たち、全員無事でいて……!


****


 刀を振るい、血を落とす。

 鬼の首がふたつ。かなり強い鬼ではあったが、幸か不幸かこちらの戦力のほうが勝った。

 救出班のほうは無事だろうか。既に月が空の真ん中に差し昇りつつある……星詠みの結果次第だが、もう少しで酒呑童子の儀式がはじまるだろう。


「巫女たちも無事なようだな。大方、酒呑童子も配下の四天王を二手に分かれさせたのだろうが、どちらも対処しきれたようだしな」


 黒虎がそう答えるのならば、あちら側に回った紅葉様も無事なのだろう。

 鬼の眷属にされた人々を倒すのだったら胸が痛むところだったが、今回はほとんどそのような者たちが出なかったのは、生贄に回されたせいなんだろうか。


「このまま真っ直ぐに突き進めば、そのまま鈴鹿様たちとも合流できるはずです」

「ふむ。あの鬼がおらぬようだし、あちらにいるんだったら対処したほうがいいだろうな」


 利仁の言葉に、俺は黙り込んだ。

 ……双子らしき鬼は初めて見る顔だったが、何度も何度も退治した、女の服を着た鬼……茨木童子が現れなかったことが気がかりなのだ。

 酒呑童子がなにかしらやろうとしているのだったら、普通は止めに来るのではないか。それがないということは、またなにかを企んでいるんだろうか。

 俺は刀を背中に佩くと「急ごう」と言った、そのときだった。

 急につむじ風が吹きはじめた……この気配。佩いた刀にもう一度手をかけると「あら」と聞き覚えのある声が響いた。


「まあ、ずいぶんとむさ苦しいことになっていたのね。騒がしいから様子を見に来たけれど」


 ……案の定、つむじ風が止んだと思ったら、その場には茨木童子が立って、「あらあら」と言わんばかりの顔でこちらを見回していた。そして白虎に目を留めると「あらあら」と小首を傾げた。


「まさか四神まで仲間にしているとは、巫女もずいぶんと悩ましいお年頃ね」

「貴様……! いったいなんの用だ?」

「それにしても、こちらに紅葉ちゃんはいないのねえ……困ったわねえ」


 俺が思わず刀を再び抜いて茨木童子の首を目指そうとしたとき、「あ、あのっ!」と保昌が口を開いた。


「あら、なにかしらおちびさん」

「……紅葉様がいないと、なにが困るんでしょうか? そもそも、あなたは酒呑童子を放置しておいていいのですか?」

「ああ、話が飛んじゃうところだったわねえ」


 手をぽんと叩いて、ころころと茨木童子は笑い出す。

 ……いちいち調子の掴めん奴だ。


「そうなのよねえ、酒呑童子がやらかそうとしているから、一時休戦しないって話を持ちかけようとしたんだけれど、こっちに巫女も紅葉ちゃんもいないからねえ」

「そちは酒呑童子の配下ではなかったのか」


 利仁は半眼で茨木童子を睨むが、茨木童子は「違う違う」と手を振る。


「私と酒呑童子は利害が一致しているから一緒にいるだけで、別に部下でも配下でもないわよぉ。それにねえ、今回ばかりは私もちょーっと手に余るからねえ」

「鬼が鬼に手を余るとは、一体?」


 黒虎はなにかしら感じ取ったのか、茨木童子の話を聞く体制になる。

 ……こいつは紅葉様になにかしらの執着を見せたし、何度も鈴鹿を殺しにかかっている。それを信じていいのか俺にはわからんが……保昌も利仁も、茨木童子を凝視して、少なくとも迎撃する気はないようだ。

 俺は太刀の柄に手をかけたまま、聞く体制に入ると、茨木童子はようやく口を開いた。


「酒呑童子はねえ……折角眷属にするためにさらってきた子たちを全員生贄にしようとしているのよぉ……霊山れいざんを召喚するためのねえ」

「……霊山、だと!?」


 聞いたこともない名前だったが、それには黒虎だけでなく利仁まで目を剥いた。

 保昌はおずおずとふたりを見比べて尋ねる。


「あ、あのう……霊山とはいったい……?」

「あれは最古の鬼だ……こんなもん呼び出したら……皿科のことわりが転覆する」

「え……?」

「巫女が四神と契約し、魑魅魍魎を調伏する使命を負っているのは、皿科の理が転覆することないよう、縫い付ける役割を果たしている……きゃつが復活するのを阻止するためにな」

「そ、それが復活したら、どうなるんですか……!?」


 そんな話、途方もない。

 そもそも四神の巫女である鈴鹿も、その話は知っていたのか?

 星詠みである保昌すら知らなかったのに……いや、待て。そんな四神しか知らないような話を、どうして利仁は知っている?

 思えば、気付けば鬼無里にいたこの踊り子のこと……里に来るまではいったいどこにいたのかとか、こんな魑魅魍魎が跋扈する中で踊り子で生計を立てられるのかとか、胡散臭い奴とは思っていたが、顔見知りではあるこいつのことを、なにも知らないことに今更気が付いた。

 俺の内心の疑問は、茨木童子の言葉で掻き消えた。


「人と鬼が入れ替わるのよ……だって、鬼は人、人は鬼。理を入れ替えられただけなんだから」


 ……このことを、本当に鈴鹿は知っていたのか? 紅葉様が知ったら、卒倒されてしまうのではないか?

 俺はその場の衝撃に、必死で耐えていた。

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