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酒呑四天王・二

 いくしま童子から逃げ出した私たちは、そのまま走りながら大江山を登っていく。

 しかし、ここが酒呑童子の縄張りのせいなのか、それともここを四神のうちの二柱と契約を済ませた巫女がいるせいなのか、魑魅魍魎とちっとも出会わない。

 ……でも私の記憶がたしかなら、大江山では魑魅魍魎との細かい戦闘はあったはずなのに。ゲームのシステム上の処理と、リメイク版のシナリオ処理とは違うのかな。私は走りながらも、どうしても首を傾げていた。


「しかし酒呑童子の配下の女鬼と立ち会いましたが、陽動班に回った皆は大丈夫でしょうか?」


 私が走りながら頼光に聞いてみると、頼光は柔和な態度ながらも答えてくれた……もっとも、頼光は柔和な態度を取り繕っているだけで、鬼たちに対して相当怒っているなあ感があるから、静電気みたいに気のせいかピリピリしている。


「そうだね……酒呑童子の配下の半分でも引き受けてくれたら、こちらとしては楽だけれど……あちらに茨木童子が回ってないといいけれど」

「……どうでしょうね、あの人、私のことを気にしていましたから」


 正直、酒呑童子がわざわざ自分の配下の四天王の内のひとりを回してきたんだから、いくしま童子ひとりとは思えないんだよな……。だからと言って、今茨木童子に来られても無茶苦茶困る上に、今は維茂がいないのに、彼がいないところであの人と相対するのはすごく嫌だ。

 私がどうしてもぶるりと身を震わせている中、鈴鹿はきっぱりと言う。


「駄目だよ、茨木童子が来たら、私が倒すから。ねっ、田村丸?」

「はいはい……お前さんはあれのことを相当嫌いだったみたいだからなあ。まあ、酒呑童子ほどでもないが」

「紅葉が嫌がることをしたら、普通は怒るよ。あと酒呑童子は……どうして私を気に入っているのかがわからない。それはいくしま童子も指摘していたけど」


 あーあーあーあーあー……やっぱりかぁぁぁぁ!!

 いったいなにがどうフラグが立ったのかわからんが、案の定追加攻略対象の酒呑童子のルートが開示されてる!!

 なんだ条件は。パラメーターか、四神契約の順番か、それとも和泉のイベントの開示か……!!

 茨木童子は私が引きつけたから……正直、本家本元をゲームしている時分だったらともかく、今の私としてはちっとも嬉しくない……鈴鹿にロックオンされるのは逃れたけれど、酒呑童子のほうのフラグ潰しが上手くいかなかったか。

 本当に、そもそもなにが目的なんだよ、酒呑童子。

 こっちだって、いきなりの生贄救出ゲームにびっくりしているというのに。

 そもそも、鈴鹿はなんとなーくだけれど、田村丸のルートに入りつつあるのに、このまんま好感度上げ続けて逃げ切って欲しいと私は思っている。仲人プレイは乙女ゲームのロマンだから。

 正直、他のキャラのルートはできる限り開示したくないっていうのに、リメイク版は本当にドス重シナリオぶち込んできたりと、ちっとも優しくないなあ!?

 ……私のがなりはさておいて、皆と顔を見合わせる。


「維茂たちが無事なのを祈りましょう」

「うん……保昌も利仁も、皆無事だといいのだけど」

「問題ないだろ、四神が一柱、白虎が手伝っているんだったらな。鈴鹿、あれと契約しているから、あれの居場所がわかるんだろう?」

「うん。今のところは無事みたい」


 そりゃそうか。白虎が無事なんだったら、よっぽどの敵……それこそ、ラスボス級の鬼、今だったら酒呑童子本人……が向かっていなかったら、なにも心配はないだろう。

 そのことにそっと安堵の息を漏らして、私たちは先を急いだとき。

 こちら目掛けてなにかが飛んできた。

 それに咄嗟に田村丸が大剣で捌くと、それが地面に突き刺さる。これは……鎖鎌?


「ほう……もう少し守護者を携えて来ると思っていたが、これだけの人数で酒呑童子様に退治しようとは。ずいぶんと強気なものよのう」


 こちらをせせら笑う声が、鼓膜を撫でる。その不快感で、鈴鹿は顔をしかめた。


「……貴様、酒呑童子の配下か?」

「いくしま童子では止めきれなかったか。惜しいのう、惜しいのう。あの女のところで立ち往生しておればよかったものを……」


 鈴鹿の言葉に返答する気がないらしい。

 いくしま童子の次か……酒呑童子の一角、金童子きんどうじかな。残りは双子の星熊童子ほしくまどうじ虎熊童子とらくまどうじといるけれど、あそこはふたりひと組のせいなのか、陽動班のほうに行ったのかもしれない。

 姿を見せずにせせら笑う金童子に向かい、黙って頼光は弓に矢を番いはじめた。


「……あのう、頼光?」

「私も先を急いでいてね。巫女を山頂まで送り届けないといけないし、なによりも」


 彼の動きは素早い。その弓は、重い音を立てて、真っ直ぐに飛んでいった。


「……私もこれでも怒っているんだよ。都の民を、返してもらいたくてね」


 やっぱり怒ってたんじゃん。

 柔和な口調に怒りを滲ませても、彼は相変わらず百発百中の腕前で、金童子を捕らえた。

 ドサリッと音がしたと思ったら、そこには赤銅色の肌に金色の瞳と、あまりにもわかりやすい鬼の姿の男がいた。

 頼光の射貫いたのは、彼の心臓をギリギリ避けてはいたけれど、致命傷には違いなかった。


「……なんなんだ、貴様は……」


 金童子は息苦しそうに言う。その転がった鬼の腕を踏みながら、頼光は柔和な声色にも関わらず、ぞっとするほど冷たい声で言い放った。


「手短にお話ししたいんだ。酒呑童子の目的を教えてくれないかな?」

「ぐぅ……誰が」

「ちなみにこの矢、今抜いたら間違いなく君は死ぬと思うけど、どうかな?」


 致命傷ギリギリの場所を射貫いたのはそれかぁ……! 百発百中の弓矢の腕なのにどうしてだろうと思ったら!

 彼が矢を掴み、今にも抜くぞ抜くぞと脅すと、金童子は「ぎぃ……っ!!」と声を上げる。頼光ときたら、その声に応じていやらしく矢尻を引っ張る……勢いよく抜いたら絶命するけれど、ゆっくり抜いたらひたすらずっと痛い。これだと拷問だ。

 金童子は必死で歯を食いしばったものの、こちらを見てニヤリと笑いながらのたまった。


「……生贄を捧げて……呼ぶのさ。新たな鬼をなあ。全ては戦のために」

「戦? 都とかまえるつもりなのか?」

「都なんぞいくらでも簡単に転覆できる……かまえるのは……北の……あ」


 そこまで言うと、頼光は一気に矢を引き抜いた。そのまま血が噴き出し、金童子は目を剥いて死んだ……絶命した彼の隣に、矢をうち捨てる。


「今の……北のって、黒虎ではなくて?」


 鈴鹿は顔を引きつらせる。

 田村丸は腕を組み、ちらりと頼光を見る。


「なんでお前さん、一気に引き抜いた? そのまま口を割らせればよかったものを」

「……いいや、あの鬼は『あ』と言った途端に絶命させられた。だが……北の鬼で、あのつくとなったら、もうわかるだろう? 酒呑童子は、よりによって鬼同士で戦をかまえるつもりだ」

「北に住まう鬼で、あ……まさかと思うが、悪路王か?」


 おい……おい。

 ラスボスは八瀬童子かあと思っていたのに。よりによってラスボスは、悪路王なのか!?

 私は悲鳴を上げそうになる。

 悪路王はぶっちゃけ、北の封印をラストに残さなかったら、本来だったらラスボスとして出てこないはずなんだ。いったいなにが、どんなフラグを踏んだら出てくるんだ!? そもそも、酒呑童子と悪路王が戦をかまえるなんて展開、初耳なんですけど!? でもそれだったら、どうしてさらった人たちを鬼の眷属に変えていたのかの説明がつくんだよな、戦のために手駒を増やすためだとしたら!!

 いったいどうなってるんだ、追加ルートは! これ、そもそもサブシナリオじゃなくって、もしかしなくってもリメイク版だとメインシナリオ扱いなの!? ねえ!!

 シナリオライターとクソプロデューサーの肩をひたすら揺さぶり続けて、吐けー、リメイク版メインシナリオどうなってるのか吐けーをしたくてたまらなかったけれど、鈴鹿が固い声を上げる。


「……悪路王と戦うために、酒呑童子が鬼を召喚しようって……余計に急がないとまずくないかな? さらわれた人たち、いよいよ危ないよ」


 そうだ。酒呑童子が戦をかまえる気なんだったら、召喚を食い止めないとどっちみちさらわれた人たち死ぬじゃん。

 私たちは、さっき以上に足を速めて駆け出した。

 間に合わないと、まずい、まずい……!!

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