ルートが分かれるとその分フラグ管理も細かくなるんですけれど、好感度チェックもある程度やりやすくなるので有効活用しましょう
大江山の麓にまでやって来たら、もう人の気配がない。
この上に酒呑童子がいるし、各地からさらわれた人たちもいるのか。
大江山のサブシナリオは、頼光狙いのとき以外はそこまで頑張った覚えもないけれど、さすがに和泉の一件を知っていたらスルーすることなんてできない。行くしかないんだ。
空を見上げて、昼間の星で星を詠んでいた保昌が「待ってください」と皆を制止する。
「あの、なにか見えたんでしょうか?」
私も見上げるけれど、気になるものはない。でも星詠みとしては私よりよっぽど先輩の保昌は違うみたいだ。
「……ここから先は、敵も布陣をしているかと思いますので、二手に分かれたほうが、早くさらわれた皆さんを救出できるかと思います」
「それは陽動班と救出班かい?」
「はい、田村丸さん」
そりゃそうだよな。酒呑童子がなにを企んでいるのかはリメイク版シナリオだからわからないけど、茨木童子以外にもあの人には配下がいるんだもの。全員を相手にしていたら、いつまで立ってもさらわれた人たちの救出はできない。
ゲームのときは、皆で一斉に向かったけれど、これは救出班と陽動班に分かれてフラグ管理をしていく奴だなあ。そうぼんやりと思いながら、私は「鈴鹿、どうしますか?」と促してみた。
鈴鹿は硬い顔をする。
「そうだね……頼光、田村丸、紅葉。一緒についてきてくれるかな」
んんんん? 私は珍しいメンバー選考に、目をぱちくりとさせた。
頼光はわかる。都の人たちがさらわれていて一番悔しい思いをしたのは彼だし。なんだったら大江山は彼のシナリオなんだから、鈴鹿が選ばずとも彼は鈴鹿と一緒に救出班になっていただろう。
田村丸もまあわかる。彼女も剣の腕は立つけれど、力の上では田村丸のほうが上だし、あの酒呑童子とやり合うとなったら彼の力は不可欠だろう。
……なんで私なんだ。私、星詠みとしてはまだまだ力がなくって、本当に補助詠唱一辺倒で、保昌みたいに結界も張れないし回復詠唱もできないのに。維茂と分かれるのも不安だし……。
「あのう……どうして私なんでしょうか? 保昌のほうがよろしくないですか? さらわれた皆さんも怪我をされているかもしれませんし」
「うん、それも考えたんだけれど。紅葉はあの山にいる鬼の茨木童子に狙われているから。もし陽動班に紅葉も混ざっていたら、あちらに茨木童子が行ってしまって、酒呑童子の配下全員の視線を集めるのは難しくなると思ったから。分散させたほうがいい」
「ああ……あの方ですか……」
あのやけに距離を詰めてくるおそろしい人を思い出して、自然と身震いがする……正直、私は茨木童子が苦手だ。なにをそこまで気に入ったのかはわからないけれど、あれだけぐいぐい来られると怖いし……捕食動物になった気がして、本当に気味が悪い。
私がブルリと震えていると、維茂が鈴鹿に抗議をする。
「あれは紅葉様を狙っておられる。それだったら俺もそちらに」
「駄目だよ、維茂。これ以上侍をこちらに入れたら、陽動にはならなくなる。そちらには酒呑童子の部下をできる限り引きつけてもらわないといけないんだから……そうしないと、そもそも救出ができなくなってしまう。あなたが紅葉のことを大事なのは知っているけれど、本末転倒は駄目だよ……ごめん」
「……っ、わかった」
鈴鹿も上手いな。維茂を黙らせた上に、こんなに殊勝な態度を取られたら意外と激情家の彼も怒りにくい。私はおずおず維茂に言う。
「……私のことは気になさらないでください。ちゃんと皆さんを救出して参りますから」
「紅葉様、くれぐれもお気を付けて」
維茂が今までにないくらいに歯を食いしばった顔をするのに、私はただただ困惑する。あなた公私混同する人じゃなかったでしょうが。
これは父様の命令が効いているせいなのか、紅葉個人を心配しているのか、いまいちわからないな。私はそうぼんやりと思っている中。
黒虎は腕を組んだ。
「じゃあ俺は?」
「黒虎はできれば陽動班に回って。あなたは私と契約しているから、私になにかあったらすぐわかるでしょう? なにかあったら飛んできて」
「あいわかった。そのときは巫女を無事守ってみせようぞ」
そう言って歯を剥いて笑う。なるほど、四神と既に契約している場合はそうなるんだ。だとしたら、彼を陽動班に置いていったほうが、万が一なにかあったときにすぐに合流できるんだな。
私は維茂に「気を付けて」と言ってから、救出班に入ることとなった。
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大江山の山頂に登るルートはふたつ。
直行するルートは保昌の詠みによると、既に酒呑童子の配下がいるせいで真っ直ぐ誘拐された人たちの元に行くことができないとのことで、ここは陽動班に行ってもらって派手に暴れ回ってもらうこととなった。
そして救出班は迂回しながらでも鬼が少ないルートとなる。ここは時間がかかるものの、今晩中には山頂に到達できるルートだ。
いくら鬼が神通力を持っているとはいえども、二手に分かれたメンバーをそう簡単に捕らえることはできないだろう。
念のため私も星を詠んでから、迂回ルートへと進むことにした。
真っ直ぐに空を仰ぎ、まだ日の落ちていない中で星を眺める。その中で、私はあれ。と目を瞬かせる。
「どうかしたかな?」
既に陽動班は出発してしまっているから、保昌に聞くこともできないけれど。
私は星を詠んでいて、少し違和感を持ったのだ。
「前に保昌に教わったんです。天命は動かせず、運命は動かせると」
「星詠みの考え方だね。私も都で星詠みからそう教わったよ」
皿科ではどうだか知らないけれど、都には有名な星詠みがいるもんだからなあ。私は頷く。一応運命の部分の星の動きをいつも観測している分からさっ引いて占うのだけれど。星の動きを詠んでいたら、白虎が無事に鈴鹿と契約を結んで仲間になったこと、さらわれた人たちが大江山に生贄にされかかっているところまでは詠めたけれど。
「……鬼の動きを詠むことが、できないんです」
「ああ、鬼は運命では詠めないのかもしれないね。それこそ天命が詠めるような星詠みでなければ無理だと思うけれど」
「その……前も伺いましたけれど、その天命と運命の違いって? どうして動かせない天命は詠めずに、動かせる運命は詠めるんでしょうか?」
このことは保昌にも説明を受けたけれど、未だに私も上手いこと飲み込めない。そもそも貴族の頼光だって、星詠みの専門職じゃないから、そんなこと言っても困るだろうけど。
私の質問に頼光は「あくまで私の知っている星詠みの受け売りだけれど」の前置きのあとに教えてくれた。
「鬼と人間の理が違うかららしい。魑魅魍魎がそれを分けたと聞いているけれど、私もそれ以上のことは知らないよ」
「理が違う……」
思えば鬼は魑魅魍魎が出ても元気にしているもんな。人間は魑魅魍魎に襲われたらただじゃ済まないから、こうして対峙している訳だけれど。
私は一応さらわれた人たちの運命を星から詠んで、ようやく皆のところに戻った。
「ここの迂回する道を進めば、なんとか救出できるはずですが……詳細は詠むことができませんでしたが、鬼が来るかと思います」
「おや、鬼のことは詠めなかったんじゃなかったかい?」
田村丸の当然過ぎるつっこみに「あくまでさらわれた人間の運命から詠んだだけで、鬼の詳細までは詠めていません」と返した。
鈴鹿は鬼ごろしの刀に触れる。
「うん、わかった……鬼に妨害されない内に登ってしまわないと駄目だね」
「そうですわね」
こうして私たちは、急いで大江山に足を踏み入れたのだった。




