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北の封印・二

 黒虎がかまえた。

 こちらは巫女に、侍ふたりに、弓使いふたり。後方に星詠みふたり。皆が得物を携えている。

 そして黒虎はいくら四神の一柱とはいえども完全に丸腰。

 これで本当に試練になるのか。そう思ったものの。

 黒虎がかまえた途端に、辺りの気配が一気に重く濃くなったのだ。今までとっちらかっていた冷気が一気に凝縮し、この辺り一帯だけが冷蔵庫通り越して冷凍庫になったような錯覚を覚える。重いし寒いし痛いし冷たい。五感が麻痺したような、そんな錯覚。

 ……ファンサービスが過ぎる設定とはいえども、シナリオの当たり外れが大きいとはいえども、レベルデザインが乙女ゲームユーザーをガン無視している一般ゲーマー寄りとはいえども、戦闘システム自体に手を抜いたことは、ブラックサレナは一度もないもんなあと思わずにはいられない。

 この気配に気付いたのだろう。鈴鹿も鬼ごろしの剣をかまえ、力を込めた。


「我が契約せし青龍よ、御身の力、我に貸したまえ……!」

「御意」


 途端に彼女の剣全体に稲光が走り、刀身が青白くなる。

 たしか、青龍の力は雷鳴なんだから、そのぶんだけ彼女の動きも速度が増し、彼女の刀身にも雷の力が宿るんだったか。

 鈴鹿は床を大きく踏むと、一刀両断せんとばかりに黒虎に襲いかかった。

 が、黒虎はにやりと笑い、金色の瞳を輝かせた。


「その粋や、よし。だが」


 あの電光石火のスピードで繰り出された一撃を、黒虎はなんなくと人差し指と中指で受け止めてしまい、そのまんま鈴鹿の動きを封じてしまったのだ。

 鬼ごろしの剣は、雷撃を纏っているにもかかわらず、二本の指で挟んで、威力も雷撃も殺してしまっている。鈴鹿もどうにか剣を取り戻そうとしても、押しても引いてもびくともしないし、刀身が折れそうで下手な力も加えられないでいる。


「なあ…………!」

「巫女、いい動きをしている。青龍の力を借り、一撃必殺で我を倒そうとした。実に結構……だがなあ!」


 途端に黒虎は刃から手を離したと思うと、鈴鹿は体勢のバランスを崩した。その崩れた鈴鹿の鳩尾に黒虎は膝で打撃を加えると、そのまま石段の最奥まで彼女を蹴り飛ばしてしまったのだ。

 あまりにもの速さで、守護者は動きを目で追うのがやっとで、誰ひとり鈴鹿と黒虎の間に立ち入ることすら、できなかった。


「鈴鹿……!!」

「はっはっは、巫女の心配をする守護者たち、その絆は実に美しい! だが、その絆が足枷となっては、巫女と守護者、互いに力を最大限発揮できないのでは!?」


 なんなんだ、クール系攻略対象かと思ったら、今時流行らないような体育会系男児かよ!?

 頭に前世でテレビでさんざん見たスポーツ選手の言動を思い出し、げんなりとする。

 だが、黒虎もただこちらを煽って弄んでいるとは思えない。

 ……こちらが自分たちのことで精一杯で、とてもじゃないけれど連携が取れているとは、お世辞にも言えないからだ。

 鈴鹿が強かったら全部片が付く訳でも、守護者が鈴鹿を守り通せたら皿科の魑魅魍魎が全滅する訳でもない。

 私たちに連携が取れていないと、警告しているのだ。

 ……師匠枠か、戦闘系乙女ゲームにいそうで実は結構少数派、いても非攻略対象なのがファンの要望に応えて追加攻略対象化か。

 ひとりで納得していると、後方に控えて弓矢を番っていた利仁が「ふむ」と喉を鳴らす。


「面妖なことを言うな、あれも。さて、青龍の加護が駄目となったら、どうしたものか」


 ……利仁、あんた素性隠す気あるのかないのか。いや、主人公の鈴鹿が聞こえてないんだったらそれでいいのか。

 保昌はというと、結界を張るために雪の散らばる空に向かって星を必死で詠んでいる……この状態だったら、本当に星を詠むには厳しい。

 私も補助詠唱を唱えたいけれど、これだとちっとも。

 だからと言って、こちらも連携って言われても。

 こちらが迷っていると「うん」と頼光は笑顔を浮かべた。


「いいひとと呼んでいいのかはわからないけれど、なかなか的を得ているね。彼の言動は」

「あんた、なにを言って……」

「事実だからねえ。私が都で指揮を執っていたどこよりも、ここは皆が好き勝手やるから、なかなか群れだった動きはできなかったからね」


 ざっくりと言うなあ、頼光も。まあ、都で指揮を執れるとなったらそれくらいのことはわかるのかもな。

 田村丸は苛立ったように頼光を睨む。


「だとしたらどうする? このまんま、統率取って倒せばいいと?」

「慣れていない連携は、返って黒虎に反撃されるだけだから、あまり意味がないと思うよ」

「じゃあどうしろと?」


 連携取れてないと言う黒虎。

 慣れてない連携は意味がないと言う頼光。

 真逆なことを言っているような、と思って気が付いた。私は手招きして、維茂を呼ぶ。


「ねえ、維茂。慣れてない連携なら意味がないのでしょう?」

「……そう、頼光はおっしゃっていますね」


 維茂は維茂で、頼光に対して思うところがない訳じゃないから、無愛想な返事だ。今は鬼無里のことは横に置いておいて欲しい。


「慣れている連携なら問題ないということでしょう」

「……そういうことですか」

「はい」


 維茂はちらりと私の隣で星を詠み終え、どうにか詠唱を完成させている保昌を見る。

 保昌もこちらの話を聞いていたようで、大きく頷いた。


「……全体的に偏っていて、黒虎に通用するかはわかりませんが」

「なにもしないよりは、いいだろう。田村丸! いい加減に頼光に突っかかるのはやめろ!」


 あなたが言いますか。

 そう思ったけれど、突っ込まないぞ、私は。

 田村丸は一瞬罰が悪い顔をしたものの、「ああ、わかったわかった。鈴鹿!」と吹き飛ばされた彼女を助け起こす。

 よくも悪くも青龍の加護を借りたままだった彼女は、思っているよりも深手を負ってはいなかったようで、「黒虎の動きに反応できなかった……」と当たり前のように言う。今のは誰だって反応できなかったから。

 田村丸がひそひそと彼女に耳打ちすると、彼女はくすりと笑う。


「久し振りだね、そういうの」

「連携って言えるかは、わかったもんじゃないがな」

「でも私はそういうの好きだよ。幼馴染だもの」


 さてさてさて。

 バランスが悪いにも程がある幼馴染同士の連携でどうなるのか。そもそも紅葉は見ているだけだったからなあ。

 でも、黒虎に見せつけるにはちょうどいいのか。


「紅葉様、こちらに」

「わかりました! この場合、私が囮に?」

「……保昌に詠唱を使ってもらわねばなりませんから」

「わかっていますよ。しっかりやってくださいね」


 傍から見ると、訳のわからない会話をしているだろう。でも、幼馴染同士で、こんな訳のわからない会話を繰り返し行ってきたのだ。

 小さい頃の猪狩り。今回は猪が黒い虎に置き換えただけだ。

 それらを思い浮かべながら、私たちは散らばったのだ。

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