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北の封印・一

 一夜明け、私たちはいよいよ北の封印目指して出立することとなった。

 庄屋さんはここで鬼の眷属が出たにもかかわらず「お気を付けて」とたくさん保存食をくれたので、これで次の封印目指して旅に出ても、食料には困らなそうだ。

 北の封印に近付くにつれ、息が白く濁り、肌を刺すような痛みを伴った冷気が吹き荒れてくるようになった。

 ザックザックと雪の凍った道を通りながら、だんだんと近付いてくる北の封印を見て、「念のため最終確認しておこうか」と頼光が提案してきた。

 昨日は屋敷で鬼の襲撃に見舞われたために、まともに作戦会議はできなかったものの、北の封印で試練中にできる訳もない。

 息を濁らせながら、周りは頷いた。


「北の玄武の眷属との戦いだけれど……あれは骨が折れそうだね」

「うん、そうだね……玄武の眷属ってことは、亀御前や大蛇になるのかな」


 鼻を赤くしながら、鈴鹿は言う。

 前のときも大変だったけれど、今回も骨が折れそうだなと私は思う。でも私は補助詠唱しか使えないし、背後でサポートに回らないといけないからな。

 本当に自分が戦えないってつらいなと思う。大昔、乙女ゲームで非戦闘系ヒロインがしゃしゃり出て状況悪化するのを見るたびに「お前は引っ込んでろ!」と憤慨したもんだけれど、今になってわかる……なにもできないお荷物時間が長過ぎると、それだけで充分人間のメンタルは削れるんだ。余計なことして場を引っかき回してでもいいから、自分の居場所をつくろうとして変な行動を取るんだろうなあ。

 閑話休題。私はおずおずと鈴鹿に尋ねた。


「あのう、大蛇はわかるんですが、亀御前とはいったい……?」


 玄武は世の中では亀と蛇が合体した神とされている。大蛇はあちこちで聞くし、有名な八岐大蛇なんかも大蛇の一種だからすぐわかるけど、亀御前は聞いたことない。私の問いに、鈴鹿に替わって利仁が答えた。


「あれも蛇の一種よ。箱入りが過ぎるとそれもわからなくなるか」

「あ、ありがとうございます……箱入りじゃ、ないです」


 相変わらず嫌みだなあ……。でも亀御前、そんな名前なのに蛇なのか。

 大蛇と亀御前、どちらになるんだろうな。どっちも相手にするのは手こずりそうではあるけれど、個人的に大蛇のほうが楽そうかな、と思うけど。

 正直、試練は私が本家本元でプレイした感覚と違い過ぎて、いまいち私の勘で物を言っていいのかがわからない。

 私がひとりで考え込んでいる中も、作戦会議は続く。


「どちらにしても、試練は硬い防御のなにか、か……」


 田村丸が腕を組んで言うと、保昌がおずおずと口を開いた。


「あのう……それなんですけれど。既に鈴鹿様が青龍の加護と助力をいただいている以上、そこまでは問題はないかと思います」

「そうなの?」


 鈴鹿は意外そうな顔をしていた。

 うん。私も意外だ。まだ一柱としか契約していないんだから、もっと手こずると思っていたんだけれど、青龍が玄武に強いっていうのも、あんまり聞いたことがないし。

 私たちの視線を受けながら、保昌はおろおろしつつも説明をしてくれた。


「はい、もしこれが朱雀や白虎でしたら、僕たちももっと手間取っていました。なんといっても、青龍の加護は雷鳴ですから……他の二柱でしたら青龍の加護をもってしてもあまり意味がありませんでした。ですが、幸いにも青龍の加護からの玄武ですから、まだ脈はあります。ただ、鈴鹿様の体に負担がかかるかもしれません」

「青龍の加護で、大蛇や亀御前を出し抜ける……か」


 鈴鹿は自分の手を握って開いてを繰り返す。

 うーんと、要はあれか。この間の雷を落とすだけじゃなくって、スピード特化の加護が、物を言うってところかな。たしかにスピードで攻め立てて相手に防御させる暇を与えないんだったら、まだこちらにも勝機があるのか。

 玄武だったら防御が硬過ぎる上に、甲羅に隠れられてしまったら雷が全く利かないから不得手だっただろうけれど、甲羅に入られてしまうより先に攻撃してしまえば問題ないらしい。なるほど。

 維茂もまた尋ねる。


「ということは、鈴鹿が加護を借りている間に、こちらは集中砲火を浴びせれば試練は突破できるということでいいか?」

「机上の空論ではありますが、そうなります。そうなるように、こちらも攻撃に専念できるようにしなければなりませんが」


 そうだよな。

 私たちは星を詠むことである程度の予想は立てられるものの、完璧ではない。星を詠んで完璧に未来予知ができたら、そもそも鬼の襲撃なんて詠めていたからね。鬼の理はどうにも空には浮かばないらしいから、こちらも星を詠みながら詰め将棋の要領で読み解いていくしかあるまい。

 だんだんと雪が強く細かくなり、視界を遮っていく。

 私たちは急いで北の封印へと向かった。

 やがて。白い石段が見えてきた。

 ……次の封印だ。

 足を踏み入れた途端に、さっきまでの雪と冷気がぴたりと治まる。

 結界があるかどうかまではわからなかったけれど、これも白虎の力なんだろうか、と戸惑いながら後ろに振り返っていると、鈴鹿が鬼ごろしの剣を引き抜いて、声高らかに宣言した。


「私は四神の巫女、鈴鹿。東の青龍に続き、北の玄武に契約を申し込みに来た──……!!」


 その声がぐわんぐわんと反響する。

 やがて石段は光り輝く。


「よく来た、我が巫女。青龍に続いて我とは、見所のある女子おなごよのう」


 勝ち気な声が聞こえた。

 ……ん? 私は背中に嫌な汗をかくのを感じる。

 なんだろう、青龍のときと、若干台詞回しが変わってないか? 個性か? でも。

 本家本元は、もっとさっさと試練入るぜって感じだったのに。

 やがて。石段の上になにかが降り立った。

 出てきたのは、腕を組み、胴着を着て鉢巻きをした、銀髪に金色の瞳の男性であった。腕も胴着の胸元も逞しく、頬や腕からは白虎を思わせるような入れ墨が入っている。肌はこんがりと焼けている。

 ……あれ、この人……本当に玄武か?

 というより、これ……どちらかというと虎の意匠じゃないか?

 白虎を黒くしたら、ちょうどこうなる……これじゃ黒虎じゃないか。

 私が冷や汗を掻いていると、利仁が空気を読まないようなことをボソリと呟く。


「なんだ、この色ボケは」


 ねえ、この場面で言う言葉かな? まさかまさかまさかと思っていたけれど、やっぱりまさかなのかな?

 ねえクソプロデューサー、本当に一度でいいから殴らせてくれないかな?

 なんで追加攻略対象に神が混じってんだ。追加守護者じゃ駄目だったんか。そもそも。

 玄武がデザイン的に華がないからって、土壇場に玄武から黒虎に変える必要ってどこにあったの!? たしか公式イラストレーターさんが「玄武が黒虎に置き換えられる例もあるんですよ」って言って、非公式で黒虎の絵を上げていたら、一気にファンアートに火が付いたのは見たことあるけど……!

 公式がファンアートを逆輸入ってどうなの!? 成功例がない訳じゃないけれど、よりによって乙女ゲームの場合は恋愛前提でなのに、それをやるのは禁止事項じゃないのかな!? いきなり好感度MAXとかって、萌えどころが全然ないんですけれど!? 女性向けゲームと乙女ゲームって根本的に違うのに一緒くたにしてないか…………!? ほんっとうに何度も何度も言ったけど! いい加減にしろよ、クソプロデューサー!!!!

 ……はあ、はあ。

 私の脳内ツッコミはさておいて、鈴鹿は困惑した顔で黒虎を仰いでいる。


「契約……は?」

「ああ、是非ともしたいところだが、一応は試練を与えねばならんのでなあ。すまんな、巫女よ」


 だから言動! 『黄昏の刻』のメインシナリオに合わせてもうちょっと落ち着いた言動をしてくれ頼むから! チャラついた言動は他のゲームで間に合ってますから!!


「紅葉様、大丈夫ですか? そろそろ試練ですが」


 私がツッコミ疲れで息切れを起こしているのを、維茂に気を遣われる。

 まさか言えない、クソプロデューサー殴らせろで延々リメイク版をdisっていたなんて。

 黒虎はニヤリと笑いながら、構えた。


「……さあ、どこからでも来てもらおうか」


 ……あなたと殴り合いですか、そうですか。

 やっちまえ鈴鹿。のしてしまえ、のしてしまえ。

 投げやり過ぎにも程がある追加攻略対象に、私の血管はキレそうになっていた。

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