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乙女ゲームなんだから、恋愛脳過ぎるシナリオが嫌なだけでそりゃ恋愛くらいするでしょ

 和泉の墓をつくり、皆で手を合わせてから、庄屋さんの屋敷の掃除を済ませる。

 全部を祓い清めてしまったら、もう彼女が死んだ形跡も瘴気が発生した事実もわからなくなってしまい、さっきまであったことは本当にあったことなのかなと思ってしまうけれど。 全部終わってから、皆で作戦会議をすることになった。

 明日には北の封印に向かうからだ。


「しかし難儀なものだね。大江山の酒呑童子……さらった人々を鬼の眷属に変えている以上は、先に彼を倒すのが正解とは思うけど……」


 都の人間である頼光からしてみれば、星詠み不足で身動きが取れなかった分、フリーの星詠みがふたりもいる巫女と守護者ご一行でさっさと倒したいんだろうけど。

 でも大江山は北の封印の近くではなくて、西の封印の管轄なのだ。北の玄武をほったらかしにして、先には進めない。そもそも西の封印もまた、大量に瘴気を発生させている以上、青龍だけでなく白虎とも契約していないと危険だ。

 そもそも北の封印を優先したのだって、魑魅魍魎の量によるものだからなあ。さっさと北を平定させてからじゃなかったら、また魑魅魍魎が北の人たちを圧迫させてしまう。

 私がそう考えている間、鈴鹿は険しい顔で首を振った。


「理屈はわかるんだ。酒呑童子は放ってはおけない。なによりも、前連れていた部下がいないことが気がかりだ」


 だよなあ……私もそう思う。

 さんざんこちらにちょっかいをかけてきた茨木童子が、何故か不在だったのだ。あの人、酒呑童子の右腕だけれど、酒呑童子に完全に心酔しているタイプじゃない。

 たしか能などでも伝わっている『大江山』によると、都から人をさらっていたのは酒呑童子の息のかかったものたちだったはず。もしかしたら茨木童子がまた人をさらって鬼の眷属に変えているのかもしれないし。

 なによりも厄介なのは、今回攻略対象疑惑のある酒呑童子、茨木童子以外にも、あの人は大量に部下を抱えているということ。

 ……まだ青龍の力以外借りられていない鈴鹿と守護者ご一行では、荷が重すぎるんじゃ、というのがある。

 鈴鹿は言葉を続ける。


「私たちは、北の封印に向かって見事に失敗している。だから、大江山に向かい、さらわれた人々を救出するためにも、力が欲しい。そのために、先に北の白虎の力を借りたい。だから、北の封印に急ごう」

「それが妥当だろうな……いくら瘴気を斬ることができるようになったとしても、星詠みのように祓うことができるようになった訳ではないし、鬼の眷属に変えられた人間を元に戻せるのかは未知数だ」


 田村丸がうんうんと頷くと、途端に鈴鹿は苦しげに顔を曇らせる。

 ……和泉を斬ったのは、間違いなく鈴鹿だ。眷属になった人たちを助ける術があるのかどうか、わからない。少なくとも星詠みだって黒いもやを晴らすことはできても、魑魅魍魎を祓うことはできても、鬼の眷属に変えられた人を人間に戻すなんて芸当、できやしないのだから。

 私は鈴鹿の隣で彼女の手をきゅっと握ってから、田村丸を睨んだ。


「それ以上は言い過ぎです、田村丸」

「すまんすまん」


 本当に……鈴鹿を平気で傷付ける物言いは、本来の彼にはなかったものだ。鈴鹿に対する無神経さは、彼の記憶が完全に戻ってないせいだろう。

 なおのこと、北の封印に急いで、彼にかかっている呪いをまたひとつ解くべきだろう。それが鈴鹿と田村丸を元の関係に戻すための最善策なのだから。


****


 本当だったら鈴鹿と一緒の部屋で、今すぐにでも休みたいところだけれど。

 鈴鹿が私に申し訳なさそうに言ってきたのだ。


「……ごめん、今は私ひとりにしてくれないかな?」


 本当だったら、ここで放っておくのは怖いし、無神経にも「嫌です」と言ったら鈴鹿は傍に置いてくれただろうけど。彼女を慰めるのは私がしないほうがよさそうだ。


「わかりました。どうか思い詰めないでくださいね」


 それだけを伝えて、私は一旦廊下へと出た。

 ひとりで月でも眺めていようとしたとき。既に先客がいた──……維茂だった。


「維茂も、お月見ですか?」

「……そういう紅葉様は? 明日は早いので、早く寝たほうがいいかと」

「鈴鹿が今、落ち込んでいますから。ひとりになりたいときだってありますよね」

「彼女は誰も放っておかないでしょう。あなたがひとりで部屋を出たのなら、なおのこと心配して誰かが様子を見に行きます」

「そうだといいのですけど」


 できれば田村丸が行って欲しいけど、今の彼女には刺激が強過ぎるかもしれない。だからと言って、仲のよかった人を亡くしたばかりの保昌に任せるのは酷過ぎる。

 利仁か頼光かの二択は、正直厳しいけれど。お願いだから彼女の心の膿を抜いてあげて欲しい。それだけは私にはできないことだから。

 親友だからこそ言いたくないことって、あるもんね。

 維茂もしみじみとした口調で言う。


「早く四神契約の旅が完了し、魑魅魍魎を滅することができたらいいのに」

「あら、珍しい。どういう風の吹き回しですか?」


 維茂の性格を考えたら、これだけストレートな主張は珍しい。私はからかい混じりにそう尋ねると、維茂は憮然としながら言う。


「俺たちは鬼無里で平和に暮らしていたんです。皿科ひとつを抱えるなんて荷が重いことから、早く完了されたいだけです」


 そりゃそうか。どんなに世界を救ってとか持ち上げられたとしても、私たちは皆、鬼無里以外を知らないから……もちろん利仁と頼光以外は、がつくけれど。

 私たちは月を見上げる。

 今は下弦の月。どんどん欠けて新月が来て、そこからどんどん膨らんで満月になる。弓のしなったような月は、今日も綺麗だ。


「月が綺麗ですね」


 この世界に夏目漱石はいないから、意味なんて通じないと思うけれど、そう言葉にせずにはいられなかった。

 ところが。


「俺はあなたのために死ねたらと思いますよ」


 ……ええっと、たしかこれは夏目漱石の言葉の返しとして有名な、二葉亭四迷のもじり。

 なんで。皿科に夏目漱石も二葉亭四迷もいる訳ないじゃん。

 私が目を見開いて維茂を凝視すると、ぷいっと維茂がそっぽを向いた。


「……正直、酒呑童子と相対するとなったら、いずれあれとも戦うことになるでしょう。あれは何故か紅葉様を気に入っていますが、あれに紅葉様を好きにさせる気はありません」


 ああ……なあんだ。私は心底がっかりした。

 維茂は、私がさんざん怖がっている茨木童子を警戒しているだけ、か。

 そりゃそうだよね。皿科には夏目漱石も二葉亭四迷もいないんだから、隠喩なんてわかるわけもないし。

 でも。西の封印に行く頃には、きっと先に大江山に行くことになるとは思う。

 ……大江山がラストじゃない以上、そろそろラスボスの存在も見えてきたなあ。

 全ての封印の四神と鈴鹿の契約が完了すれば、魑魅魍魎の封印を巡ってラスボスとの戦いになるはずだ。リメイク版でもさすがにそれを削っているとは思えないから。

 私は維茂に言う。


「維茂、私のことは守ってくれなくてかまいません。鈴鹿を守ってください」

「……たしかに俺は、巫女の守護者ですが、同時にあなたの護衛です」

「わかっています。私だって充分気を付けますから。あなたはあなたの守護者としての使命を全うしてください。私だって、鈴鹿を守りたい気持ちは本当なんですから」


 そりゃさー、フラグだフラグだわーいと、そのまんま維茂に飛びつきたい気持ちはものすごくある。できれば私が飛びつくんじゃなくって、紅葉が維茂に飛びついているのを土壁になって見守りたい気持ちはものすごくあるけれど。

 恋愛して、肝心の使命ほったらかしになんかできる訳ないじゃん。それにラストへの道筋は決定しつつあるけど、まだ今は鈴鹿は誰のルートを進んでいるのかも、未だに姿を見せない隠れ攻略対象ふたりも、わかんないじゃない。

 まだ安心して恋愛ができないんだよ。

 ルートが確定してからにしたい、本当に。

 我ながら逃げ腰過ぎるのに苦笑していたら、維茂はしばらく半眼でこちらを見ていることに気付いた。やがて、長い長い溜息をつく。


「……紅葉様の意のままに」


 あなたにそんなことを言わせる私を、あなたは許さなくってもいい。 

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