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ヒロイン以外の女子を貶めるような真似は、本当の本当にしないでください

 私が維茂に抱えられ、頼光と共に音の方向へと走り出して絶句する。

 この澱んだ気配は……どこからどう感じても鬼なのだ。


「どうかしたかな?」


 頼光に聞かれ、私は維茂の肩に捕まりながら伝える。


「……鬼の気配がします」

「なるほど……とうとう本性を現したってところかな」

「でも……こんなことって……」


 ここでまざまざと彼女が鬼だって宣言をされて、こちらも愕然とする。シナリオの整合性どうなっているの。私の頭の抱えたい衝動はさておいて、維茂が固い口調で言う。


「和泉、ですか?」

「はい……鈴鹿の気配もしますから、交戦中なのはこの奥でしょうね」

「わかりました。急ぎましょう」

「わっ……!」


 維茂がぐん、とスピードを速めたので、私は必死にしがみついた。そして隣を併走する頼光もちっともスピードを落としてはいない。


「しかし厄介な話だね、星詠みでも見抜けなかった鬼がいたなんて」

「ああ……前に現れた鬼と関連しているのか?」


 それって、酒呑童子と茨木童子かあ……私は以前に出会った茨木童子のことを思い出してげんなりとする。

 そうだ、追加攻略対象のこのふたりのルート、全く捕捉できてないけれど、彼らのルートが進行してないとも限らないんだ。はっきり言って茨木童子の興味は私に移ったから、よくも悪くも鈴鹿とフラグは立ってないとは思うけど……酒呑童子のフラグがわからないんだよな……。

 そもそも本来の和泉関連のサブシナリオが保昌のものだったはずなのに、何故か田村丸のサブシナリオに切り替わっているんだから、クソプロデューサーが日本の妖怪の逸話に詳しいとはお世辞にも言えない。

 とりあえず、見つけ次第加勢するなり、説得するなりしないと。

 そうこうしている間に、維茂が急ブレーキをかけた。そのブレーキで落ちそうになり、私は必死に彼の分厚い背中にしがみつく。


「どうしましたか!?」

「申し訳ありません、紅葉様。体勢は大丈夫ですか?」

「なんとか……」

「……瘴気です」


 黒いもやが、こちらを通せんぼせんとばかりに発生していたのだ。

 これを蔵に避難させている人たちに浴びせたらたちどころに魑魅魍魎になってしまうし、今ここで祓ってしまうしかない。

 私が塩を撒いて祓うと、急に閃光が最奥から発生した。


「なんですか!?」

「おやおや……巫女のようだねえ」


 頼光が手持ちの扇子でぴたんと自身の口を突っつく。


「鈴鹿か?」

「あれは伝承で聞いたことがある……彼女が契約した、青龍の力だ。和泉との決着もすぐだろうね」

「そんな……」


 私のポロリと言った言葉に、維茂は怪訝な顔で、私を床に立たせた。


「紅葉様?」

「……なんでもありません。ここの黒いもやを祓って、皆と合流しましょう」


 泣いちゃいけない。一番泣きたいのは鈴鹿だろうに、私が泣いたら鈴鹿が泣けなくなる。

 私は泣くのを必死に堪えて、維茂の背中を追って走りはじめた。

 四神と契約した巫女の力は──鬼の眷属では手に負えないものだ。


****


 私は太刀の柄を力を込めて握り、和泉に切っ先を向けた。目を閉じると、先日に出会った青龍の姿がありありと浮かぶ。


「我が契約せし青龍よ、御身の力、我に貸したまえ……!」

『御意』


 すぐに声は返ってきて、私の刃はきらめいた。

 青龍の力は雷の力。そしてその白刃は、神通力を切り裂く力。

 私はそのまま刃を向けた。


「これで、終わりだ……!」


 黒いもやを発生させても、黒いもやは私の刃の上で斬れた。それで突破口が開かれる。


「鈴鹿……!」


 田村丸の声と利仁のいつもの捉えどころのない態度を背に、私は和泉に躍りかかった。彼女は私にもう黒いもやが利かないのを見ながら、最後にちらりと保昌を見た。

 保昌は、和泉が用意したやまももを少しだけ口にしてしまったがために、眠ってしまっている。彼が未だに目が覚めないのを見ながら、彼女はほっとひと息ついた。


「ようやく……終われる」


 その言葉に違和感を持ったけれど、彼女はそれ以上なにも答えることなく、私の刃に斬られた。鮮血が飛ぶ。

 魑魅魍魎は形を残さない。でも。

 その魑魅魍魎を使役する鬼は、そしてその眷属は違う。そのまま彼女は私の刃にかかって倒れてしまった。彼女はまるで人間のように、そのまま倒れてしまった。

 なんだかおかしい。この後味の悪さに臓腑がむかつきを覚えるものの、唾を飲み下すことでしか留めることができない。

 そんな中。


「ほう……青龍の力を使いこなすことができるようになったか」


 その聞き覚えのある声に、私たちはかまえた。

 私たちではまだ倒すことができないと、未だに真っ正面から戦ったことのない相手……酒呑童子だった。前にちらりと見た部下の茨木童子は、この場にはいないようだった。

 田村丸は直刀を、利仁は弓矢を向けるが、それに対してもなにもすることなく、倒れた和泉を見下ろしながら、ペタペタと足音を立ててこちらに近付いてきた。

 ……彼女は、鬼の眷属だと言っていた。

 まさかまさかまさか、と思いながら、私は酒呑童子を睨んだ。


「……彼女は、黒いもやを出す神通力以外使えなかった。戦うことはできなかったけれど……瘴気を出す以上は放っておくことはできなかった。まさか、彼女を鬼の眷属にしたのは……!」

「俺が都から攫ってきた女だからなあ、これは。いい女だった。惚れた男がいたと言っていたがな。忘れさせてやったさ」


 そう言って、ニタリと笑ったとき。

 私の血がぐらぐらと沸騰するように感じた。


「こっの……!!」


 こんな鬼、放っておいていい訳がない!

 殺してやる、殺してやる、殺してやる……!!

 私がそのまま酒呑童子に斬りかかろうとしたものの、それを田村丸がぐいっと私の太刀を掴んで止めた。彼の指から、ボロボロと鮮血が滲む。


「……っ! 田村丸、離して! あなたの手が切れてしまう!」

「落ち着け、鈴鹿。ああ、たしかにこの鬼はどうしようもない奴で、生かしておいていいことなんてひとつもないが……俺たちではまだ、こいつを屠ることは無理だ」

「だけど……!」


 私がなんとか太刀を田村丸から取り戻そうとするものの、彼の怪力で刃が折れそうで、なによりも彼の手をこれ以上斬ることができなくて、私が力を込められないでいる中、利仁が冷静に言った。


「鈴鹿、我も同じ意見よ。鬼、ここは見逃す。とっとと去ね」

「ずいぶんな言われようだなあ……? ここで一番力があるのは、俺のはずだが……?」


 酒呑童子はにやりと口元を歪めたものの、こちらに走ってくる足音に気付き、あからさまに顔をしかめた。


「……やれやれ、あれとの因縁は、また後日決着つけよう」


 そのまま姿をぐにゃりと歪めて、いなくなってしまった。

 ようやく田村丸が刃を離してくれたのと、保昌が目を覚ますのは、ほぼ同時だった。


「……んっ、僕はたしか……和泉さん?」


 保昌はぎょっとして、私が斬った和泉の遺体へと寄っていった。そして辺りの瘴気の気配に、彼は全てを悟ったような顔をした。


「……彼女の墓を、つくらせてください」


 そしてようやく合流した皆で、墓をつくることになったのだ。


****


 頼光が自分の情報網を使って都に問い合わせをしてくれて、ようやく和泉の素性が判明した。

 和泉は元々は都に住むやんごとなき姫君だったものの、大江山の鬼にかどわかされてしまったという。でも当時は瘴気の気配が強過ぎる上に、都一帯に瘴気を撒かれてしまって星詠みは瘴気の浄化のために身動きが取れず、彼女の救出に行けなかったんだと言う。

 頼光は少しだけ眉を寄せながら言う。


「元々、私も都から大江山へ向かう準備をしていたもののね、瘴気が強過ぎてとてもじゃないが近付くことすらできなかった……都からはずいぶんとさらわれてしまったからね。鬼がなんのために都の人間をさらっていたのかはわからなかったけれど……和泉の件でわかったよ。人間を無理矢理鬼の眷属に変えて、魑魅魍魎をばら撒く手伝いをしているとね」

「……そんな。私たちが、酒呑童子を倒せるような力があったら、和泉は眷属になんて……」

「それは我々、都側にも責任があるさ。もっと星詠みがいたら。眷属にされてしまう前にかどわかされた皆を救出できていたら……」


 頼光もまた、悔しそうな顔をしていた。

 そりゃそうか。元々は頼光は、都の治安維持を務める家系で、その力に寄って都から四神契約の旅に同行するよう命令されたんだもの。

 でも、これは……。

 リメイク版のシナリオ展開がどうなっているのかわからないけれど、私の知っているよりも考えられてないようで、相当考え抜かれたシナリオ運びになっていると痛感した。

 ……もっとも、恋愛方面でなく、殺伐方面にシフトしているとは思うけれど。

 てっきりこれは、保昌のサブシナリオから、田村丸のサブシナリオを被せに来たと思っていたけれど、違う。

 これ、リメイク版の頼光ルート、別名:大江山ルートに入っている。

 大江山ルートと呼ばれているのは、ラスボスが酒呑童子で、全体的に都と大江山の鬼たちを巡る物語になっているからだ。

 ただ不確定要素も多過ぎて、さっき田村丸のサブシナリオと踏んでいたのに、そうじゃなかったからなんとも言えない。そもそも酒呑童子の攻略対象化の道筋が不明瞭だからだ。

 私たちは墓の準備をしている中、保昌はというと、相当落ち込んでいた。眠ってしまっている間に、全部が終わってしまっていたから。


「……彼女が都の人だと気付いていれば、文通相手だと気付いていれば、もうちょっと僕が早く、彼女を斬る前に、彼女を巣くう瘴気を祓うことができたのに……」

「あのう……失礼ですが、保昌は和泉のことを……?」

「最初、しゃべったときはそうかもしれないと思っていたんですが、出自がわからなかったのでなんとも言えなかったんです。ただ、僕は一度都で星詠みの研修に出かけたことがありますから。そのときに文通したことがあるんです。話したことも、見たこともなかったんですけれど」


 ……おい、おい。

 ここで保昌と和泉の切ない話を加えるんじゃない。

 もう! なんでこんなにドス重い話ばっかり続くの!? 乙女ゲームじゃなかったの!? こんなのって、こんなのって……。

 あんまりじゃないかぁ……!

 叫びたいのを必死で堪えた。一番泣きたいのは、鈴鹿だ。私は鈴鹿が泣いてからじゃなかったら、泣く資格なんかない。

 でも鈴鹿ときたら、歯を食いしばって、土に埋まっていく和泉を見ているんだ。

 これで泣くことなんか、できないでしょ。

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