最近の乙女ゲームは友達同士の仲人プレイができなくなりましたが、一定数は仲人プレイが好きなプレイヤーも存在しているんです
私が死ぬ間際の乙女ゲーム界隈は、『黄昏の刻』も含め、何故か謎の配慮に満ち溢れていて釈然としなかったと記憶している。
乙女ゲームで主人公が恋愛するのにストレスだからと、ルート入りしていない男子がよそで恋愛するルートがことごとく削除、カットされることが続いたのだ。
主人公とルートに入った攻略対象以外のキャラに、恋愛フラグが立たない。他の女子キャラがいても、一切ない。かけらもない。そもそも女子キャラすらいないゲームすらあった。
私はその界隈を「えー……」と思いながら眺めていたと思う。
たとえば史実をモチーフにしている作品だったら、主人公と恋愛が発展しないんだったらよそから嫁を娶らなかったらまずいだろ。跡継ぎが生まれないし。全員養子を迎えるっていうのも、なんか主人公に都合がよすぎやしないか。
貴族が登場人物の作品もそうだ。あそこほど血筋に傾倒している人たちもいないのに「一途に主人公だけを愛する」と全員独身っていうのも、なんというか怖いよ。普通に主人公以外にも目を向けてくれよ、怖いよ。
主人公が友達に恋愛を相談しても、力いっぱい応援はしてくれるものの、グループ交際やダブルデートができない。友達ときゃっきゃしながら互いの彼氏自慢ができない。ひとりだけのろけを大量にくっちゃべっても、ただひとりだけ盛り上がっているみたいで、なんか気まずいだろ。
「いや、昨今は恋愛するときに、友達に見せびらかしたりしないからいいじゃん」って?
そんなもんリアルでやってみろよ。なんだこのスイーツはになるに決まってるでしょうが。二次元だからこそ、ダブルデートしたいグループ交際楽しい、推しと推しがきゃっきゃうふふしていると見て尊みを感じることができるんでしょうよ。
リメイク版のときに、死ぬ間際にものすっごく罵倒したけれど。
デウス・エクス・マキナ。
主人公にだけ都合がいい世界って、なんというか気味が悪い。
ご都合主義が透けて見えると、萌えるもんも萌えられないし、推し尊いに集中できないの。オタクは面倒くさいんだよ。
鈴鹿はそもそもそんなご都合主義望んじゃいないだろうし、他の女子にだって叶う叶わないはともかく、恋をしたってかまわないでしょうが。
で、私がさんざんクソプロデューサーと罵倒している、保昌と和泉のサブシナリオはというと。
北の封印の近場で、庄屋さんが預かっていた貴族の娘の和泉は、もっと魑魅魍魎が強い町に住んでいたけれど、いよいよ危なくなったからと疎開として北の封印近くの庄屋さんの屋敷に預けられていた。そこで立ち寄った鈴鹿たち巫女と守護者ご一行に話をせがみ、一番話の上手かった保昌に恋をする。
そうは言ってもこれから四神契約の旅を続けないといけないから、当然ながら保昌は困り果てた末に彼女の告白をお断りする。和泉は諦めるから、代わりに屋敷の中庭にある梅の花が欲しいとせがむものの、屋敷は昨今の魑魅魍魎騒ぎが原因で、瘴気が発生して枯れかけていた。見かねた鈴鹿が巫女の力で梅の木を蘇らせ、かくして梅の花を保昌は和泉に届けた。
和泉は保昌の恋の思い出を胸に、巫女と守護者ご一行の旅の無事を祈るというものだった……。
一応これは保昌ルートに入るための好感度爆上げイベントでもあるから、鈴鹿が保昌に訪れた恋の手伝いをしても、保昌は和泉になびかないんだよね。もちろんこのイベントを踏んでも保昌ルート入りしない場合もあるから、これのIFで二次創作はさんざん出たと記憶している。
たったこれだけのイベントをなかったことにするために、和泉のキャラ設定を変えて、なにがなんでも絶対に鈴鹿以外に恋愛させないぞと強い意志を働かされても、なんだよそれって思うのは私だけなのかな。
でもなあ……瘴気が出ているのは食い止めてもいいかもしれない。
本来このサブシナリオは保昌の好感度爆上げイベントだったはずなんだから、代理のサブシナリオは発生するだろうし、黒いもやや瘴気の気配を食い止めれば、この町の魑魅魍魎の被害は食い止められるはずだよね。
そこまで考えたら、鈴鹿と話をしに行くことにした。
ここで泊めてもらっているんだから、せめてお礼に見回りして魑魅魍魎が発生しそうならそれを食い止めようと言ってみよう。
……一応鈴鹿が進んでいるルートは、田村丸ルートだろうと思っているけれど、合っているよね。これ合っているよね。
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泊まる部屋は、さすがに男女と分けられていた。
維茂は私が戻ってくるまでは心配してか角で待っていてくれていたみたいだけれど、私が女部屋に向かおうとしていたので、安心して帰っていった。
まあ、庄屋さんの屋敷は門番さんたちもいるから、鬼がいきなり襲撃してこない限りは、なにも問題がないはず……残りふたりの追加攻略対象については、また別で考えないと駄目かな。
鈴鹿と私のあてがわれた部屋では、鈴鹿は太刀の手入れをしていた。油を差して磨く。これだけで、鬼斬りの太刀の鋭さは見違えるほどに蘇る。
「鈴鹿、少しよろしいですか?」
「あれ紅葉。どうかしたかな」
「ええ……あまりに食事が豪華でしたし、いくら私たちが次の四神の元を目指しているからと言っても、申し訳ないのではと思ったんです」
「うん、そうだね。あれだけの食事は、祭りのときじゃなかったらまず無理だから」
「でしょう? ですので、なにかお礼ができないかなと思ったんです」
さすが鈴鹿。いくら歓待してくれているからと言っても、普通に申し訳なく思っている。
私は感動しながら、続けて言ってみる。
「ですから、もしここに黒いもやがありましたら、私と保昌で祓ってしまおうかと思いまして。見回りはできませんか?」
「それはいいんだけど。でも紅葉と保昌に負担がかからないかな? 保昌もずっと力を行使できずに申し訳なく思っていたみたいだし、保昌が本調子じゃなかったら、紅葉に負担がものすごくかかるよ?」
鈴鹿の当然過ぎる言葉に、私は「うっ」と内心思う。
そうだよな、まだ保昌が本調子じゃないんだよな……まあ私も黒いもやを祓う程度だったら、星詠みとしてはなんの問題もないけど……。
そこまで考えて、ピンと来た。
「あの、それならここでお手伝いしてらっしゃる方に、保昌を預けて私たちで見回りという形ならどうでしょうか?」
「保昌を? 保昌が人の世話になるのを嫌がるんじゃないかなあ……」
「いえ。先程お会いした方だったら、喜んでお世話をしてくださるでしょうし、保昌も悪い気はしないのではないかと」
そうだ、いっそのこと、和泉に保昌を預けよう。そのあとサブシナリオが発生するかしないかは、はっきり言って運だけれど。
問題の梅の木も大丈夫かどうか見てこよう。うん。
鈴鹿は目をパチパチさせながらも、ひとまず太刀を収める。
「まあ、その人に迷惑がかからなくて、保昌が了承してくれるなら」
「ありがとうございます!」
それに心底ほっとしながら、私は横になった。
保昌と和泉のサブシナリオすら、発生しないようにキャラ設定が大幅変更されていたもの。他のサブシナリオは発生するのかしないのかがそもそもわからないもんなあ。
仲人プレイは憧れているけれど、なかなか難しいよね。クソプロデューサーが主人公以外の恋愛は害悪って考え方だから、余計にサブシナリオ周りがどうなっているのかわかったもんじゃない。
なんでもかんでも恋愛脳に持っていくのはよくないとは言うけれど。でもさあ、乙女ゲームから恋愛を取ってしまったら、もう戦闘しか残らなくない? それはそれで、寂しいと思うよ。多分。




