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だから女子キャラカットすればイケメンが全員主人公になびくとか、そういうのはないですから

 こうして私たちは北の封印を目指し、中ボスラッシュと相まみえることとなった。

 初っ端から狙った玉藻の前は、こちらが這々の体で逃げたことをよく覚えていて、私たちを見かけた途端に初っ端から狐火で逃げ道を塞いできた。


「また来たかぇ。巫女の力はわらわたちにとっては格別な馳走。もう逃げることは許しまへんぇ」


 そう言ってきたものの。私は詠唱を唱える。

 こんなピンチな状態でもまだ余裕が残っているのは、私たちも先の青龍戦においてレベルが上がったせいだろう。

 力が蓄えられた実感があるから、まだ間に合う。


「弓の弦たる欠けたる月よ、その身をもって禍と成せ……下弦!」


 詠唱でひとまず大きく玉藻の前の力を半減させる。そこで玉藻の前も、自身の力が弱体化させられたことに気付いたようだ。


「ずいぶんやってくれようなあ……! うっ!」


 私に襲いかかろうとするものの、彼女の動きを、利仁と頼光が弓矢を射貫いて封じ込める。


「これをやられたらこちらも困るからのう」

「うん、このまま大人しくしてもらおうか」

「おのれおのれおのれ……っ! 貴様ら、前はもうちょっと掌で転げられたやろう!?」

「それは、ずいぶん前の話だな」


 維茂が鋭く、太刀で玉藻の前を一閃する。

 途端に玉藻の前の体は崩れ、他の魑魅魍魎と同じく姿を消してしまった。

 前はさんざん手こずったのに、まともにレベリングしたらこんなに前衛のいないメンバー編成でもなんとかなるもんだね。

 休んでいた鈴鹿が心配そうに維茂のほうに寄っていった。


「維茂、ありがとう。もう大丈夫?」

「玉藻の前も倒したし、この辺りもしばらくは大丈夫だろう。それより、鈴鹿と田村丸は?」

「紅葉も利仁も頼光も、本当にありがとう。私たちももうそろそろ戦えると思う。ただ保昌がまだ詠唱を使えるだけの体力が戻っていないみたい」

「それは結構大変だな……」


 うん、大変だ。

 前衛が戻ってきてくれるのは嬉しいけれど、敵がこれ以上強くなったら、どうしても強い攻撃詠唱が必要になってくる。

 私も星詠みの力は持っているけれど、完全に補助特化してしまっているため、回復詠唱も防御詠唱も、もちろん攻撃詠唱も使いこなすことができない。

 その点本職の星詠みである保昌は、先の東の封印戦の疲れが未だに取れないんだ。これは一日田村丸の解呪をしていたのも大きいと思うけれど。いくらレベルが上がったとしても、詠唱を使えるだけの体力が戻ってくれないことには、こちらも次の北の封印へと辿り着けない。

 ひとまず私たちは、レベリングとこの辺りの魑魅魍魎の平定を兼ねて、中ボスラッシュへと勤しむけれど。


「くっ……前より強くなっているようだなあ、巫女ぉ……!?」


 鞍馬天狗を倒し、雪山にしか生えない稀少なきのこを地元の薬師が取りに行けるように平定し。


「キュキューン!!」

  「キュキュー!!」

 「キュー!!」


 狐の嫁入りの狐型魑魅魍魎の団体ツアーを阻止することで、地元の人たちが少しでも山に猟に出られるように整えた。

 これで北の封印に出るのが遅れても、多少はこの辺りの強く濃い穢れは祓われたはずなんだけれど。私は戦闘の仕上げに塩を撒きながら、辺りを見回す。

 それでもなかなか保昌の体力は戻らない。

 これは東の封印戦と田村丸の解呪もそうだけれど、根本的な問題として保昌は鬼無里にいたときからひたすら暦づくりや預言づくりばかりしていたせいで、体力が元々ないんだと思う。箱入り娘の紅葉よりもないんだから、よっぽどのことだろう。

 私たちはひとまず、宿として庄屋さんの屋敷に泊まって様子を見ることにした。

 北の封印の人たちは、これまたものすっごく歓迎してくれて、たくさんのご飯に、デザートに芋粥まで用意してくれるという歓迎っぷりをしてくれた。

 少し苦しくなるくらいに食べさせてもらってから、私は保昌に話しかけに行くことにした。


「保昌、大丈夫ですか? まだ詠唱は無理そうですか?」

「紅葉様……すみません。北の封印の契約を急いでいる皆さんの足を引っ張って」

「いいえ。むしろ私がもっと力があれば、あなたにだけ負担をかけなくっても済みましたのに……」

「そんな……! 顔を上げてください、紅葉様! 僕は別にそんなこと思ってはいませんから!」


 あわあわとされてしまい、こちらのほうが申し訳なくなってくる。

 食事を終えてから、鈴鹿はまた田村丸とコミュを取っている。相変わらず田村丸は完全には鈴鹿のことを思い出せてないみたいだけれど、こちらから見ても大分鈴鹿の表情が明るくなったから、かなり呪いが解けてきたようだ。いい傾向だ。

 維茂は相変わらず頼光とは相性が悪いみたいだけれど……というより、維茂はあの口の悪さと変に硬い性格が災いして、田村丸と保昌以外とはほぼ相性が悪いんだけど……機嫌は前よりは大分いいのは、幼馴染が安定してきたせいだろう。

 私は保昌に問いかける。


「それで、しばらくはここに滞在し、あなたの回復を待ち次第出立となるかと思いますけど。今は強い魑魅魍魎を大分祓いましたから、猶予はあるかと思います」

「そんな……僕待ちだなんて……!」

「そもそも、あなたがいなければ私たちも北の封印の試練に打ち勝つことはできないかと思いますから。これはおあいこですわ」


 それにこれ以上保昌は否定することもなかった。

 こうして、私たちのしばらくの滞在が決まった訳だけれど。

 私はなにか忘れているような気がする、と思いながらひとまずお手洗いに行ってから寝ようと借りた客室から出て廊下を歩いているとき。廊下の角でたまたま出会った使用人さんとぶつかってしまった。


「も、申し訳ございません! 守護者様!」

「い、いえ! 顔を上げてください! ……あら?」

「はい?」


 私はそこで出会った使用人の女性に目が点になってしまった。

 前髪を綺麗に切り揃えて、あどけない瞳をしたやけに睫毛の長い少女……着ているものは袿と、庄屋屋敷で働いている子だったら特段珍しくはないはずだけれど。彼女はリメイク前の『黄昏の刻』で見たことがある。

 どこでだっけなあ。私はしばらく考えていたら、彼女は「それでは守護者様! 私はこれで!」と帰ろうとするので、慌てて引き留める。


「い、いえ! 私たちはしばらくここに滞在致しますから。私は紅葉と申します。あなたのお名前をお聞かせくださいな」

「そんな……! 守護者様……紅葉様にわざわざ名乗るような名前なんて」

「なにも聞かないよりも、よろしいでしょう?」

「……私は、和泉いずみと申します」


 それに私は、ようやくガチッと記憶を取り戻した。

 私が一瞬固まったのに、和泉はおろおろとする。


「あの、どうされましたか?」

「い、いえ、なんでもございません。それでは、どうぞよろしくお願いしますね」

「はあ……」


 彼女が呆けている間に、私はスススと部屋に戻った。

 ……クソプロデューサー。お前なにしとるんじゃ。

 和泉って。あの子。保昌に片思いする姫だったはずでしょ!? なんであの子使用人待遇になっているの!? 使用人になったら主人公の恋路を邪魔しないから!? そんな主人公ageのために他女子sageするのは怖いんですけど!?

 でもなあ。あの子、保昌に片思いするようなエピソードできるのかなあ。

 姫だったときの和泉は、保昌にひと目惚れしてさんざん振り回すという典型的な片思いラブコメみたいなサブシナリオがあったけれど、嫌な女の子じゃなく、本当に微笑ましいレベルに留めていたはず。

 使用人だったら、振り回すようなことなんて、そもそもできないんじゃ?

 バーカバーカ、プロデューサーの血は青いんだー。

 私はイライラしながらも、滞在期間中は彼女を見守ることにしようかと考えあぐねることとなった。

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