ボス戦の作戦考えながら恋愛ルートを模索するのは、なかなかの無理ゲーだと思うのですがどうでしょうか
東の封印を目指して、あと一日で到着できるくらいまで進むことができた。
やっぱりレベルを上げて物理で殴るのは正義だったんだなと、逃げ回るだけで北の封印に近付くことすらできなかったことを振り返って、しみじみと思う。
もっとも、私は物理担当ではなく相変わらずの補助詠唱以外はなにひとつ覚えることができないまま、だんだんと強くなる補助詠唱で周りをサポートしていた。
保昌みたいに結界を張ることも、治療することも、体力を回復させることすらできないけれど。ちょっと幸運を足してみる。ちょっと攻撃力を足してみる。相手の攻撃力を削いでみる。流れを整えるだけで周りはずいぶんと戦いやすくなっているようで、北の封印のときよりも周りも格段に強くなっている。
これなら、東の青龍の試練でも、無事に力を発揮することができるだろう。
ところで。皆で休憩を取りながら、私はちらちらと鈴鹿を見ていた。
この数日、鈴鹿を観察しているものの、鬼無里でいたときは、どうにか田村丸とコミュを取ろうとして空回って落ち込んでいたのが一転、やけに維茂としゃべるようになったのは、どういうことなんだろう。
一応『黄昏の刻』の攻略対象に対する好感度アップは、選択肢以外だったら、戦闘で一緒のパーティーに入って一緒に戦闘を行う。それぞれに対してアイテムや回復詠唱を使う、なんだけれど……どちらも前衛戦担当なんだから、戦闘パーティーに入った分の好感度しか上がらないはず。
幼馴染だし、他の攻略対象よりも好感度は上がりやすいとは思うけれど。でもそれだったら保昌に対してはほとんど鬼無里にいたときと態度が変わらないことの説明が付かない。
田村丸が呪いのせいで、強制的に鈴鹿に対する好感度を下げられているのを差し引いても、説明が付かない現状に、私は内心ひやひやしている。
まさかフラグもなにもかもをぶち壊して「維茂は私の!」なんて言える訳もないし。そもそも維茂は紅葉に対して興味があるのかないのかが、未だにわからないんだもの……話しかけると素っ気ないし、一緒に食事を摂ろうとしてもすぐに「見張り」と席を外しちゃうし。なんでそこまで避けるのと、わからないでいる。
「なんじゃ、紅葉。面白い顔をして」
「……利仁」
と、口が悪いのその二に声をかけられて、私は閉口する。
今の鈴鹿のフラグがどうなっているのかさっぱりわからない中、利仁は我関せずと勝手に踊りの稽古をしたかと思ったら、狩りをして魑魅魍魎に憑かれていない鹿を狩ってきたりするものだから、フリーダムが過ぎて全く読めない。
この人、個別ルートに行かないと、本気で有能な賑やかし要員という謎過ぎるポジションに落ち着いてしまうから困るんだよなあ……。
そんなことを考えながら、なんとか答えを絞り出した。
「もうそろそろ東の封印に着くんだなと思っただけです」
「さようか。まあ、青龍も玄武と比べれば、大夫と温厚だから滞りなく契約も済むだろうの」
ここで鈴鹿だったら「ずいぶん詳しいんだね」と言うんだけれど、私は言わんぞ。それ利仁の正体に関するフラグが立つし、私はそもそも利仁狙いではない。
私が気のない返事で「そうだといいですね」とだけ答えるものの、利仁は特に気にする様子もなかった。
「このところ鈴鹿がからかい甲斐もないからの、つまらんと思ったまでよ。そちまでつまらなくなってくれるな」
「まあ、私。あなたにからかわれるいわれはありませんわよ?」
「それでよかろうよ」
なんで鈴鹿をからかいに行かないんだ、利仁。さっぱりわからん。私が内心頭を抱えている中、頼光は武官らしく地図を持って鈴鹿のほうに近付いていった。鈴鹿はちょうど彼女の得物に脂を差しているところだった。
「やあ、鈴鹿。そろそろ青龍に対する対策を考えたいのだけれど」
「対策? 封印に着いてみないと意味がないんじゃないかな?」
「そうは言ってもね、巫女の力を証明しなくては、青龍と契約はできないのだから。考えておくに越しておいたことはないと思うよ」
「まあ……そうだよね」
それもそうか。この辺りは、東の封印に近付いているせいなのか、森の鬱蒼とした雰囲気が強く濃くなってきている。
東の青龍が操る力は、五行でいうところの木を表し、植物の力を使ってくる。植物の力っていうとものすっごく抽象的だけれど、封印に近付くにつれて魑魅魍魎は減り、代わりに野生動物が力を付けて襲ってくるようになった。
つまり、栄養状態が他の封印と比べても桁違いに強いんだ。
鈴鹿は頼光に促されて「皆」と呼んで、それぞれ座って話し合いをはじめることとなった。
頼光が持ってきた地図は、ちょうど封印の祭壇の図が描かれている。
「おそらく、青龍が現れるのはこの祭壇で、その祭壇付近が戦場となるわけだけれど」
「青龍の試練って、青龍本人と戦うのかい?」
田村丸の素朴な疑問に、頼光は苦笑して「違うよ」と答えた。
「四神契約の儀では、四神のそれぞれの眷属と戦うこととなっている。青龍の場合は、おそらくは木霊だろうさ」
「木霊かあ……」
木霊は長い年月生きた木に宿る精霊みたいな奴だ。それが青龍に傅いているのかと思うとちょっとだけ面白い。
話をしばらく聞いていた保昌は「どうしましょう……」と眉をひそめる。
「どうかしたかな、保昌?」
鈴鹿に話を振られて、保昌は頷く。
「いえ、一応木霊の対処方法はあるんですけれど、これは巫女が青龍に認められないといけないのに、大丈夫かなと」
「それって、火は木に強いから、火の力を用いて、木霊を焼き払うというもの?」
「……そう、です」
そりゃあな。これが鬼や魑魅魍魎だったら、問答無用で焼き払う詠唱を使えるけれど、今回は試練だ。青龍に認められる戦いをしなかったらいけないのに、木霊を焼き払ったら、青龍の心象は悪くなるだろう。
……こう考えるのが、ゲームプレイヤーと転生者の違いだろうなと私は思う。現地の人たちが悩む気持ちが思いっきりわかってしまうから。でもここで日和っていたら、いつまで経っても青龍の試練はクリアできないし、北の封印にだって到達できない……あそこが一番魑魅魍魎が跋扈しているんだから、青龍の加護なしで突破なんて、無理だろう。
でも保昌の炎の詠唱が使えないとなったら、この戦いは相当厳しくなると思うけれど、どうしよう。皆でうーんと考えている中、ぼそりと維茂が言った。
「あれが植物と同じ性質ならば、目くらましをすればいいのでは?」
「目くらまし……ですか?」
「紅葉様の詠唱は、相手に直接危害を加えることはできずとも、補助には優れている。おまけに植物は時間には逆らえない」
あ。そうだ。
植物は基本的に、日の光を受けて目覚め、日が落ちるのと同時に眠る。どんな生き物よりも日の光の影響を露骨に受けるってことは。
「……木霊を目くらましできて日が落ちたと錯覚させれば、動きを封じられる、でしょうか……?」
「紅葉、できるかな?」
鈴鹿に尋ねられ、私は考える。
多分、目くらましだったらなんとかなると思う。私が頷くと、鈴鹿は周りに言った。
「まずは紅葉の詠唱を支援して。彼女の詠唱が完了次第、攻撃に移る」
これで、まずは東の封印の戦闘方針は決まった。
いきなり大事になってしまい、胸がドキドキしている。緊張しているし、失敗は許されない。作戦会議が終わり次第、私は維茂のほうへと向かった。
「あ、あのう。先程の会議、提案してくださり、ありがとうございます」
私の言葉を、維茂はじっと聞いたあと、ゆるりと口元を緩めた。
「あなたでしたら、できるでしょう?」
「……維茂が支えてくださるなら」
「……皆で支えますから」
その言葉に、気分が沈んだ。
乙女ゲームのヒロイン、話を進めながらキャラとの親睦できるって強過ぎるでしょ。私、煩悩塗れでついてきても、なにひとつ進んでませんけど。
がなり立てたい気持ちを堪えて、明日のことを考えた。
まずは、東の封印のことだけ考えよう。あとのことは、明日の私に任せる。




