自由度が高いゲームって、レベル規制とか抜きでMAPが解放されるから厄介ですよね
結局その日は暮れてしまい、魑魅魍魎を一匹も倒すこともできないまま、北の集落にある宿へと逃げてきた。
北の集落はかなりの歓待ムードだ。
巫女と守護者ご一行が四神契約の旅を開始し、各地に宿を求めるということは、既に父様が都を通して全国的に知らしめてくれたので、馬のご飯とそこそこ豪勢な寝床を用意してもらうことができた。
私たちは出された握り飯を食べながら、神妙な顔をして膝を突き合わせていた。
「……鈴鹿、どうする? 北の封印に近付くことすら叶わなかったぞ」
「うん……ごめん。これは私の采配のせいだ」
いいえ、鈴鹿はなんも悪くありません。悪いのは全部クソプロデューサーのレベルバランスのせいです。なんなんだこれ。中ボスばっかり並べて道を阻んで。そもそも中ボスをレベルひと桁が倒すとなったら、周回して周回特典を持ち越さなかったら倒せる訳ないじゃん。なんなんだ、あのレベルバランスは。明らかにおかしいじゃないかレベルバランス。
……ん、周回特典?
そこで私ははた、と気が付いた。
元々、頼光はメイン攻略対象の中で最後に出番が回ってくるから、好感度を稼ぐのが難しい。リメイク版でこそ枷が嵌められたとはいえど、元々田村丸は最初から鈴鹿と一緒に行動を共にするから好感度を稼ぐのは一番たやすいし、幼馴染である維茂と保昌、鬼無里に流れてきた利仁もまた、戦闘バランスを考えたらどうしても見せ場がある。
だから頼光の好感度を稼ぐためには、大江山の酒呑童子退治をはじめとした、彼専用好感度稼ぎルートを踏襲する必要があるんだけれど……そのルートはあまりにも行くのが難しく、周回特典前提でメンバーとレベル、アイテムを組んで進まなかったらそのルートをクリアすることはできない。
つまりは。鈴鹿が無意識の内に選んだのは、周回前提の難易度バカ高ルート。今の時点では鈴鹿は誰のことも好きじゃない……強いて言うなら、田村丸の呪いを解いて記憶を取り戻して欲しいという、それしかない。
リメイク版で頼光ルートがどうなっているのかわからない上に、追加攻略対象が四人もいる以上、このルートが誰のルートなのかわからないけれど。少なくとも周回特典もなしでこのルートを行くのは無理だ。
レベルひと桁で北の封印を解いて、北の玄武と契約できるかというと、それも無理だ。だってレベルひと桁だったら、玄武の試練をクリアなんてできないもの。
私がひとりで考え込んでいる間にも、鈴鹿は利仁や頼光と話を進めている。
「でも困ったね。これだけ敵が強いんじゃ、とてもじゃないけれど、北の封印まで辿り着かないし、四神の一柱と契約だなんて、とてもじゃないけれど無理だよ」
「うん……」
「しかし、四神契約の旅に出た以上は、無理でしたとおめおめ帰る訳にもいくまい。それならば、魑魅魍魎の薄い場所から進めばいいだけのことよ」
おお、利仁ナイス。魑魅魍魎の発生が濃い場所が難易度バカ高なら、まだそこまで出ていない場所だったら、レベルひと桁でもなんとかなるかもしれない。
でも鈴鹿は浮かない顔だ。
「でも……私たちが北の封印に辿り着くまでに、この辺りの人たち持つのかな?」
そう言いながら、女将さんに出された握り飯を見る。
私たちが出されたのは、ピカピカの白飯だ。前世では当たり前に食べられたそれだけれど、鬼無里では頭領の家ですら、たくさん麦や粟を混ぜ込んで嵩増ししてから食べていた。
この食事はおそらくは、四神契約の旅を行う際に、巫女と守護者一行が食事に困って飢えで戦えなくならないようにと、各地に守護者一行用に配られた物だろう。巫女たちを泊めた宿だって請求すれば報償だってもらえるだろうけれど……巫女が泊まらなかったところは?
ここに泊まる前に、びっくりするくらいに客引きにあった。それだってきっと、報償や守護者一行の食事の残りが目当てだろう。少なくとも北の土地の人たちは、相当困窮している。
……レベルのことを考えたら、ここは一旦北から離れて、まだ魑魅魍魎の勢力の薄い場所……ここからだったら東だろう……に移るべきだけれど、鈴鹿の心配もわかる。
それに田村丸は「んー……」と握り飯を食べ終えて首を捻った。
「ここで俺たちが一匹も魑魅魍魎を倒せないことのほうがまずくないか? 北はまだ、都の支援のおかげで持ちこたえるだろうが、一日経つごとにその支援だって届かなくなる日が近付くだろうさ」
「え……だったら!」
「だから俺たちはひとまず東に進む。東の青龍のの力を借りてから、北の封印に挑む。これだったら、間に合わないか?」
……か、完璧だ。私は田村丸の物言いにジィーンと来ていた。
東の青龍だったら、今の私たちでもまだ対処ができるかもしれないし、なにより魑魅魍魎が少ない。そしてなによりも。
鬱の逆時計回りではなくて、時計回りだ。田村丸が無意識の内に自分のルートの最善を叩き出している。これならレベルのことにプロデューサー陣営にキレなくっても問題ないし、鈴鹿も納得するし、私も鬱シナリオに進まないから心底ほっとできる。
私の歓迎を知ってか知らずか、鈴鹿は考え込む素振りで親指を噛んだ。
「……私たちが東の封印に向かって、間に合うかな、北も西も」
「人間、魑魅魍魎に襲われても、なんとか生き残っているじゃないか。案外しぶといもんさ」
「……そうだね。わかった。明日、朝一番に東の封印に進もう。皆、それでいいよね?」
鈴鹿の言葉に、皆それぞれ頷く。
「わかりました」と保昌は背筋をピンとさせて答え、頼光は「それもそうだね」と間延びした声を上げた。維茂も利仁も特に異存はないらしい。
最後に私と保昌は、明日の様子を見るために、星見に出かけていった。
「それにしても、今回の魑魅魍魎の強さは、星見でも出ませんでしたね」
鬼無里から大分離れたからだろうか、さんざん保昌に覚えさせられた天文図と空の光景は、大分異なっているように見えた。
それに保昌は苦笑する。
「前にも申しましたけど、天命は星詠みにも詠めませんから」
「そのう……魑魅魍魎と戦う際に天命って関係ありますか?」
リメイク版でたびたび聞いている、この天命って言葉も謎のままなんだ。運命は変えてもいい運命だけれど、天命は変えられない天からの指示だとは言っていたけれど。そもそも魑魅魍魎は頑張れば倒せるんだから、変えられない命運とは思えなかった。
保昌は私の問いかけに「ああー……」と漏らした。
「前にも言いましたが、天命は天が定めたものであり、どうあっても覆すことができません」
「そこは、前に聞きました」
「そして、魑魅魍魎には定められた星がないために、星詠みでも、それが原因で起こる人間の不幸は運命として詠み解くことができても、そこで人が死ぬか死なないかの天命に関わるものは詠むことができないんですよ」
そういえば。鬼無里にいたときも、星詠みは鬼無里にいた内通者がいることまでは詠めても、鬼の出現までは詠みきれなかった。
鬼や魑魅魍魎には星が定められてないってことか。
「どうしてこんなに、神はややこしいことをなさるのでしょうか?」
私たちは空を仰ぎ、手分けして天文図を書くと、それぞれの星を繋げて詠んでいった。私の問いに、保昌は答えた。
「神は、乗り越えられない試練を与えませんから」
神様は本当に、意地が悪いし最悪だ。
私たちは、東の封印までは三日で辿り着けるところまで詠み取ると、宿へと帰っていった。
明日からリスタートだ。




