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ゲーム外にしか織り込まれていない情報は、一旦置いておいてもゲームをプレイするのに支障はありません

 私はいつもの袿に着替えて、維茂と頼光と一緒に神社に向かった。明日にはいよいよ出発するのだから、鈴鹿が守護者を選ぶのに立ち会うのだ。

 ……私はまだ、頼光をじろじろとうろんな眼差しで見ていた。一番気になるのは、彼が出てきたタイミングで、鈴鹿に惚れるとか、そんなアホな展開にはならないよなあということ。

 頼光は私のことをわかってかわかってないのか、にっこりと見返してきた。


「なにかな、紅葉。婚約できなかったのは残念だね?」

「い、いえ……私はそういうのは、困りますので」

「それはそちらの侍くんのせいかな?」


 ちらりと頼光は維茂を見てくる。維茂はなにも言わない。ポーカーフェイスのままだ。私はそれに「うううう……」と唸り声を上げた。

 本当だったら、維茂に「私のお見合いを潰してくれてありがとう」と言わないといけないのに、いかにも不機嫌で、話しかけるなオーラを放っているものだから、私も声をかけそびれてしまっている。

 やがて神社の境内が見えてきた。

 神社で引き取っている子供たちが宮司さんに見守られて遊んでいるのに目を留めていたら、宮司さんはにこやかに会釈をしてきた。


「こんにちは紅葉様。維茂殿も。おや、そちらは……」

「どうもお初にお目にかかります。都より巫女の力になるべく馳せ参じました頼光と申します」


 相変わらずの仰々しいしゃべり方だ。それに宮司さんも面食らいながらも「これはどうもご丁寧に……」と頭を下げてから、境内のほうを指差す。


「あちらで鈴鹿がお待ちです。どうぞ四神契約の旅が、よきものになりますよう……」


 そうお辞儀する宮司さんを見て、子供たちも真似をする。私たちも挨拶を返して、境内の反対側へと歩いて行った。

 そこでは既に鈴鹿が立っていた。刀を携え、この間まで落ち込んでいたのが嘘みたいに、背筋をピンと伸ばして。隣には田村丸と利仁がいて、遅れて保昌が小走りで走ってきた。


「皆、揃ったみたいだね」


 鈴鹿は凜とした声を上げる。

 それぞれが、腰に太刀を佩いで、矢筒と弓を背負い、背筋を伸ばして並んでいる。

 ここから、四神契約の旅ははじまるんだ。

 守護者に選ばれるということがよくわかっていないけれど、私をちゃんと守護者に選んでくれるんだろうか。鈴鹿をじっと見ると、鈴鹿は凜としたまま周りを見渡す。


「ここに来られたということが、守護者に選ばれたことだから」

「それってどういうことなんですか?」


 私の素っ頓狂な質問には、鈴鹿に替わって利仁が答えた。


「宮司が結界を張り替えたからのう。今は魑魅魍魎除けのものではなくて、そもそも守護者以外は入れぬようになっておる。あの子供らは最初から宮司の保護下にいるからいるだけで、一歩でも結界の外に出ようものならば、宮司が我らの出立を見送るまではここに入ることも叶わぬよ」

「なるほど……」


 ゲーム本編だと一瞬しか出番がない人だけれど、よくよく考えたら鈴鹿に魑魅魍魎との戦い方を教え、田村丸を守護者に鍛え上げたのはあの人だった。名前すら知らない人だけれど、本当にすごい人だったんだなと今更ながら痛感する。

 でもつまりは、私も普通にここまで入れたということは、守護者に認められたということなんだ。そのことに心底ほっとした。保昌にずっと付けてもらっていた鍛錬は、決して無駄ではなかったと。


「もう皆も知っていると思うけれど、皿科では年々魑魅魍魎が跋扈し、人が住める場所がどんどんと減っている。だからこそ、東西南北に位置する四神と契約し、魑魅魍魎を倒すというのが、旅の目的だ。私はその契約のために生きてきたのだから……私が契約できるよう、皆には協力してほしいと思う……よろしくお願いします」


 必死でしゃべっていた鈴鹿が、ついポロッと素が出たことに、横で見守っていた田村丸が、とうとう噴き出した。


「ふふふ……はっはっはっは……! お前さんは気合いを入れ過ぎだな。もうちょっと力を抜いたらどうだ」


 その言葉に、私たちは虚を突かれて彼を見た。

 まるで鈴鹿のことを忘れたっていうのが嘘じゃないかというくらいに、私たちの知っている田村丸だったからだ。私と維茂は驚いて顔を見合わせたあと、ここにずっと居候している利仁を見た。

 利仁は面白くなさそうに息を吐き出した。


「あれは鈴鹿を忘れたままよ。ただ、それ以外は田村丸のままだから面倒なことこの上ないだけで」

「そ、そうか……」

「そうなんですね」


 がっかりしたような、なんというか。

 唯一空気を読めない頼光だけが、この場のことを口にした。


「なんだい、巫女は記憶喪失の人間を旅に連れ出すのか。それは職権乱用というものではないかな?」


 お願い頼光。こんなところで修羅場勃発するようなこと言うのは止めて。

 あからさまに「こいつ嫌い」って顔をしている利仁と、「なんだこいつ」って顔している維茂に挟まれて、私の胃が、胃が……!

 私が胃がキリキリ痛む中、鈴鹿は「うん、そうだね」と答えた。

 あれ?


「これは私のわがままだから。田村丸には私のことを思い出してて欲しいし、できれば覚えていて欲しい」

「そうかい? 俺がお前さんのことを思い出したとき、お前さんは傷付かないのかい?」

「……そこまではわからないけれど、でも。私が巫女として戦えるのは、あなたのおかげだから」


 ふたりの会話に、私は「ふむ?」と考え込んだ。

 ここは本家本元の神社に集合してからの出発場面のはずで、チュートリアル戦闘からひと月後、リメイク版だったら前後はしたけれどだいたい一年後の場面のはずだ。そこはゲームだとサクッと処理されてしまっていたけれど。

 こんな会話あったかな。いや、そもそも本家本元だったら田村丸は記憶喪失にすらなってないんだけれど。

 そもそも。ブラックサレナは私が死ぬ間際では、どんでん返しとか鬱設定過分に積むとか、シナリオの傾向が相当王道から外れた邪道でレーベル知名度を上げていたから、ここでなにかシナリオに伏線を張っている可能性がものすごくある。

 この辺りのことはきちんと覚えていよう。

 私が決意を新たにしている中、頼光はにこやかに言う。


「うん、それはいいことだね。巫女は人形じゃないんだから」


 だから、言葉の使い方!

 本家本元では誤解を招く言い方担当は維茂だったのに、リメイク版は頼光が担当かよ!? 保昌はおっとりと、周りに「まあまあ」と言う。


「とにかく、今はまず契約すべき最初の神を選定しなければなりませんからね」


 あ、ここは本家本元と同じか。

『黄昏の刻』は最初に選ぶ四神と、時計回りか逆時計回りかで、シナリオの系統が変わる。

 時計回りは王道の鬼退治ものに王道の恋愛シナリオが展開されるけれど、逆時計回りはブラックサレナ色のシナリオだ。魑魅魍魎を操る鬼にフォーカスを当てたブラックな物語に攻略対象のB面で、賛否両論が多いシナリオ展開で、私は正直こっちはあまり好きじゃない。ブラックサレナ味が好きな人は逆時計回りしかしないって人もいるんだけれど。

 正直、この間来た追加攻略対象の酒呑童子と茨木童子の攻略ルートは、明らかに後者なんだよなあ……見せ罠臭いし、私はできる限り時計回りで話を進めたいのだけれど、決めるのは鈴鹿だしな。

 鈴鹿は保昌に差し出された地図を見て、「魑魅魍魎の被害が一番大きいのは?」と尋ねた。


「一番観測されて避難がはじまっているのは、北です。その次が西なんですが」

「じゃあ、先に白虎と玄武で行こうか」


 ……逆時計回り決定じゃん。

 やだよー、攻略対象のB面なんてわざわざ見たくないよー。好きだけのなにが駄目なのかね、皆が皆ヤンデレ狂愛に耐性がある訳じゃねえぞ、ばーか。

 これが鈴鹿じゃなかったら、バタバタ暴れて抵抗していたけれど、彼女が選んだんだったら仕方がない。

 ……私は、鈴鹿の気持ちを応援しつつ、維茂に聞きそびれているお見合い中断の話を聞くまでなんだから。

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