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人気キャラは基本設定を変えても問題ないとか、甘えた考えは今すぐ捨ててください

 維茂と利仁に支えられて、どうにか結界の張ってある神社にまで連れ帰ることができた。そのまんま社務所の中に入ると、彼の寝床を用意してそこに彼を寝かせた。

 ちゃんと直垂を割って上半身を露出させると、保昌はその呪いの解呪を試みたけれど……それでも彼の目が覚めることはなかった。

 鈴鹿は目に涙を溜めて、隅っこで三角座りをしている。私はそんな彼女が見ていられなくって、彼女の隣に座って、彼女の背中を撫でた。


「鈴鹿、大丈夫ですわ。田村丸はそんなに弱い方ではないでしょう?」

「うん……でも……私が弱かったから、田村丸に呪いをかけられてしまったようなもので」

「なに言ってますの。そんなの魑魅魍魎が一番悪いに決まってるでしょうが。巫女が森羅万象全てに責任を取らないといけないのでしたら、そんなのお門違いにも程がありますわ」


 だって鈴鹿も田村丸も全然悪くないじゃん。家が潰れた子たち守ってただけなのに。その子たちは今、宮司さんたちの傍にいるからここにはいない。とてもじゃないけれど、この子たちを庇った結果目を覚まさないなんてことを知ったら、あの子たちのメンタルもやばいと思うから、今は遠ざけておくのが正解だろう。

 保昌は詠唱を続けているものの、胸の黒い痣は消えない。


「北に織りなす七つの剣、星道を行き天空を照らせ……七剣星しちけんぼし


 何度も解呪をしているものの、黒い痣は一瞬薄まっても、すぐに元に戻ってしまう。保昌でも駄目だったら、どうしたらいいんだろう。

 私では補助詠唱しか使えず、保昌の手伝いにはならないし。

 しばらく眺めていた維茂が、私たちの傍に寄ってきた。


「今晩は田村丸の解呪に時間がかかるかと思います。一旦紅葉様は屋敷に戻って……」

「鈴鹿、今泣いてますもの。時間がかかるなら、余計にここを離れる訳にはいきません。彼女の食事の世話をさせてくださりませんか?」

「紅葉様……ですが」


 維茂が言い募ろうとしたものの、それを利仁が遮った。


「いいだろう。普段の跳ねっ返りがあんなにしょげていては、普通に見てはおられん。置いておけばよい」

「利仁。ありがとうございます」

「あれが起きるまでは、鈴鹿もずっとあの調子だろうしな。あれでは張りがないわ」


 この人、いい人なんだか悪い人なんだかゲームクリアしてもなおわからないが、少なくとも鈴鹿の味方だということだけは本当なのだろう。

 私はもう一度維茂に「お願いします」と頭を下げると、維茂は苦々しく答えた。


「……頭領に連絡くらいさせてください。さすがに紅葉様が無断でいらっしゃらなかったら頭領も困るでしょう」

「ありがとうございます!」


 屋敷にはすぐに鳥を飛ばして連絡を済ませると、私たちは長丁場になった田村丸の解呪に付き合うこととなった。

 鈴鹿は心配のあまりに部屋の隅から動こうとしないために、私たちが宮司さんに彼女と保昌の分の食事もいただいて、それを食べながら待つ。


「保昌……私でできることがあればおっしゃってください。その間だけでも、食事休憩を取ってください」

「紅葉様……ありがとうございます。ですが、あまりに呪いが深く刻まれてしまったら、命を落とす可能性もありますから」


 既に保昌は何時間も詠唱を唱えているせいで、疲労困憊になり、喉だってガラガラになってしまっている。私は彼を見る。

 そういえば……補助詠唱で敵の攻撃を半減させることはできるけれど、これは呪いにも効くんだろうか。もし呪いにも効いたら、二分の一を繰り返していって小さくなったものならば、保昌もさっさと解呪できてしまうかもしれない。


「あのう……私の補助詠唱で、呪いを半分にできたりはしないんでしょうか?」

「呪いを、半分に……ですか?」


 保昌が田村丸の肌を手拭いで拭いながら振り返る。もしかして、できるんだろうか。

 前の戦いを見ていた維茂が口を開いた。


「しかし、あれは鬼の神通力を半分にしただけ。たしかにあれは紅葉様の手柄ですけど、呪いと神通力は……」

「いえ、できるかもしれません……すぐに食事を終えますから、紅葉様は下弦を使ってみてください」


 保昌は持ってきた握り飯を急いで食べはじめたのを見計らって、私は交替で田村丸の元に座った。彼の黒い痣に触れる。彼の心の臓はまだ生きているけれど、その生きている心の臓を止めようと、悪意をもって黒い痣が蠢いているのがわかる。

 ……もし田村丸の心の臓に詠唱がかかってしまったら完全にアウトだ。黒い痣……呪いにだけかかるようにしないと。私は黒い痣に神経を集中させながら、詠唱を紡いだ。


「弓の弦たる欠けたる月よ、その身をもって禍と成せ……下弦」


 私の体力を削りながらも、じんわりと手に熱がともり、その熱が痣を目指して駆け巡っていった。痣がわずかばかりに薄らいだのがわかる。


「保昌……これならば……」

「……いけます。紅葉様、これを心の臓には」

「こんなもの当てる訳には参りません。続けます」


 何度も何度も下弦を使っていけば、さすがにどんどんと体力が消耗していった。疲れた……でも。

 私が痣をどんどん薄めていくたびに、鈴鹿の瞳に光が戻っていくのがわかる……鈴鹿のためにも、さっさとこの呪いをどうにかしてしまいたい。

 ようやく食事を終えた保昌は、「紅葉様、交替します」と促すので、場所を変わった。


「これだけ弱まれば、解呪可能かと思います。行きます……」


 保昌の詠唱が、ようやく呪いにとどめを刺した。


「北に織りなす七つの剣、星道を行き天空を照らせ……七剣星」


 何度も何度も弱めた呪いは、ようやく七剣星を受けて、消失した。とうとう保昌も倒れてしまったので、傍にいた維茂が彼を回収していく。


「ふたりとも、お疲れ様です……田村丸は?」

「んん……っ」


 さっきまでピクリとも起きなかった田村丸の睫毛が震える。

 座り込んでいた鈴鹿が、ようやく膝立ちになったので、私は手招きして田村丸の傍に呼んだ。


「んん……俺はいったい……?」

「田村丸さん、お体はもう大丈夫ですか?」

「あー、保昌。俺は魑魅魍魎を退治していたはずだが……子供たちがいたんだが、あの子たちは無事か?」


 あれ?

 なにかがおかしいと思いながら私は鈴鹿を見た。保昌もなにか変だと思いつつも、頷いた。


「今は宮司様たちの傍にいらっしゃいますよ。その際に呪いを受けたとかで、僕がずっと紅葉様と一緒に解呪に当たっていました」

「そうかあ……紅葉もずいぶんと星詠みが様になるようになったなあ」


 おかしい。私はツーッと背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。

 利仁は目を細めた。


「昼間から倒れて、開口一番にこれか」

「ああ、利仁。すまんなあ。ここを任せてしまって」

「というより、我よりもそちは謝らないといけない相手がいるんではないのか?」


 そこでようやく田村丸は鈴鹿と目を合わせた。

 鈴鹿は困惑の顔のままで、彼を見ている。


「田村丸……?」

「……君は、誰だ?」


 ク・ソ・プ・ロ・デュ・ウ・サ・アァァァァァァァァァ!!

 なんだよ、正規攻略対象を記憶喪失に、しかもよりによってヒロインのことだけ忘れるとか、なにを思ってやろうとしたんだよ!?

「正規攻略対象だから、なにを盛っても大丈夫だろ」じゃないんだよ!!

 なにが好き好んで、好きなキャラの設定を改悪されにゃならんのじゃ!? そもそも鈴鹿が乙女だと言い張るんだったら、鈴鹿の日常にもうちょっとフォーカス当てればいいだけの話であって、なんでドス重設定積めば掘り下げられるよになるんだよ、全然違うんだよ!

 キャラ設定弄るような禁じ手だけは使わないと思っていたのに、使ってきやがったよ。本当にクソかよ。もうプロデューサーじゃなくってクソだよ。

 私が脳内ツッコミでさんざん荒ぶっている中でも、鈴鹿は困惑したまま、目を揺らめかせて田村丸を見たあと、ほのかに笑った。


「私は……巫女。四神契約のために育てられた巫女。名前は鈴鹿」

「すず……か」

「君は私の守護者になるんだ……あと少しではじまる四神契約の旅で、どうか私に力を貸して欲しい」


 そう言って精一杯笑ったのだ。

 ……おい、おい。ここを健気で可愛いとか言って感動させたかったんだろ。違うだろ。強がってるだけじゃないか。鈴鹿心で泣いてるじゃないか。

 そもそもどうして、呪いが解けたはずなのに記憶が奪われたんだ。私は保昌を見た。

 保昌も困った顔で、「すみません、田村丸さん。失礼します」と彼の胸板に触れた。


「おい、保昌……俺が倒れてから、なにかあったのか?」

「いえ……解呪は完了したはずなのに。どうして田村丸さんの記憶まで持って行かれてしまったんでしょう?」


 この場は、ただ混乱していた。

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