わたしとアレク
「うわーーーっ!!」
あれ?ここは、私のベット?
そうか、夢だったんですね。あの変な子も私が死んだのも。夢でよかった。
とりあえず、朝ごはんにしましょう。
寝室を出てキッチンへ向かうとそこには血まみれの部屋にアレクがひとりテーブルに座っていました。
夢です!きっとまだ夢を見ているのです。
「夢ではないぞ。アレクは昨日ハニを殺した」
「!?」
逃げなくては。誰かに、誰かに助けを求めなくては。
私は家を出てリヌおばあちゃんの家に飛び込みました。
「アレクターちゃんっていうのか。これからよろしくね」
「ああ、よろしく頼む」
なぜ???さっきまで私の家のリビングに居たのに!
「あらハニじゃないかい、そんなとこに突っ立ってないでこっちで一緒に朝食でも取らないかい?」
逃げなくては。そうです、村の集会場へ行けば誰か助けてくれるは―――
「そぉかそぉか、アレクターってぇのかぃ、よろしくなっ」
「おう」
なぜです、どうしてです、先回りとかいうレベルじゃないです。人間業じゃないです。あれは迷子の子供ではなく化け物です。
「よおアレクターちゃん、今日はいい獲物取れたんだっぺ。後で分けてやっから家に遊びに来るっぺよ」
「気が向いたらな」
しかも昨日の今日なのに村の人たちと完全に打ち解けてる。
「なんだハニ?なぁにそんなとこで打ちひしがれてんだぁ?」
「い、いえ・・・」
「そうだっぺ。アレクターちゃんはハニんとこで面倒見てんだったっぺ。だったら今日はハニが村を案内してやるといいっぺさ」
「え?」
「おぉ、そりゃいい考えだ。ちゃぁんと案内してやるんだぜ、ハニ」
ヨタさん、ツネさん。いつもはとってもいい人なのに、今は悪人にすら見えます。
「こんな村に案内するとこなんてあるのか?」
なんて失礼な。
「だっはっは。やっぱアレクターちゃんはおもしれぇなぁ」
「じゃあまたあとでっぺ」
また私はこの化け物と二人っきりに。
「化け物とは失礼だぞ」
「いやよっぽどあなたのほうが失礼です!というかほんとに何者なんですか!?」
「アレクはアレクだ。昨夜そう言っただろう」
「それじゃあ説明になってない!」
「チッ、うるさいなあ。やっぱもう一度―――」
「ごめんなさいごめんなさい、もう二度と詮索しませんから殺さないで!」
こんな子供に土下座する私って。
「無様だな」
「うるさいわーー!」
下から放った私の拳はきれいにアレクの顎を捉えた。アレクは空を舞ったかと思うと吸い込まれるように地面に叩きつけられ、辺りには生々しい音が響き渡った。傍から見れば、いやそれはもうただの、児童虐待の場面でしかなかった。
「ハニ?なにをしているの?」
「え?ムゥ?」
気が付くと辺りには村長の孫のムゥだけでなく、みんなが集まり始めていた。
「ち、違うのみんな。これには事情があって」
「アレクターちゃん大丈夫?」
凄まじい音がしたにも関わらず、傷ひとつなさそうなアレクをなぜみんな不思議に思わないのでしょう。
アレクは私を見るとにやりと笑いました。
嫌な予感がします。
「うっうっ。アレクターがハニに村を案内してって頼んだらいきなり・・・」
「ハニこれはどういうこと?おじいちゃんはハニを信じて預けたのに」
「だから違うの。アレクは実は化け物で、昨日だって私、アレクに殺されたの」
「は?あなた生きてるじゃない」
「そ、それは私にもわからないけど・・・」
「お、おーいみんな!ハニが!!ハニが家で死んでる!?」
「ワカ!」
「ってハニ??今、お前ん家で、首切られて、ええ??」
「やっべ、復活させたはいいけど死体片付けんの忘れてた」
村の人たちの視線がアレクに向けられます。
「面倒だな」
そういうとアレクは手をパンッと叩きました。
その瞬間村が消えました。
「へ?」
辺りは砂地が広がり遠くに聖陽樹の森が見えます。
「どどどどどどどうなってるんですか??」
「めんどくなったから消した」
「村を?村を消したんですか?」
コクリ。
「コクリ。じゃないですよ!戻してください!」
「なんで?」
「村の人たちは何も悪くないじゃないですか」
「あいつらは、ハニを疑ったんだぞ?」
「そ、それは・・・」
「あの時だけじゃない」
「え?」
「リンゴ畑で起こったことも村人は信じなかった。そしてハニもまた、自分が信用されないとわかっていた」
「そんなこと・・・」
「村長も厄介な問題をハニに押し付けただけじゃないのか?」
「・・・」
アレクは魔族の支配する村から来たという話だった。だとすれば魔族の送り込んだ使者かもしれない。私の家は村の中心からも遠く、近くに住んでいるのはリヌおばあちゃんだけ。考えたくないですが、ワカがあんな時間に私の家に来たのも、もしかすると監視していたから?
「そ、それでも!」
「彼らは、村に起きた異変を知らせるハニの話を無視し、唐突に訪れた厄介ごとを押し付け、長くを共にしたハニの話ではなく、昨日来たばかりのアレクの話を信じた。これでもまだハニは彼らに帰ってきてほしいのか?」
「・・・そうだよ。わたしは、そんなみんなでも大好きだもん!」
みんなは私を育ててくれた。親もいない身寄りもない私を今日まで支えてくれた。確かに、疎まれてるかもしれない、信用されてないかもしれない。でも!私はみんなに感謝してる、みんなのことを家族だと思ってる!だから!
「だからみんなを戻して!お願いだから!!」
「あら、ハニなにをそんなに泣いてるの?」
「ムゥ?」
「?」
「ムゥだ!よかったぁ!みんな戻ったんだね!!」
「なによ、泣いてたかと思ったら急に抱き着いてきて、変な子ね、うふふ」
みんな、よかったぁ。
「で、アレクもまだいるのね」
家に帰るとそこはやはり血の海で、アレクもまたそこに居たのでした。
「おい、死体はどこへもっていけばいいんだ?」
アレクの傍らには首のない私のしたって、いやああああああああああああ!!
END