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文盲の女

暗澹たる短編シリーズ

「この問題、〇〇、わかるか?」


 ほんとにこの教師ムカつく。絶対、私がわかんないってわかってんのに聞いてきてる。マジで性格悪い。

 トーダイ出だかなんだか知らないけど、いちいち偉そうでマジうざい。


「おーい。黙ってちゃわからないぞ?」


 ほら、こうやって追い詰めてくる。ほんとにキモい。そうやって私いじめて楽しいの?ほんとキモ。ドS気取りかよ。


「わからないならわからないって言っていいぞ?」


 マジでしつこいわコイツ。何なの? この空気でわかんないとか言えるわけないじゃん。バカじゃないの? ていうか、何の役に立つのこんなこと。将来の役に立たないこと無理やり押し付けて、れっとー感?押し付けてくる学校とかホントゴミ。


「……はぁ。じゃあ××。代わりに答えて」


 やっとおわったわ。勉強なんてできる奴だけがすればいいじゃん。どうせAIとかが全部やってくれる時代くるんでしょ? マジで楽して稼ぎたい。そういう事学校で教えてくれればいいのに。ていうか、まだ授業三十分もあるじゃん。だっる……。


『授業であてられて最悪~。全然わかんないし、先生うざいし』

『授業中にラインすんなよw』

『えー。だってだるいんだもんww』

『まー授業ってだるいよね。将来何の役にも立たないし』

『それな!! ホントに時間の無駄w』


 最近アプリで知り合ったこの男、返信早くて退屈しない。


 あのアプリだと、プロフの女子高生ってとこだけ見て、出会い厨とかヤリ目ばっか集まってうざかったけど、この人はそういうのじゃないから安心。最悪ブロックすればいいし。暇つぶしにはちょうどいい。


『その先生ってどんな感じ?』

『マジキモイよwトーダイ出らしいけど』

『うわーwwガリ勉っぽそうwwどうせ勉強ばっかしてた陰キャだろ?』

『そうそうwマジそんな感じww』

『大丈夫? セクハラとかされてない??』

『まーまだ大丈夫ww 視線がキモイくらいwww』

『え、マジ? ホントに大丈夫?』

『大丈夫大丈夫、心配しすぎだってww』

『でも最近そういう犯罪者多いから気を付けたほうがいいよ』


 確かに、最近はそんなニュースばっかりだ。学歴高い奴は犯罪者になりやすいらしいし、マジで気を付けよ。


『気を付けるわw ありがとw』

『そうだよ。〇〇ちゃんかわいいんだからw』


 チャット相手の男が見てるのは加工されまくった私の自撮りだけだけど、かわいいって言われるのは嫌じゃない。私の成績だけ見て私のこと分かったようにごちゃごちゃ言うあのクソ教師よりよっぽどマシだわ。


「……随分楽しそうだな。〇〇」


 気づいたら目の前にそのクソ教師がいた。

 やばっ……。見つかった……。


「後で職員室来い。それは一旦没収な」


 抵抗する間もなく、私のスマホは回収されてしまった。


 は? マジうざ。めっちゃ恥かいたし。しんじらんない。


 ていうかスマホ見られたくないならもっとマシな授業しろよ。つまんない授業してるお前の責任だろ。陰キャの癖に調子乗んなよ。


 ていうか、私のスマホ電源入ったままじゃん!!


 私のスマホ見る気かよ? マジで変態じゃんコイツ……。


 あーもう。最悪……。





 ――――――





「なあ、どうして授業中にスマホいじったりしたんだ?」

「……」


 そんなんどうでもいいじゃん。スマホいじるのに理由なんてない。


「〇〇、授業中もそうだけどなんでこっち向いてくんないんだ?」


 お前の顔がキモくて見てらんないんだよ。こっち向くな、息がかかる。


「成績も、どんどん下がってるし。俺は〇〇が心配なんだよ」


 おえぇ、マジキモ。なに「いい先生感」出してんだよ。私のスマホ覗いた変態教師の癖に。ほんとにセクハラで訴えてやろうかな。


「……早く返してください。この後用事あるんで」


「……駄目だ。お前反省してないだろ。これは親御さんに取りに来てもらう」


 は? 何言ってんのコイツ。そんなんできるわけないじゃん。

 コイツ私が嫌がることわざとやって楽しんでんだろ。マジ性格終わってんな。


「あの、ほんとにこの後使うんです。返してください」


「何に使うんだ? 言ってみろ」


 あーうざ。何私のプライベート聞こうとしてんの? ロリコンのド変態かよ。


「……塾に行くので。親との連絡用です」


「……わかった。じゃあ、今親御さんにかけろ。それで事情を説明して、どうしても持ってなきゃいけないというなら返してやる」


 はぁ? マジでめんどくさ。どんだけしつこいんだコイツ。完全にストーカーじゃん。ていうか塾とか嘘だし。親に伝わったらもっとめんどいよな……。


「……じゃあ、電話かけるから返してください」


 クソ教師が私にスマホを手渡す。あいつに触られてると思うと汚すぎて、ぞわぞわした。奪い取るようにスマホを奪い取ると、私はダッシュして職員室から逃げた。


「おい!! 待て!!!」


 あーうざ。知るかよ変態。


 なんか奪い取るときにあいつの手にちょっと触った。何か汗みたいな汁に触れた気がする。きっしょ……




 ――――――




 何とかクソ教師を振り切って学校から出ることができた。

 スマホを確認すると、たくさんの通知が来ていた。

 大体があの男だ。


『ごめん! クソ教師にスマホ奪われてた』

『え、マジで?! 今時そんなことする教師いんの?』

『まじ最悪だわ。何かスマホのなか見られたかも』

『うわ……完全に犯罪じゃん。訴えたほうがいいよ!』


 やっぱりこの男は優しい。私のことを心配してくれてる。

 私のことなんも知らないくせにごちゃごちゃ言ってくるあの変態教師とは大違いだ。


『そこまでしなくてもいいよ。めんどくさいし』

『そっか。〇〇ちゃん優しいんだね……マジでいい子』


 褒められれば、悪い気はしない。

 クソ教師を訴えないでいてあげる。そう考えると自分が上に立ててるみたいで気分が良かった。


『それより、親にチクられたらめんどくさいんだよね。親にスマホ没収されるかもしんないし……』

『うわ。それはめんどくさいね……』


 多分、親はゴミ教師の味方をするだろう。両親も私のことなんもわからずに、あの教師たちにペコペコ頭下げるかもしれない。私も頭下げなきゃいけないかもしれない。


 あんなきもい男に頭下げるとか完全にハラスメントでしょ。何ハラかはわからないけど、絶対嫌。

 それに、最悪、スマホ使えなくなるかもしれない。それは絶対に避けたかった。


 ……やっぱり無理やりひったくるのは失敗だったかな……。


 ちょっと後悔し始めた時、ラインの通知が来た。


『じゃあ、家出しちゃえば?』


 文字を見て、私は驚いた。


『は? なんで』

『だって、誰も〇〇ちゃんのこと理解してくれないんでしょ? 連中に分からせてあげようよ。〇〇ちゃんを大切に扱わないとどうなるか、思い知らせてやろうよ』


 ……。


『〇〇ちゃんは寂しかったんだよね』


 ……寂しい?


『〇〇ちゃんのこと何にも理解していない親とか教師とかのせいで、〇〇ちゃんは寂しかったんだよ』


 そうやって言われてみると、そうかもしれない。


 この男を見つけたアプリをやっていたのも、退屈で何か寂しくて、誰かと話していたかったからだったような気がする。勉強に集中できないのも、授業がつまらないのも、言葉にならない寂しさからきていたのかもしれない。


 そっか。私は寂しかったんだ。

 そういうことにすれば、何か色々なことが説明できるような気がした。


『こんなのニュースでやってる虐待とかと同じだよ。〇〇ちゃんは、君にそんな思いをさせた奴らに抵抗する権利があるんだよ。これは当たり前の権利なんだ』


 当たり前の権利。その言葉がストンと胸に落ちた。

 そうかもしれない。


 ニュースとかネットで虐待とかネグレクトを見るたび、どこか他人事じゃないような気がしていた。本当は私も同じだったのかもしれない。


 だったら、抵抗するのは当たり前。本当にそう思えてきた。


『でも、行く先ないし……』

『そうなんだ……じゃあ僕の家に来る?』

『え?』

『大丈夫。変なことしたりしないよ。部屋が余ってて退屈なんだ(笑)』


 ……怪しいと思わなかったわけじゃない。こういう誘拐みたいなのがニュースになってるのは知ってる。


 でも、この男はそういうヤリ目とか出会い厨とかとは違う。私のことを心配してくれて、私のためを思って提案してくれている。ニュースでやってる犯罪者達とは違う。


 それに、少しの間だけ、ちょっとあいつらに思い知らせてやるだけだ。


 これは私の当たり前の権利だ。


『じゃあ、行こうかな……』

『ほんと? じゃあ部屋綺麗にしとくね(笑)』

『よろしくwww じゃ、どこにいけばいい?』

『△△駅に18時に来れる?』

『わかった。じゃあ後で』


 私はそこで画面を閉じてしまったから、その男から最後に来たラインを読んでいなかった。




『いやあ、〇〇ちゃんはほんとに「かわいい」なぁ……』



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