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梅雨の正午の夢

作者: 焼肉タン塩

ある梅雨の正午。


雨が嫌いな人は多い。特にこの時期のじめじめした気候はあまり万人受けするものではない。

今日は特にひどい雨だ。

それに加え、今は体のだるさが男に一層不快感を与えている。


昨日からまともなものを口にしていない。

冷蔵庫にあったスポーツドリンクを少し飲んだくらいだ。

一人暮らしで風邪になると自分が孤独であることを再認識させられる。


とはいえ、栄養を摂らなければ治るものも治らない。

何か食べなければ、そう思いながら足はベッドに向かっている。

倒れこむように横になると熱のせいかベッドのせいか次第に頭がぼーっとしてくる。


「はぁ。。。」


思わずため息が出てしまう。

大学在学中も女性関係はからっきしだったが、社会人になりコミュニティが狭くなると浮ついた話は全くなくなってしまった。

同期の結婚報告を聞いて羨むばかりである。なぜ、自分は一人なのか。

風邪は余計なことを思い出させる。

次第にまどろみは加速して、深い眠りに落ちていく。


-----


また、この夢か。

男は風邪を引くと必ず見る夢がある。

いつから見始めたのかがわからないほど幼い時から見ていたため、今ではもう夢の中でもこれが夢だとはっきりとわかってしまう。


三日月の夜、岩肌がはっきり見える崖に囲まれた川辺に男は立っている。

ちょうど赤壁の戦いで有名な揚子江の赤壁がイメージとしては近いだろう。

目の前の中国庭園風の四阿には白い羽衣を身にまとった女性が佇んでいる。


彼女はいつもこちらを見ているだけだ。

かといって男も何をするでもない、そのまま彼女を見つめるだけ。

今までずっとそうやって夢が終わるのを待っていた。

今回も今までと変わらない、あとはこのまま気づいたら目が覚めているから待っていればいい。


彼女が動いた。軽く会釈をすると、視線をゆっくりと男から川の方に移していった。

男は驚き、咄嗟に。


「待ってくれ!」


彼女は振り返らず一言。


「もう待ちましたから。」

「悪かった!」

「悪かったと思うならどうしたらいいかよく考えてみてください。」

「あーもう!とにかくこっちを向いてくれ!話もできないじゃないか!」


男は無意識に言葉を続けた。

彼女は渋々男の方に視線を戻した。


「これで満足ですか?」

「満足も何もないよ。君はなぜ目を背けたんだい。」

「時間が来たのです。お忘れになったのですか?」

「忘れたわけじゃないよ。ただ言い出せなかっただけだ。」

「もう---年です。私は尽くしてきた方だと思います。労いの言葉があってもいいのでは?」

「うむ。ありがとう。今まで本当に助かったよ。」

「全く、あなたという人は最後までそうなのですから。」

「そうか、やはりこれで最後か。」

「えぇ。仕方のないことです。そういう約束でしたから。」

「君と会えなくなるのは寂しいよ。」

「もっと早く言ってくださっていたら私も楽できましたのに。」

「それはすまなかった。」

「ではそろそろ行きますね。」

「うむ、ではまた都で会おう。」

「はい。お待ちしております。それでは。」


次第に視界が白くなってくる。

「さっきのはなんだったんだろう。」

意識が途切れる。


-----


ベッドの上に置いてあったスマホに手を伸ばし、時間を確認すると夜18:00になっていた。

まだスーパーは閉まっていないはずだ。買い物に行かなければいけない。

重い体をベッドから下ろし、外出用に着替えていくとスマホが鳴った。

友人の弘子からの電話だった。


「ちょっと!風邪なんだって!?大丈夫?今何してる?」

「あーお疲れ。まだ体重たいけど家に食料ないから買い物に行こうとしてるとこ。」

「はあ?病人は寝てなさいよ!家どこだっけ?隣駅なのは知ってるんだけど。。今から食料持って行くわ!」

「え、◯◯駅から徒歩5分くらいの▲▲ってマンションの□□号室だけど、、マジで来るの?」

「そう!じゃまたあとで!」


ブチン!

スマホから急に吹き荒れた突風は男の病魔も何人か吹き飛ばしていったようで、

男は先ほどより幾分マシな表情でベッドに戻っていった。


-----


ピンポーン。

男の足取りは幾分早く、玄関の戸を開けた。

弘子が両手にパンパンのレジ袋を持って立っていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ふところの深い孤独であるてん。
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