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翻弄なのです!

 でも何故か飛島とこうして喋るのは久しぶりな気がする。

 当然ながら飛島本人は俺がまさかこんな姿になっているなんてことは気づきもしていないだろうしな。

「でも不思議ねえ、あなたみたいな喋り方の人を私は知っている気がするわ」

 冷や汗がたれてくる。バレるのも時間の問題かと思ってしまう。

 しかしながらその後は沈黙が訪れて、会話は終了のはこびとなった。

「じゃあ、私は試合に出るから応援しててよね」

「お前が弱ければ良いんだけどな。お前が弱ければ俺は二回戦も進めるのに。お前とは戦いたくないけど」

 つい、いつもの口調が出てしまった。ネカマ失敗的なあれである。

「あっ、あなたの喋り方に似ている人が誰だかわかったわ」

「誰って、誰よ?」俺は軌道修正するかのように無理矢理に女言葉に戻すが、飛島は俺が男言葉になったことをそんな気にかけている様子はなく、ただしれっと言葉を発した。


「あなた、私の好きな人に喋り方が似ているわ」

「え???」


 問いたかった。それは誰だ、ってな。

 しかし喉から出かけたその声は、口から出る寸前になって枯れていった。

 飛島がどんな男を好きか気になってしまっている俺がいる。でも、その答えを聞いたらどうしようもなくなってしまう予感があって、その予感が俺の声を出なくさせる一番の要因なのだろう。

 なんだか、すごくもどかしい。俺はこんなわけのわからない巨大な大会に出ていて、自分の命すら危険に脅かされているというのに、クラスの女子の色恋沙汰に興味がいき、そしてその興味が不完全燃焼となることによって胸に巨大なたくあん石が乗せられたかのような不快感を抱えることになってしまったのだ。

 達観主義の俺は言う、若いねえ。

 だけど俺のこの精神状態は今後大会を通してく中で絶対に陥ってはならないもので、試合を終えた後なのに、試合以上の疲労感が飛島の登場によって押し寄せてきやがった。

 何故だろう、俺は飛島が「好きな人」という言葉を使ったことに当惑しているだけなのだ。

 あいつは誰かを愛するとか、そういうのと無縁の奴だと思っていたしな。

 高校一の、高嶺の花。

 告白してきた相手を次々と振るその彼女の姿は、彼女の鉄壁性を示すものであった。

 そんな飛島に好きな人がいるなんて信じられないから、俺はどうにかしてそれが本当であるのか虚偽であるのかの真相をつかんで、このモヤモヤを解消したかった。

 でも駄目だったのだ。飛島はバトルフィールドへと歩いていく。

 俺は彼女を止めることができない。

 でも飛島が生きていることが、それがなによりも素晴らしいことじゃないか。


 好きな人の喋り方に似ている、女の姿になった俺に対して飛島が言ったセリフがそれだったわけだ。

 普通に考えて、飛島の好きな人は俺だということでよくないか? いや、よくないのか?

 いやいやいや、ちょっと待ってよ。もしかすると飛島は俺の正体を見破った状態で冗談としてそれを言ったんじゃないか?

 あいつだったらやりかねない、それだけ頭の良い奴だと思う。

 紅音に送られたメールを読ませてもらった時に、あいつの人間性をどのように感じたか思い出せ。

 どう考えたってあいつならやりかねないじゃないか。






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