決着なのです!!
「私をここまで怒らせた女はあなた以外にいないわ。殺してやる」
ルカナ・リリアはそうやって俺を睨みつけた。俺とルカナ・リリアの狭間には巨大な穴が空いており、それを空けたのは他でもなくルカナ・リリアである。
女版千代の富士と形容するのが適切か、そんな見た目の魔法少女……。
ルカナ・リリアは折れた棍棒の破片を穴の中に放り込んだ。
「ほら、見た?? この穴の中に入ったらひとたまりもない」
「そうみたいだな。でもこの穴に入った後はどうなるんだ?」
「知りたい? ならば突き落としてあげんよ!!!」
彼女はそうやっていって俺に突っ込んできやがった。ぴょんと穴を飛び込み、俺の後ろを瞬時にとる。
やばい、ここで押されたら、俺はこの穴の中に入ってしまう。それだけは避けねば。
「喰らうのよ!!!!! 私の必殺……!!!!」
ルカナ・リリアは力をためていた。筋骨隆々のたくましいその姿に魔法のオーラが纏う。
彼女の力のあまりフィールドの結界が歪む。俺はじりじりと穴の方に足が吸い込まれそうになる。
「ふふふ、あなたを穴にぶち込んであげるわあ♪」
「ちぇっ、こんな豚のケツみたいな穴に打ち込まれるのはごめんだ」
俺は相手をおちょっくってみた。本当はそんな余裕はない。
じりじりじりじり。俺は穴へと、抵抗むなしくじりじり吸い込まれていく。
前へと進もうと思ってもいけない。あ、俺の戦いはここで終わってしまったかもしれないな。
「ああ、お前の汚えケツみたいな穴にぶちこまれちまう」
俺は自分が死んでしまうような気がして、それでぽろっと出たのがそのセリフだった。
しかし流石にこの言葉にはルカナ・リリアは黙っちゃいられなくなったみたいで、その怒りのあまり一旦魔力を放出する手が止まった。
俺は穴からほんの数センチのところで助かった。慌てて前進して穴から距離をとる。
「あんたって子は可愛い顔して口調も下品だし、残念な子ね。いいわ、私の究極奥義を喰らって死になさい!!」
ルカナ・リリアはあろうことか四股を踏んだ。完全に力士のそれだ。
「私のスピードについてこれるかしら? 喰らいなさい、百裂張り手!!!」
ルカナ・リリアは張り手をしながら俺の方に突っ込んできやがった。
右手、左手、右手。大きな手のひらが空気を押し出して、その空気すら俺を後方へと追いやるような勢いであり、彼女から放たれる鼻息もやはり同じように俺を吹き飛ばしそうな勢いだった。
この体になって体が小さくなっているとは言え、このスケール感はやばい。
こいつに突き飛ばされて俺が穴に落ちたらどうなるんだろう?
そりゃもちろん、死ぬだろうさ。
俺が死んだらどうなる? どうなるってことはないだろうけど、死にたくはないな。
殺されるなら俺はこいつには殺されたくない。もっと俺を殺すには適任がいそうだ。
俺は条件反射的に魔法を使って空を飛んでしまっていた。
ひゅーっという音がした。
しかしそれは俺が飛ぶ音ではない。
ルカナ・リリアが落下する音だった。
「あなたがそんなに飛べるなんて聞いてない!!!!!!!」
フィールドには俺一人を残して、誰もいなくなった。しばらく時間が経つと、さっきまで大きく空いていた穴は自然と埋まっていってしまった。
ルカナ・リリアは自分の作った穴に落ちて、あっけなく消えていったのだ。
その瞬間、俺は初勝利をおさめた。つい先日まで魔法少女ではなかった俺が、魔法少女相手に勝利を掴んだのだ。
否、相手は魔法少女じゃなくてただの怪力女だったかもしれないが。
フィールドを囲う結界は解除され、歓声が聞こえた。その歓声の内容は俺にもわかった。俺を激励する声だ。
『勝者! 青コーナー反町ひなのぉおおおおぉおおぉぉぉおおおおおお!!!!!!!!!』




