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悪友は変態なのです!!!

 普通の高校生が魔法少女になるまで、という馬鹿げたプロットを元にした実話を語ろう。

 正常な精神を持っている人間であればあるほど今から俺が言うことを信じられないと思う。

 だからまず俺の生い立ちから話していくことによって信頼を獲得したい。

 俺の名前は新城新太郎(しんしろしんたろう)

 幼稚園の頃から小学三年生まで魔法少女を夢見ていた、今思えば痛いを超越してしまった男である。

 小学三年生で魔法少女を諦めたということは、その間(俺が小4から高1になるまで)に見ていた夢は何かと言うと実のところ何もない。

 人生で唯一見た夢が魔法少女という、「なんとも残念なやつ」がまさしく俺である。

 

 俺は高校では漫画研究部に所属している。まあ完全に幽霊部員と呼ばれる類の部員で、部室にはもう全然行ってない。近づきすらしてない。

 なんで行かないかっていう理由は単純で、漫研は自分たちが描いた絵を部員の間で回して見るのだ。

 絵を見せあって馴れ合いごっこ。くそくだらねえ。

 俺がそこでガチになって魔法少女の絵を描いたところでただただ恥ずかしい思いをするだけだし、何より漫研の女部員の多さが致命的に厄介なのだ。

 だってさ、漫画を描いている人間は腰を曲げて紙に顔を「今からキスでもすんの?」ってくらい近づけて描くから、近視が多いんだよ。

 近視の人間は凄い顔を近づけて話してくる。

 そういうやつは俺のセーフティーゾーンを簡単に突き破ってくる。

 人見知りの俺はあんまり面識のない人が苦手だし、特に女だとどうしようもないくらい関わるのが難しいタイプだ。完全に思春期って奴かもしれない。自覚ありだぜ。とほほ。

 

 漫研には入部してから2日だけ行ったっきりで、もはや5月にもなろうかとしていた。

 そんな4月29日に事件は起こったのだ。

 

 ゴールデンウィークの休暇を利用して俺は都会の方のアニメ専門ショップに一人で行っていた。

 フィギュアコーナーで憧れのアニメキャラが立体化されているのを拝めるだけで俺は満足だった。

 『クリームキャンディーひなの』の主人公である反町ひなの、それが俺の嫁だ。二次嫁って奴だけどな。

 しかしアクリルケース越しに見える肉体造形、第二次性徴期特有の曲線と直線のメリハリを理解している造形師には脱帽をせざるを得ない。

 この造形師は俺なんかよりよっぽど少女が好きなんだろう。いや、俺は少女が好きなんじゃなくて魔法少女が好きなんだ!

 俺は屈み込むことによってそのフィギュアの下着のクロッチをどうにかして確かめようとした。

 この体勢であればもし前方からショットガンを撃たれても当たらない自信があると言える、それくらいの低姿勢だ。

 キャストオフ不可能のお堅いフィギュアのはずなのに、凝視すればなんだか奥が見えそうだ。

 

 ふむふむ、片足立ちをすると皺はそこに寄るのだな、と俺が感心していると、

 

 ムニッ

 

 というような感触が背中にする。

 なんだなんだ? 俺は思わず後ろを振り向く。

 

 そこに居たのはクラスメイトの飛島明日香(とびしまあすか)だった。

 飛島明日香と言えば、学校一の美女と噂されているほどに可憐な顔立ちでありながら、クラス委員長をやっていて人気も高い所謂高嶺の花だ。

 一歩歩くたびに告白されては二歩目で断ってるとかいう逸話もあるしな。アプローチがしつこすぎると、持ち前のポニーテールで殴られるとか。それも、めちゃくちゃ痛いらしい。鈍し鉄線が束ねられてるとか言ってるやつもいたな。

 俺のクラスメート(悪友)の斉藤なんかは飛島に殴られた一人だ。四百字詰め原稿用紙五十枚分くらいのラブレターを書いたのに、読まれもせずに「ごめんなさい」って言われたとか泣いてたっけな。

 斉藤は泣いてただけでポニーテール攻撃をされたらしい。まさしく泣きっ面に蜂。

 まあ斉藤が告白したくなるもの無理はない。顔は可愛いのに、スタイルも抜群という、寧ろ怖いくらいの見た目120点オンナなのだ。

 しかもそのグラマラスな彼女は今は何故かメイドのコスプレをしている。ここのショップにはコスプレコーナーがあって、そこの店員はコスプレをしている。

 この店でメイド服を着ている人は変な格好をしているわけでなく、制服として着させられているだけなのだ。

 つまり、飛島明日香はこの店の店員ということになる……。

 意外だ、完璧超人にしか見えない飛島にオタク趣味があったなんて。

 

 しかしさっきから妙に背中が暖かいな。

 背中に当たるこの感触は――飛島明日香の――豊満なるボディによるものだ。

 女の子の身体がこんなにも柔らかいなんて俺は初めて知った気がする。

 

 ん? って、つまりはあたってる?

 俺の背中に明日香の、む、胸が……あ、当たっているというのか!?

 

「同級生の新城新太郎くんのエッチなところを私見ちゃったわ~♪ このフィギュアのおパンツそんなに見たいのぉ~? クラスの男子がフィギュアのパンツ覗いてるとか衝撃的映像すぎて私は貴方をこれから正常な目で見れないことが確定しちゃったわ」

 そう言いながら明日香は後ろから手を回して俺の胸をさすり、俺の背中にご自慢の胸を押し付けてきた。

「ご、誤解だよ! これはただデッサン力を鍛えるために立体把握をしていただけなんだ! 飛島こそここで何やってるんだ?」

「ウフッ、そんなに顔を赤くして言われても言い訳にしか聞こえないわよ。というかこの制服着てる時点で何やってるかはわかってんでしょ?」

「む、む……」俺は反論できない。

「デッサン力を鍛えるためって言ったって新太郎くん全然漫研に来てくれないじゃない。そんなにデッサン力を高めたいなら私をモデルにしてヌードデッサンでもしたら?」

 あ、コイツも漫研だったんだ。全然行ってないから気づかなかった。

  

 !?


 というかなんだこの女、俺のことを誘ってやがるのか。

 今、私をモデルにしてヌードデッサンって言ったよな?

「新太郎くんってエッチなんだね! 何考え込んでる顔してんのよぉ!」

「え?」

「そんなの冗談に決まってるじゃない。モデルになってあげるとすれば一千万円くらい貰った時ね。あ、気分によって値段は変わるから安心して!」

「俺は別にお前なんかの裸を考えてデッサンできたら良いなあなんて一ミリたりとも思ってないぞ!!!」

「そう? 嘘ね、それは」

 そうです、確かに嘘です……。

 飛島明日香は俺にウインクをして、そのままレジカウンターの奥へと消えてしまった。

 なんだあの娘、恐るべし十六歳だ……。

 でもああいう可愛い子はすぐに彼氏をつくるし俺なんかとは一切縁のないタイプのやつだな。どう考えてもビッチだったしな。

 俺なんかには手の届かない存在。

 なんだかそう考えると虚しい、虚しくてしょうがないじゃないか!

 

 それから俺の心は焼け焦げたトースターみたいになってしまって何をするにも活力が湧かなくなっていた。

 飛島の胸の感触も背中から消えかけていた。

 だから俺は血迷ったのだ。

 

 俺はおもちゃ屋で魔法少女の変身グッズを買い漁るという暴挙に出た。

 このアニメ専門ショップにはやたらと美少女アニメのグッズが充実しており、その数は実に無限にありそうだった。

 変身用ジュエル、変身用ステッキ、変身ベルト、変身ペンダント、変身リング……とにかく帰りの電車代も特に考えずに変身道具が目については買い続けた。

 

 そしてその買った変身道具を俺は地下鉄のホームで片っ端から試してみた。

 混雑していたので少し迷惑だったかも知れないが、開封の儀的なことは大勢がいるところで見せびらかすようにやるから意味があると思うのだ。

 

 まず最初に開けた変身用ジュエルはポンコツだった。ラメ入りの角張ったプラスチックの塊をぼったくりな価格で売ってるだけなのだ。

 

 変身用ステッキは音が鳴った。ステッキの持ち手部分に赤いボタンが着いており、それを押しながら振ると振った回数によってそのステッキが喋るセリフが変わるのだ。だけどそのセリフは特にかっこいいものでもなかったし、そこまで俺はときめかなかった。

 

 続いて期待の変身ベルト。でもこれは論外だった。なんと俺の別に太くないウエストでも巻けないのだ。恐るべし女児のウエスト……なんて俺みたいな層に親切じゃないのだ。

 というかベルトで変身する魔法少女なんているっけ?

 

 変身ペンダントは首にかけたら凄い重かった。大量のギミックを搭載しているんだけど、それが空回り。しかも俺の求めている要素は一つも含まれてない。ただLEDライトで暗闇で使えば光を壁で反射させて投影機みたいに使えますよってことらしい。これは良いようでよくよく考えれば一番ゴミみたいな奴だ! しかも一番値段が高かった。

 

 で、続いて変身リングなのだが、それが大問題だった。

 リングには特別なオーラを感じていたから、俺は少し手を震わせながら人差し指にはめてみたんだけど、それが人差し指の第一関節を通った瞬間に俺の穴という穴から汗が溢れ出てきた。

 リングは黄金の輝きを放ち、たちまちそれは街全体をも包み込んでしまった。

 俺は寝不足で寝落ちする寸前までヘロヘロになった時くらいの意識の朦朧さでその光の行末を見ていた。

 その光は遥か彼方空中へと飛んでいった。

 やがて光は見えなくなった。

 光が完全に消えたのを見届けると俺の意識は完全にショートした。

 

 目が覚めた時、俺はやたらにガタイの良い男にお姫様抱っこをされていた。

 よ~く観るとそれはクラスメイトの斉藤であることに気がついた。あ、そいつはクラスメイトの男である。飛島明日香に長文のラブレターを書いて告白したのに読まれもせずに振られた可哀想なやつだ。

 しかし斉藤は俺と同じくらいの身長だし、どうやら斉藤はあの光を吸収して巨大化したようだった。

 まったく、なんて怪獣映画に出てきそうな能力を持っていやがるんだコイツは――

 

 と思ってたんだけどコイツは急に俺の胸を揉んできやがった。

 巨大化してゲイにまで目覚めたかと俺は呆れた。

 

 しかし待って欲しい。俺はコイツに揉まれるような胸なんて持ってないぞ。

 

 そこで気付いた。俺は女になってしまっていたのだ。

 斉藤が大きくなったのではない、俺が小さくなってしまったのだ(胸は大きくなったけど)。

 

 斉藤は今も俺をお姫様抱っこしている。

 

 というか俺の胸揉みやがったなコイツ。殺してやろうかな……?

 


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