美しき強力な魔法は、それが猟奇的意味性を孕んでいたとしても見惚れてしまうのです!
花火が打ち上がっているようだった。とにかく綺麗だった。
魔法使いの戦いというのは美しいものなんだ。
魔法陣が宙に浮かび上がっていて、それがエネルギー源となって解き放たれる時に伴う光は、ダイアモンドよりも輝いているようで、その純粋な光から目を離すことができない。
俺はその光景を見ながらただ、ぼうっとしてしまって、情けなかった。
魔法を使えないことがここでは五感が機能していない並に無力であることを思い知った。
川瀬見紀良に対して向けられた無数の攻撃魔法は川瀬見紀良に対して確実にダメージを与えているだろうと俺は推測する。
何故推測するだけかっていうと、あまりの眩しさのあまり川瀬見の姿が確認できないからだ。
でも見えないからと言って、これでノーダメージの人間がいるとは思えない。
もしもこれでノーダメージだったら、核兵器を喰らってもも耐えられるのではなかろうか。
そんな人間この世にいるわけないのだ。
「甘いな……」
「所詮はガキどもか……」
爆風の中から声が聞こえる。
魔法少女しかいないはずのこの場所で、太くてずっしりと低い男の声だ。
それが川瀬見紀良だということくらい、すぐにわかった。
魔法使いは人間を超越しているという絶望がその真実によって伝えられたわけだ。
二百を超える魔法少女たちの攻撃が終わった。
一発一発が全力だったんだろう。
でも川瀬見紀良は傷一つついていない。
「貴様ら如きでは私を殺すことはできなかったか。残念だ。」
川瀬見紀良は大きな魔法陣を張った。
近くの高層建築物がどんどん崩れていく。
この世の終わりみたいな光景だ。
俺はMagiaGameがテレビで宣伝されていたものと全然違うことに失望した。
これじゃあエンターテイメントのエの字もないじゃないか。
『ちょっと!! おじいちゃん。大会をぶち壊してどうすんのよ!?』
この世の終わりかという壮観の中で、脳天気で甲高い声が響いた。
それは主催者、川瀬見紀良の孫、川瀬見さつきによるものだとすぐにわかったが、いったいどこから声がするのかはわからない。
俺は川瀬見さつきを探そうと思って首を横に振ってみたが、まるで見当たらない。
周囲には大量の魔法陣を張った魔法少女たちがいるだけで、川瀬見さつきを探すのは到底不可能に思えた。
そこで俺はなぜだかわからないが上を向いた。
上空にはこのファンタジックな世界観には似つかわしくない、ヘリコプターが飛んでおり、そのヘリコプターから顔を出してマイクで叫んでいるのが川瀬見さつきであった。
祖父がとんでもない魔力を持つ魔法使いでも、孫は魔法を使えないってのか?
『魔法陣を張ってる貴方たち! やめなさい!!』
川瀬見さつきは叫ぶ。
でも魔法陣を張った少女たちは、川瀬見紀良に攻撃を継続する。
川瀬見紀良も、攻撃を防ぐための魔法陣を張っており、緊迫状態が続いている。
魔法の使えない俺はこの場ではどうすることもできない。
ただ戦況をじっと見つめて、自分に被害が及ばないことを願うだけだ。
俺はとてつもない無力感に苛まれたが、こんな中で飛島とか紅音はどうしているのだろうか。
それはもちろんマジョリティとして魔法陣を張って戦っているに違いない。
まさか、死んでいないよな?
「その心配はありません。彼女たちは優秀ですから」
突然喋りかけてきたのは反町ひなの(一号)だった。
気づいたら俺の肩の上に乗っていた、手のひらサイズの俺のあこがれの人だ。
「にしても一号、こりゃどうなっているんだ?」
俺は反町ひなのが俺の肩に乗っているということにも疑問があったが、今はそのことよりも魔法少女たちと大会主催者が戦っている事に関しての説明が欲しかった。
「うーんと、これはあれですね。エンターテイメントです!」
「まじか。でもこれだけ爆発してれば死人が出ていそうなものだけど、本当に大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫じゃありません。死人はこの大会が終わるまでに出まくることでしょう」
「は!? 俺はそんな大会に出させられているのか。というかテレビ局でこれの宣伝をしていたりしたのに、そんな死人がでるような興行をやっていいのかよ?」
「それは、治外法権ですから」
俺と一号が会話をしている間にも空中には火の玉が飛んだり水の玉が飛んだりして、それが全部集中線を引くかのようにして川瀬見紀良に飛んでいく。
その魔法の玉たちをいとも簡単に無力化し、川瀬見紀良は獲物を見つけては攻撃していく。
魔法少女の数は明らかに減ってきている、にしても地上波ではこの光景も放送されているのであろうか?
ああ、大変なことになっている気がするぞ。
この光景が終わる気配もない。
戦争に参加するってこんな気分なのかもしれないな。
そう考えると平和な暮らしってなんと幸せなことなのだろう。
その幸せを急激に崩壊させてきた川瀬見紀良を俺は恨まないといけないと思う。
しかし今は彼に文句を言いに行ける状況ではない。
なぜなら彼は今、無数の魔法少女を相手に一人で戦い、魔法少女を物色しては殺していくという恐ろしいことをしているからだ。
MagiaGameというのは嘘だったのか。
本当は殺戮の目的だけで俺たちはここに呼び起こされたのだろうか。
でもそれじゃあ俺がここに来た理由が謎すぎる。
大会に優勝すれば俺の両親の秘密を教えてくれるみたいなことを言っていたが、今はそんなことよりこの光景をやめさせてほしい。
轟音は響き渡り、耳をつんざく。
『だから、やめなさーい!!!!!!!!!』
川瀬見さつきによる叫び。
ヘリコプターから巨大な魔法陣が出現し、川瀬見紀良がそこに吸い込まれていった。
それにつられるかのように、他の魔法少女たちもどんどんその魔法陣に吸い込まれていく。
その魔法陣は紛れもなく川瀬見さつきによるもので、彼女の魔力の強大さを示すものでもあった。
素人目でもわかることは、彼女の魔力は川瀬見紀良以上である。
ここで疑問が一つある。
じゃあ何でヘリになんか乗っているんだ?
そうこう考えていると、俺ももれなく魔法陣に吸い込まれちまった。