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主催者の有り難い言葉なのです!


 午後一時。

 人々は街の中心部にある、この高層建築物が並ぶ街の中でも一段と馬鹿みたいに大きな城の最上階に集められていた。

 道には真っすぐの赤い絨毯。その奥には頑丈そうな椅子がぽつりと一つ堂々と置かれている。

 座り心地はあまり良さそうではなかったが、装飾は派手だ。

 この階はまるで『玉座の間』と言った感じで、周囲は厳かな空気に包まれている。

 

「新太郎さん、こっちです!」

 反町ひなの(一号)が俺を手招きする。

 一号の身体はここでは不便がないように小型化され、しかも翼を広げて空を飛んでた。恐らく彼女の身体は変幻自在なのだろう。

「ここで列になっててください。あそこの椅子に紀良さんが座る前に並んでおかないと、もしかしたら殺されますよ」

「まじすか?」

「不機嫌になると雷槌が飛んできますからね、比喩じゃなく。ガード魔法が使えれば何とか大丈夫かもしれないですが、ノーガードだと焼け焦げますよ。ですので、ヤバイと思ったらガード魔法を使ってくださいね」

 

 勿論、俺はガード魔法なんて使えない。というか、そもそも魔法なんてどういう原理で使うことが可能なのかもわからない。

 一号に誘導された先にはざっと二百人くらいの魔法少女と思われる女の子達が並んでいた。

 この少女たちは全員そのガード魔法というのは基礎中の基礎と言わんばかりに使いこなせるのだろうか?

 そうだとしたら川瀬見紀良、怒りの雷槌によって焼き焦げるのは俺だけということになる。

 ん? ちょっと待ってよ。魔法少女ってことはこの二百人全員が魔法を使うことができるってことだよな?

 俺はそいつらと闘うってことなのか? いやいや、無理じゃね?

 

「どうしたんですか新太郎さん? 表情が強張っています」

「い、いやあ。俺、もう自信ないですよ」

「大丈夫ですよ! だって本当は男なんでしょ?」

「まあ、そうですね。力も男の時のまんまです」

「力もそのまんまなんですか! ならいけますよ。何を自信なくすことがあるんですか?」

「いや、だって……」

「ご自慢の魔力を使って俺TUEEEEしちゃいましょうよ。それで優勝して、ご両親の真実について知る権利を得るんですよ!」

「いや、だから! 俺はその魔法が使えないんだってば!!」

「え?」

「俺は魔法が使えない!」

「……」

 

 一号は黙ってしまった。硬直状態だ。

 

「あはは、冗談は止してくださいよ~」

「冗談じゃない! 俺は真剣に言ってるんだ。俺は魔法少女でもなんでもない、ただのアニメオタクだ。四月三十日にアニメショップで買った変身アイテムの指輪をはめたことによって女の子に変身できてしまっただけで、それ以上不思議な体験をしたことはない。あっ、空は飛んだよ空は。空は飛べる。これって凄い?」

「え、まじで空飛べる程度ですか?」

「リングをつけたら女にはなれるくらいで、魔法はほとんど使えない」

「恐らくリングをつけたら女になるというのは性転換の魔法ですよ。凄い魔力の必要な魔法なのでポテンシャルは高いはずです、きっと……へへへ」

「それで? 俺は魔法も使わない生身のままで、この二百人と闘えと?」

 俺は鬼気迫る表情で問う。

「いえ、それは違います。本番前にごっそり人数が減りますから安心してください」

 なにかとてつもないことを一号は言い出した気がする。

「ごっそり?」

「少し経てばわかることです」

 

 上空から大きな人影が超高速で降りてきた。

 それは天使のような優美さはなく、閻魔大王かのような人間を選別するために存在があるかのような眼光をしていて、とにかく直視することをはばかられるくらいに悍ましい存在だった。

 下手くそな日本語で形容するしかない程に緊張感を持って上から降りてくるのだ。

 ズシンと、それは玉座に腰を下ろす。

 直感的にわかった。コイツこそが川瀬見紀良である、と。

 

「私は大会主催者の川瀬見紀良である。間もなく、予てより準備してきたマギアゲームが始まりを迎えようとしている。この大会を開催するに際しては様々な批判の意見があった。何故ならこの大会は魔法少女という第一非幻想世界住民の特産物とも言える者達を、ここ第二非幻想世界に転移させて闘わせようというだけの企画として解釈されてしまったからだ」

 

 川瀬見紀良は玉座に座るや否や、そのまま長々と意味不明言語を語り続けた。首一つ動かさず、アニメで言えば止めセル口パクと言った感じの、生命的な自然さを感じさせない独特の不気味さがあった。

 彼の話によると、第一非幻想世界というのが俺たちが元々住んでいた世界で、第二非幻想世界は建造物の一つ一つのスケールが狂ったくらいに巨大な、即ちここである、ということらしい。

 なんだか厨二病的で胡散臭い設定だが、こんな世界に来てしまった以上は俺は黙ってそうなのだろうと受け入れるしか方法は無い。

 

「このゲームを主催した、主催者としての本来の目的は世界中の人々を元気づけるためである。魔法少女たちをただひたすらに闘わせようとするためではない。第一非幻想世界にも人々を元気づけるための大きな大会、即ちオリンピックのようなものがあったりするがあれを開催して盛り上がれる時代はもう限界を迎えようとしている。オリンピックを主催する国に負債を抱え込ませてまで、世界の平和を訴える費用対効果の悪いことを続けていくなど、もはや近代化以前の問題である」

 

 川瀬見紀良はよくわからない演説をしている。現代の社会問題とかを例に出し、大会開催の意義を熱心に唱えている。

 その語尾は熱を持っている。

 この城に集められた関係者と思われる聴衆はそれに合わせて場を沸かせる。

 しかし、俺は川瀬見紀良が本音で熱く語っているからこそ、語尾に熱が出ているのだとは思えなかった。

 それよりかは人を騙すため、何かをカモフラージュさせるため、ミスリードするため、そういう意味での言葉の熱であるようで、川瀬見紀良自体が人々を騙してこのゲームを開催させようとしているようで、ここにいる連中も一枚岩ではないように思えた。

 なんだかそれはナチスを彷彿とさせた。

 ナチスの演説は心理学者たちの計算をもとに演出されたものであるらしいのだが、それを思わせるくらいに、全てが完璧に整いすぎているのだ。

 それが異様に怖い。

 この違和感の正体は完璧に整いすぎていることへの違和感であろうが、とにかく今は演説を聞くしかない。

 でも演説の内容に耳を傾ければ傾けるほど洗脳されていくような気がして恐ろしい。

 

「私は第二非幻想世界を創造した先人たちには多大なる感謝の意を表したい。このマギアゲームが本当に開催される日が来たのだからな!! しかし、何だ……? ここにいる約二百人程度の魔法少女たちには私の言っていることなんて何ら関係ないと言いたそうに退屈そうな顔をしている奴が多くいるではないか」

 

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