ややこしいのです!
「もうすぐ開会式が始まりますので、準備してくださいね新城さん」
「準備? 何を準備すれば良いんですか?」
反町ひなのは困った顔をしたが咄嗟に思いつきの言い訳をすることで言葉を途切れさせなかった。
「えーっと、それは……。そうです、心の準備です!」
「が、頑張ります」
「あ! あとは名前も考えておかないとでしたね」
「名前?」
「魔法少女の新城新太郎っておかしいじゃないですか。だからリングネームみたいなものですよ。名前をつけるかつけないかは自由ですが、正体は隠した方が多分良いと思うので」
確かに、飛島と紅音が本当にマギアゲームに出場するのであれば、俺は正体を隠し通す必要がありそうだった。
「ひなのさんが付けてくださいよ」
「私がですか?」
「はい、そうですよ。ひなのさんは俺にとって憧れの存在なのでそんな方に名付けてもらえれば本望ですよ!」
「う~ん、じゃあ大河マスク」
「却下。なんすかそれ」
「う~ん、じゃあ贅肉マン」
「真面目に考えてください! 俺そんな太ってないし!」
「え、それならビートわろし」
「誰だそれ!!!!!!!!! なんだこの馬鹿野郎!」
「やっぱり名前は漢字で書かれてたほうがいいかもですね、日本人だってはっきりわかったほうがいいですから。ですので、魔女亭新太郎なんてどうでしょう?」
「俺は落語家にでもなってしまったのか!? というか、それじゃあ男だって隠せてないじゃん!」
そして十数分にも亘る相談のもと、俺のリングネームが決定した。
反町ひなの、である。
なった経緯はこうである。
「じゃあ、私の名前をリングネームとして使ってください」
「え?」
「クリームキャンディーひなのなんて、どうせ貴方くらいしか知らないんですから、寧ろ私を有名にするつもりで頑張ってください」
「でもそれだとややこしくない、大丈夫?」
「私は貴方のことを新太郎さんって呼びますから大丈夫ですよ! それと、私の姿は貴方しか見えてないんですよ。だから全然OKですよ」
「俺はあんたのことを何て呼べばいいんだ?」
「一号、とでもお呼びください!」
てなわけで俺はこの世界での名前は憧れの魔法少女である『反町ひなの』ということになってしまった。
今日は反町ひなのに会い、反町ひなのになる。まったくもって意味のわからないが現象が起こっている。
人生とは常にわからないもので、そのわからなさが面白いと思うのだが、このわからなさはいらないだろう。
あこがれの人にこんなにあっさりと出会ってしまって良いはずもなく、俺が魔法少女になって一人前になった時に現れてくれれば感動イベントだったのに、序盤に登場とは演出としてはそこまで面白くない。
もっとじっくりゆっくりと憧れの存在は現れてほしいものなのだが、反町ひなの(一号)はニコニコと俺の方を見ていやがる。
フィギュアのパンツをこっそりと眺める分には良いが、こっちが見られる側ともなると、顔を見られるだけでも緊張してしまう。
この緊張感の中で俺はしばらく過ごさないといけないのだろうか?
――そうは言っても、もうすぐ開会式は始まろうとしている。
それは異世界で行われる、魔法少女による格闘大会。
MagiaGameが今日を持ってスタートするのだ――